普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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5章 私が目指す聖女とは

89.昨夜の大失態

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 目が覚めるとカーテンの隙間から太陽の日差しがこもれ、朝だと言うことが分かる。でももまだ起きたくなくって、布団の中でまどろんでいた。隣ではチョピが幸せそうにスヤスヤと寝ている。
 この瞬間が幸せ。

 だが、

 だんだん意識がハッキリして行く中、昨夜の出来事を思い出しガバッと飛び起きる。

 私眠いからってパパにおんぶを催促しておんぶされて………眠りについた?
 家に帰った記憶がまったくないと言うことは、パパがここまで連れて来てくれ寝かしてくれた。

 みんなにおんぶされた所を見られた?

 嫌な予感がさっと過り身なりを確認すれば、私はパジャマ姿。

 またパパに? いやお母さん? それとも陽?
 ここにはどんなにやらかしても冷やかす人はいないけれど、それでも見られたことが恥ずかしい。

【セイカ、おはよう。どうしたの?】
「あ、チョピ、おはよう。私昨夜どうやって家に帰ってきて、寝たの?」

 チョピも目を覚まし声をかけられ不思議そうに聞かれるから、恐る恐る真相を確かめる。

【セイカのパパにおぶわれて帰ってきたよ。起こしても起きないから、セイカのお母さんがここでパジャマに着替えさせて寝かせてたよ】

 予想通りの回答をチョピは明るく言って、私に飛び付きキスをする。

 別に良いけれど、なぜいきなり?

【昨日のセイカはすごく甘えん坊さんで可愛かったんだよ。だから今日のボクは甘えん坊さんなの】
「!?」

 聞きたくなかった真実に絶句する私に、よく分からない理屈をこねるチョピはすり寄り尻尾も絡める。

 まったく記憶にございません。
  信じたくもないです。

 でも私にはどうやら昔から赤ちゃん返りし、パパと龍くんに甘えまくる時があるらしい。
 初めて聞かされた時は冗談だと思って信じなられなかったけれど、動画に撮られ見せられて泣きながら納得したと言う苦い記憶がある。

 グー

 お腹の音が大きく鳴り響く。

 いつものことなんだけれど、なんで私のお腹の虫は空気が読めないんだろうか?
 こんな所で普通は鳴……そう言えば夕飯食べてないんだった。
 私の身体は精神的ショックよりも、空腹の危機を優先した……。

【セイカ、お腹空いたんだね。ボクもだからキッチンに行こう】
「そうだね」

 空腹には勝てるはずもなくチョピの提案に乗り、身なりを軽く整え憂鬱な気持ちのまま部屋を出る。同じタイミングで隣の部屋からお母さんが出て来て、私の顔を見るなり満悦の笑顔を漏らし私の元にやって来てギュッと抱きしめる。

 ???????????????

「セイちゃん、おはよう。よく眠れた?」
「おはよう。うん、よく眠れたよ」

 最大級のイヤな予感がする物の払いのけるのは可哀想で、とにかくお母さんと話を合わせる。

 星ちゃんって、何?

「それは良かった。昨日はあたしの知っているセイカが戻ってくれて嬉しかった。これからもたまにで良いから、昨夜のようなセイちゃんに戻って欲しいんだ」
「お母さんが知ってる私って……二歳児の私?」
「正確には一歳児だがな」

 滅茶苦茶ご機嫌のお母さんのありえない台詞を聞いた途端、多分私の顔から血の気がサッと引き真っ青になる。信じたくなく拒否反応を起こす。

「……陽にその姿見られた?」
「いいや。あたしの知っているセイカに戻ったのはセイカの自室でのことだから、ヒナタとヨハンは知らないよ。それにセイヤにこのことは他言無用とキツく口止めされている」

 そんな娘の姿を見てようやく事態に気づいたお母さんは、驚きながらも最悪事態までにはなってないと教てくれる。
 そうであっても失態は失態で恥じるべきことなんだろうけれど、取り敢えず両親の前だけだったらギリセーフだと思いたい。そしてパパのナイスアシストには感謝だ。

「うん、昨夜のことは家族の秘密だよ。知られたら恥ずかしいから」
「分かってるよ。あたしにもこれでようやく家族の秘密を持てた」

 私からもちゃんとお願いするとお母さんは満足そうに頷いてくれたので、これで本当に昨夜の件は闇に葬ることが出来た。
 ホッとしたら余計にお腹が空いてきて、早くなんでも良いから食べたい。
 
「お母さん、夕食の残りってある?」
「ハンバーグと言う物があるはずだから、焼いてあげよう」
「え、ハンバーグ? パパのハンバーグは絶品だから楽しみ」

 聞いただけでよだれが出て来そうなメニューだった。
 パパの料理はなんでも絶品だけれど、中でもハンバーグは五本の指に入るほど。

 トゥーランには挽肉と言う物がなかったので、ハンバーグは本当に久しぶり。確か挽肉の料理はラザニアが最後だったような?

「セイカもハンバーグが好きなのか? ヒナタもすごく喜んでいて、感動してたよ。ツヨシにも残してくれと頼んでた」
「うん。多分みんな大好きだと思うよ」

 ハンバーグが嫌いと言う人も中にはいるとは思うけれど、少なくても私の知る限りではみんなが好き。太だけじゃなく龍くんも黒崎だって食べたいはず。

 待てよ。ハンバーグが作れるなら餃子や春巻きそれから麻婆豆腐も作れるのかな? あ、ハンバーガーも食べたい。

「確かにハンバーグは絶品だったな。と言うよりセイヤが作るものは、すべてお世辞抜きでおいしい」
「そうだね。だけどハンバーグのお肉はどこで手に入れたんだろうね?」
「一昨日セイヤが狩ったモンスターを昨日さばいていたから、その時に作ったようだ。ソーセージと言う物も作ってた。あれはお酒のつまみだな」

 まさかまさかの手作りとソーセージまでとは驚きだった。
 パパの料理スキルは計り知れない。




「三人ともおはよう」
「あ、パパ。おはよう」
「チュピ」

 下に降りるとパパに声を掛けられ視線を合わせると、パンパンのエコバッグを肩掛けかごを持ったパパの姿があった。ワイルドパパには似合わない組み合わせ。

「おはよう。一体朝からどこに行ってたんだ?」
「卵とチーズとミルクの調達だよ。星歌にとびっきり美味しい朝食を作ろうと思ってな」
「君は朝から元気だな。だったらあたしのも頼むよ」
【ボクも食べる】

 私も思ったお母さんの素朴な問いに、何気ないでも張り切ってるパパらしい答え。
 パパのとびっきり美味しいと言ったら間違えがないので、私達の心は完全に奪われたのは言うまでもないだろう。四人仲良くキッチンへ向かう。
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