普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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5章 私が目指す聖女とは

98.妻は正直者

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 ヨハンがテキパキと動けば大概のことは瞬時に片つく。今回もあっと言う間にリビングにはオレとスピカの二人だけ。

「まさか洗脳のするきっかけがあたしだったとはな。こうなるんなら言葉を選べばよかった」
「そんな酷い振り方をしたのか?」
「まぁな。聞きたいか?」
「いいや。いい。第三者でも精神が病む気がする」

 スピカの落ち込んだ原因がここで分かったが、内容を聞く気にはなれなかった。
 スピカとヨハンの言葉は鋼のナイフで、出会った当初は容赦のない言葉で傷つけられていた。それが正論だから余計に。

 こんな甘ちゃんが魔王どころか忍や四天王さえ倒せない。
 英雄候補がこんな弱い奴らで幻滅した。
 この○○。

 当時は夢にまで見てうなされて、ますます心にゆとりがなくり修行に明け暮れた。
 そしたらそうじゃないとまた罵られて、二人に認められるまでは大変だったかも知れない。
 それ以上のことをαに言ったとしたら、想像しただけでも恐ろしい。

「相手が魔族やエルフであれば、後腐れなく諦めてくれるんだがな。人間は粘着質でウザ過ぎる。大体あたしは人妻で子もいるのになぜいいよってくる? 脳みそ腐ってると思うよな?」
「…………」

 落ち込んでいたはずが話をしているうちに怒りがフツフツと沸いてきたようで、聞きたくなかった酷い言葉を吐き捨て同意を求める。

 口は災いの元とあるが、まったくその通りだな。

 それでもそんなきっかけで無関係な人達を、魔族は人間の敵と言う洗脳をするなど許されることではない。さっさと洗脳を解いて罪を償うべきだ。

「あたしのこと見損なったか?」
「いいや。スピカらしいと思っただけだ」
「それはそれで気に障るが、まぁ今日の所良しとしよう」

 スピカの問いに俺は何気なく答えるが、ムッとそう愚痴をこぼしながらも肩を寄せる。

 これはどう対処をすればいいんだろうか?
 女心と言うものは未だに理解が苦しむ。

「スピカ?」
「とにかくあたしが恋愛感情を抱くのはセイヤだけ。セイヤもそうだから独り身でいたんだろう?」
「まぁな。何度か見合い話や龍ノ介に紹介されたが、興味がなくすべて断ってた。……スピカ愛してる」
「あたしも」

 必然的に唇は重なり合い深く激しくなっていく。ソファの上でスピカは俺に身を任せる。
 たまらなくスピカが今すぐ欲しくなり、手が勝手にスピカのシャツのボタンを外していく。

「君って意外に野獣だよな。良く十四年も我慢が出来たよな」
「自分でも驚いてるよ。前にも言ったが俺の身体はスピカしか受け付けないから、そう言う気になれなかっただけだ」

ようやくスピカの機嫌が良くなり、シャツを脱がそうと……



「あれ誰もいない?」

 星歌の不思議そうな声が聞こえる。
 あと数秒遅ければ、親の破廉恥な格好を見せていた。

「星歌、どうした? お前はここに隠れててくれ」
「だよな? いくらなんでも娘にこんな姿は見せられない」

 何食わぬ顔で返事をしつつ乱れた服を直し、スピカには動かないように指示をする。

 流石に恥ずかしいのか頬を真っ赤に染め、クッションで顔を隠す。そんなスピカも愛らしく唇を奪いたいが、星歌にバレる可能性が高まる。

「あ、パパ。陽が気が付いたから知らせに来たの。龍くん達は?」
「龍ノ介は自室で休んでる。後ヨハン達は男の事情聴取だ。黒幕だった」
「本当に? だったらこれで人間の方は決着だね?」 

 わざわざ知らせ来てくれた心優しい娘に軽蔑されたくない一心で平然と話を合わせれば、星歌の顔にパッと花が咲き心の底から喜ぶ。

 最高だな我が娘わ。

「そうだな。うまく行けば洗脳解錠方法が見つかるかも知れない。そしたら後はシノブを倒し魔族を説得次第人間との和平会議だな」
「なんかすごく簡単そうに言うけれど、シノブは強敵じゃない。パパ、みんなで力を合わせて倒すんだから、その辺忘れないでいてね?」

 日ごろの行いが悪いためなのか、そんな忠告を強めにされてしまった。

 そうするつもりだったが、確かに暴走すると一人で解決しようとするのは俺の悪い癖。さっきも暴走しかけて、龍ノ介とスピカに心配をかけた。星歌のことになると冷静ではいられない。

「そのつもりでいるよ」
「本当かな?」

 星歌の元に行き頭をなで微笑み答えるも、信用はなく疑いの目を向けられるだけ。自業自得だと分かっているとは言え肩を落とし苦笑する。

 失われた信用を取り戻したいとは思っているが、いざと言う時は命を掛けてでも護ると決めている。それは譲れないと星歌に言えば、信用は二度と取り戻せない。だから黙っておく。

「ちゃんと龍ノ介にも頼るから。それと太くんにもな」
「私には? 聖女の力と魔王の力があるんだから、ちゃんと頼ってよ」

 具体的に話せば少しは信用してくれるかと思いきや、どうやら逆効果でへそを曲げ自分もと強く主張。太くんは余計だったかも知れない。

 星歌は聖女なんだから守られる存在であって欲しいが、魔術の才能も魔王の力がある以上そう思うのは過保護でしかない。
 分かっているのだが、頼るとは言えない。

「セイカ、セイヤをそんなに追い込んだら、可哀想だろう?」
「え、お母さん? ひょっとして寝てた?」

 笑いを堪えたスピカがソファーからひょっこり顔を出し、オレの加勢をしてくれる。これには予想してなかったらしく滅茶苦茶驚き、ありがたいことに見当違いなことを問う。
 疚しいことをしていたとは夢にも思ってないようで、ホッとする。

「ちょっと魔力を使いすぎた見たいだ。やっぱりこの身体はヤワすぎるな」
「大丈夫なの? 寝室で寝た方が良いんじゃないの?」
「もう元気になったから大丈夫。それよりもタイヨウに教えた方が良いんじゃないか?」
「え、あ、そうだね」

 星歌の優しさが息苦しい。
 それはスピカも同じようですぐに無茶な修正で元気アピールをするもんだから、星歌に不審がられ曖昧に頷かれてしまう。
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