普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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5章 私が目指す聖女とは

95.パパのメンタル

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「これでどうにか一命を取り留めたな。セイカ、大丈夫か?」
「うん、私は全然大丈夫。むしろパパの方が心配」

 ようやく初老の手当てが終わった。
 疲れ切っているお母さんの問いに、私はへっちゃらと伝えた後パパに目をやる。
 お母さんに滅茶苦茶怒られ、すっかり凹んでしまったパパ。
 パパは私が傷つかないように、初老をぶちのめしたんだからまったく悪くない。 なのにお母さんは貴重な情報源だから、瀕死にするまでぶちのめすなと怒った。

「いいんだよ。あれぐらい。まったくセイヤは頭脳系なのか筋肉馬鹿なのか分からない。こういう時は持っている情報をすべて吐かせてから、最後に思う存分ぶちのめすべきだろう?」
「それは確かにそうだけど、きっとパパは私と血縁関係がないって言われたから、ブチギレたんだよ。それってお母さんを侮辱したってことだから」

 お母さんも相当頭に来ているようで、えげつないことを言い出す。
 お母さんを怒らせるといろんな意味で怖そうと思いながらも、それでもパパの肩を持ち味方する。
 私との血縁関係がないと言われるのは、パパにとって最大の侮辱。
 蛙男の言葉を真に受けたと後日笑いながら言っても、相当ショックを受けていた。数日元気がなく、それは禁句になっている。だから。

 グチ

 せっかく治療した初老の顔を、お母さんは思いっきり踏みつける。
 さすがのお母さんもこれには、怒りを抑えられないらしい。
 
「なんかそれ凄いムカつく!! セイヤ、安心しろ。セイカの笑った時の目尻は君とそっくりだから」
「そうだよ。よく言われてるじゃん」

 ここでようやくパパを励まし始めるお母さんに、私もここぞとばかりに便乗。
 お母さんの存在を知ったことで私はお母さん似だって分かったけれど、目元はパパそっくりだってみんなに言われてる。しかも鼻はおじいちゃん似だから間違えない。

「そうだったな。……後先考えない行動を取ってすまない」
「気にしなくていいよ。終わり良ければすべて良しって言うじゃん」

 まだ初老から何も聞けてないから終わり良ければすべてよしじゃないかもだけど、パパを復活させるにはこれがベストな回答。

 そしてお決まりパパの胸元へダイビング。これで完了。

「ありがとう星歌。もう父さんは大丈夫だ」
「本当に君って単純だよね。まぁこの場合それでいいのか。そんじゃこいつを我が家まで運んで。意識が戻り次第、ヨハンとリュウノスケに聴取してもらおう」

 元気になったパパと、呆れながらも大目に見てくれるお母さん。なんだかんだ二人はやっぱり良いコンビだと思いながら、三人仲良く我が家に帰ろうとしたけど

「おっさ~ん、大変だ」

 太の大声が聞こえ、すごい勢いでこちらにやって来るのが分かった。
 久しぶりに太の姿を目にすると、真剣な顔つきは男らしくなっていて腰には私が作った聖剣を装備していた。

 と言うことはつまり太の洗脳は解けた?

 そう思ったらこの状況からして多分緊急事態なのに、ドキドキが止まらない上変にテンションが上がっていく。
 このまま太と会ったらとんでもないことをやらかしそうだったから、とっさに木の裏に隠れ様子を伺うことに。お母さんはそんな私に気づいてクスクス笑っている。

「太くん、一体何があったんだい?」
「陽と師匠が敵のアジトに閉じ込められた。アジトは電流が流れていて入れないんだ。今すぐオレと一緒に来て欲しい。──このおばさん誰だ?」
「おおばさん?」

 切羽詰まっている様子で状況を説明されるけれど、龍くんが一緒ならそこまで緊急事態ではない。
 むしろ陽にしてみれば絶好の……なにもないと良いんだけど。
 そんなことよりお母さんの存在に気づきいた太は首を傾げ、何も知らないから聞ける禁句を口にする。お母さんの和やかな表情がサッと消え、太にファイナルアンサー。怖い物が背後に動き回っている。

「この女性は俺の妻で、星歌の母親のスピカ」
「!? 星歌の母ちゃんって確か魔族だろう? なのにどうしてオレは平気なんだ?」 

 気まずそうにパパからお母さんの紹介をされるも、反応したのはちょっとずれていた。
 当然お母さんをおばさん呼びしたら後が怖いなんて夢にも思っていない。

「聖剣には洗脳を解く力があるそうだ。スピカを見ても平気であれば、星歌も大丈夫ってことだよ」
「本当か? だったら星歌、どこにいる?」

 疑うことなく鵜のみにしてキョロキョロと辺りを見回し私を呼ぶ。、これ以上隠れる訳にもいかず、恥ずかしながら太の元へと行く。

 心臓がありえないほど高鳴って、これ以上何かあったら爆発してしまいそう。顔を合わせて会話が出来るのは、こんなに幸せなことだったんだね?
 今まで当たり前すぎて気づかなかった。

「太、元気そうだね?」

 変に思われないようになんとか言葉を振り絞り、太の元に駆け寄る。

 私、今どんな表情をしてるんだろう?
  変な表情してないかな?

「ああ、オレはすげぇ元気だった。星歌、会いたかった」
 
 私を見るなり太は屈託のない笑顔に変わり、なぜだろう? 私をギュッと抱きしめ耳元で囁く。
 その瞬間お母さんが“うわお❣”呟いた気がするけれど、今の私はそれどころじゃなく心臓の高鳴りは爆発寸前だった。

 何?
 何が起きてるの?

「つ太?」
「オレ星歌にちゃんと伝えたいことがある」
「え? 伝えたいこと?」

 声が裏返りテンパる私とは違って太は極めて冷静で、言葉通り何かを伝えようとした瞬間。

「太くん、今は龍ノ介と陽ちゃんを助ける方が先決だろう?」

 パパが怪訝しく口を挟む。こんなこと初めてでびっくりする。

 まさか私と太の仲を邪魔した?
 ううん。パパに限ってそれは絶対にない。
 
「あ、そうだった。星歌、この続きは後で絶対に言うからな」
「うん。あのね太。私太のこと大好き!!」

 当然本来の目的に気づいた太はそう言って、私から離れようとするけれどそれを許さず。太に密着させ、告白後ほっぺたに軽くキス。

 太は目をぱちくりさせ、頬を赤く染め立ち尽くす。パパは顔を青ざめ溶けてしまいました。
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