普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

文字の大きさ
上 下
109 / 157
5章 私が目指す聖女とは

90.いい加減にして下さい

しおりを挟む
『いただき──』
「今帰った」

 ようやく朝食が出来上がりみんなで食べようとしたら、ドアがバーンと開き龍くんが入って来る。予定では昼過ぎと言われていたため、私達は驚き龍くんを注目。隣には黒崎とヨハンさんもいた。

「早かったな」
「ああ。リュウとつよし・黒崎の三交代で飛ばして来たからな」
「ならすぐお前達の朝食も準備をするな」
「あたしも手伝う」

 せっかくの朝食がお預けになってしまい、パパとお母さんは当然のようにキッチンに戻り料理を再開。私と言えば食べる気満々だったので、お預けされて落ち込み度が半端ない。
 目玉焼きのせハンバーグのいい匂いに、気を引き締めてないとお腹の虫が大きく鳴ってしまいそう。

「そうしてくれると助かる。大地、太を二階に連れて行ってくれ。ヨハンはアリアとステーフのことをお願いしていいか?」
「了解」
「分かりました」
「あ、黒崎くん待って。私も行く」

 そんな私をよそにみんなはテキパキと動き始め、あっという間にリビングには私とチョピだけが残される。
 私も何かしたいけれど、動く元気さえない。

【セイカ、食べちゃダメ?】

 以前だったら勝手に食べてたのに、今ではちゃんと聞いてから食べるようになった。
 チョピも私と同じぐらいお腹を空かしているのか、瞳をウルウルさせ私を見上げる。

「みんなで食べた方がおいしいよ。でも……ウインナー一本ぐらいだけならいいか」
【本当に? やった!!】

 チョピの愛らしさと自分の空腹そして匂いに負け、そう言いながらフォークでウインナーを差し豪快にかぶりつく。

 パリッ

 CMさながらの美味しい音がする。

 外はパリッと香ばしく、中から肉汁がジュワッと口の中に広がりジュウシー。あまりの美味しさにほっぺたが落っこちて、あっと言う間に一本食べきってしまう。無意識に二本目突入しかけるも、ハッとなり慌てて手を止める。

 食べていいのは一本だけ。

「チュピ!!」

 チョピにも大満足のようで幸せいっぱいの表情を浮かべ、一本だけと言ったのに三本あったソーセージをすべて間食。それでも物足りないのか今度はハンバーグに狙いを定めている。

「チョピ、ストープ」
【あ、そうだった。でもボク余計にお腹空いた……】
「それは私もだけど……」
「星歌はチョピと先に食べてていいんだよ。夕食食べてないんだから」

 間一髪で止めに入りチョピも我に返り食べるのを辞めてくれるも、パパがやって来てにっこり笑い私の決意を揺るがす。
 きっとパパのことだから私のために言ってくれているとは思うんだけど、ここまで待ったんだからみんなと一緒に食べたいんだよね?

 …………?

「え、チョピも夕飯食べてなかったの?」
【うん。セイカと一緒に食べたいから我慢した。だからボクのお腹すごく減ってるんだ】

 食いしん坊のチョピがそんな理由で食事抜きしたなんて驚きで、だったらこれ以上待たせるのは残酷なんだと思う。かと言って一人で先食べてと言ったら、せっかく私を待ってくれてたのに可哀想だよね? 

「だったら先に食べちゃおう」

 私が折れてチョピと二人で食べることにした。




「お、星歌。美味しそうなの食べてんな」
「うん。ソーセージもハンバーグも絶品だよ。あ~んして」

 美味しい美味しい朝食にすっかり気が緩んでいたと言った。
 戻って来た龍くんの言葉に深く状況を考えずに残っていたソーセージを龍くんの口元まで持って行く。一瞬驚く龍くんたったけど、すぐに元に戻り口を大きく開き残りをパクッと食べる。
 そして手のひらを合わせてご馳走様して席を立つ。ショックする黒崎とほほ笑むリュウさんの姿も目に入る。

 だからさっき龍くんは一瞬ばつが悪いと思って驚いたんだ。ちょっと気が緩みすぎてやっちゃったなと思いつつ、まぁそのぐらい見られてもどうってことないだろう。
 ただ龍くんが物欲しそうな顔をしていたから、食べさせてあげただけ。
 それにしても黒崎はどうしてショックを受けた表情をしてるんだろうか?
 私が龍くんに片想いしていると思われ……それはないか。黒崎は私の好きな人を知ってるもんね。
 それとも私とはまったく関係がない所でショックを受けただけ?

「黒崎、なんかあった? 私で良ければ相談に乗るけど?」
「なんでもないから気にしなくてもいい」
「そう?」

 余計な詮索だったのか素っ気なく突っぱねられ、空いてる席に座った。リュウさんも黒崎の向かいの席に座る。
心 配もあったけれどちょっと気になっただけだからショックはなく、これは深入りしたら駄目なんだろうと素直に受け止め別の話題に変えることにした。

「龍くん、後でちょっと付き合って欲しい所があるんだけれど、いいかな?」
「それってリリアンの工房か?」
「うん、そう」
「オレも剣のメンテに行くつもりだったから、ちょうどいいぜ」

 快く龍くんは頷いてくれるも、不気味な笑顔がちょっと怖い。
 何もかもを見抜かされた眼差しで見つめられて、顔が近づいてくる。

「聖剣の性能を試したいんだろう?」
「え、うん」

 もちろんキスではなく耳打ちをされるだけ。紛らわしい。

 ガタン

「ダイチ、大丈夫か?」

 大きな鈍い音がしたかと思えばリュウさんの声もするので慌てて横に視線を変えると、黒崎が椅子からずり落ちていておでこをさすっていた。見るから痛そうで何かあったのか聞こうとしたけれど、すぐに真相に気付き龍くんを見上げればいたずらな笑みを浮かべている。
 つまり龍くんが紛らわしい行動をしたのは、よく分からないけれど明らかに黒崎をからかうため。教師だしからぬ行為以前に、人間としてもどうかと思う。

「龍くん、やり過ぎだよ」
「良いんだ。黒埼は星夜同様少し生真面目過ぎるから、こうやってたまには息抜きさせないとな」
「…………」

 心底から呆れて何も言えない。

 言いたいことは何となく分かるけれど、なんでそれで私が捲き込まれないといけないの?

「黒崎、大丈夫? 今のは耳打ちされただけだから、絶対に変な誤解しないで」
「そうなのか?」
「うん。例え龍くんにキスされたとしても、私と龍くんは親子の関係でしかないから」

 一応黒崎の心配はした上で誤解のないよう強く訂正すると、やっぱり誤解していたようできょとんとしてしまう。更に釘を打ち、食器をキッチンへ持っていく。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...