普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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5章 私が目指す聖女とは

80.聖女として

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「あれ、ここは私の部屋?」

 気がつくそこは自分の部屋のベッドだった。チョピは枕元でまだ眠っている。

「星歌、体の調子はどうだ?」
「うん。大丈夫」
「それなら良かった。熱も下がったみたいだな」

 丁度部屋に入ってきた浮かなく深刻な表情をしたパパがすぐにやって来て、おでことおでこをくっつけ具合を確認される。
 頭痛やだるさも消えていて気分もすっきりしているから、安心させるため元気に頷いて見せた。すると私の顔をのぞき込みパパはホッとし微笑む。

 この調子だとどうやら私は意識を失ったみたいだけど、だからと言って私はなぜ自分の部屋にいるんだろう?
 レジストに行くまで家は封印と言っていた……まさかここはもうレジスト?

 慌てて窓から外を見ると廃墟化した場所で、夕焼け空になり始めている。

「ここはどこ?」
「さっきと同じ村だよ。ここで龍ノ介達と合流することにしたんだ。順調に行けば明後日には到着するらしい」
「ありがとうパパ」

 だから私と陽がくつろげるように家を出してくれた。心優しいパパらしい配慮だとすぐに分かり、嬉しくてパパに抱きつきお礼を言う。さっきとは違い心の底からの感謝。

「これくらいどうってことないさ。それより星歌のおかげでアンデッド化は阻止され、すべて村の人達と協力し埋葬を終えた」
「え、生き残りがいたの?」 
「ああ。二十人弱だがな。ヨハンの知人家族は全員無事だったよ」
「そうなんだ」

 思わず良かったと言いそうになったけれど、多くの人が亡くなっているんだから不謹慎だと思ってゴクンと言葉を飲み込む。
 知り合いが生きていたら、他の人はどうでも良いって思ってはいけない。二十人とは人口に対してどのぐらいなのか気にはなったものの、聞いてどうすると思う内容だしもしあまりにも少ない人数だったらショックが大きい。

 魔王軍はどのぐらい奇襲をするのだろうか? さすがに人間はそこまで馬鹿じゃないから、もう奇襲対策を完璧にしていると思いたい。
 むしろ逆ギレした人間が、魔族に奇襲を掛けないか心配だな。

「それじゃぁ父さんは復旧作業に戻るな」
「うん。そう言えば陽は?」
「陽ちゃんも部屋で休ませてる。星歌も今日はゆっくしてなさい」

 今日の所はパパの言うとおり、ゆっくりさせてもらうことにする。
 無理矢理聖女の役目を果たすんじゃなく納得出来ることをしたいし、パパ達ともちゃんと話し合う。

 聖女だったら民達の安全を第一優先に考えるべきだろうけれど、あいにく聖霊であるチョピ自身が役目より自分を大切にしてと言ってくれている。私だってそれは願い下げだ。
 でもこうやって残酷な現状を目の当たりにしたら、なんとか助けたいと思ってしまうのが人情と言うもの。
 となるとさっさと審判の花まで行って祈りを捧げフェイリルに加護を受ける。
 試練とはどんな物だが分からないけれど、さすがにそれぐらいは聖女としてやり遂げて見せる。
 そしてそのまま魔王城に直行してシノブを倒し……と言っても戦いの中心はパパと龍くんになるんだよね? それとも浄化の光だったら、私でもシノブを倒せるかな?

「結局シノブって何者なのんだろう?」

 今さらながらその疑問に辿り着く。

 一度死んだと思われたラスボスが異世界で生きていて、やっぱりラスボスで私達の行く手を阻む。
 考えられる可能性としたら、地球に来たのは影武者かコピー人間。あるいは命からがら逃げ帰って来た。

 シノブも実はお母さんと一緒でホムンクルスだから、体は脆く滅茶苦茶弱いと言うオチはないのかな? もしそうだったらパパが瞬殺して、人間と魔族の和平会議は簡単なのにね。
 なんて軽い現実逃避をしてしまうけれど、いくらなんでもそれはないだろうと思い苦笑する。

【セイカ、どうしたの?】
「え、チョピ? ちょっとこれからのことを考えていただけ」

 まだ寝ているとばかり思っていたチョピから声を掛けられ、慌てて視線を下げたいしたことないと答える。

 もし私の心を読まれてたら恥ずかしい。

【これからのこと? 審判の花に行くんでしょ? そして人間の洗脳を解いて、魔族と和平会議が出来ればいい】

 どうやら心を読まれてはいなかった。
 当然とばかりにチョピが思うこれからのことを淡々と話し出す。しかもシノブのことが完全に抜け落ちている。確かにシノブさえいなければ、聖女の役目は簡単なのかもしれない。

「前にも言ったと思うけど、そのためにはまずシノブを倒さないといけないの」
【うん、知ってるよ。でもそれはセイカのパパ達に任させればいいんじゃないの?】
「だからと言って全部丸投げには出来ないでしょ?」

 会話をしても弱冠とんちんかんなやり取りに、まずはチョピとの対話が必要なんだと思った。

 チョピの望みは、人間と魔族が手を取り合う平和な世界にすること。
 それには洗脳を解くのも必要だけれど、シノブがいたらそんな世界は訪れない。そして洗脳を行った主犯を見つけ出し、説得する必要がある。
 そこまですべて理解してるんだろうか?

【ボクの望みを叶えるには、いろいろなことを片付けていかないと駄目なんだよね? そこまでちゃんと考えていなかった。ごめんなさい】

 私の心を読んだのかシュンとなったチョピは、自らちゃんと反省し謝罪。
 そんな姿は愛らしいけれど可哀想になり、そっと抱きあげモフモフする。

 フサフサで気持ちいい。

「分かってくれれば、いいんだよ。これから一緒にどうしたらいいか考えよう」
【ありがとう。でも審判の花には行くんだよね?】
「うん、それは一刻も早く行きたい。もう人間と魔族を戦わせたくないんだ。だから魔王軍と遭遇したら、迂回なんかしたくない……」
【なんだ。もう答えは出てるんだね? それならボクも協力するよ】

 まずはチョピと一緒に考えようとしたはずが、いつの間にか答えが出ていたことに気づきハッとなった。

 そうか。
 悩んで考えなくても私の答えは、最初っから決まっていた。聖女の役目も私のやりたいことも同じだったんだね。

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