普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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5章 私が目指す聖女とは

75.予期せぬ事態

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 お母さんが戻って来て一週間が過ぎた頃、今夜の食材となる山菜採りの帰り道大事件が起きた。

 お母さんが戻って来たことで、パパは以前にも増して覇気満々で幸せオーラも全開。外見はワイルドイケメンだから、この状態で地球に戻ったら滅茶苦茶モテる。
 お母さんは嫉妬しな……トゥーランでは多夫多妻が認められてるんだからそんなことないか。

「お母さん、もしパパがお母さん以外に好きな女性が出来たとしたら、それは喜ばしいことなの?」
「は、セイヤに? そんなの出来るはずないだろう?」
「そ即答?」
「だってそうだろう? 写真やDVDで見たあいつは生気をなくした屍のようなダサ男。あんな男を好きになる物好きな女はいないと思うが」
 
 興味本位で聞いた私が悪かった。
 なんの冗談かと言わんばかりの表情を浮かべ考えることもなく即答。しかも愛する夫のはずなのに容赦のない感想付きで、いくら真実と言えどもパパがお気の毒だと思えた。
 度々お母さんに言い負かされているのを見ていると、ひょっとしたらパパはMなのかも知れない。

 なんてお馬鹿なことを考えているとお母さんは突然立ち止まり、何かを見つけたのか林の奥に視線を変える。私も無意識にその場所に視線を向けるれば、えらくご機嫌に見えるマヒナさんが誰かと話していた。相手の姿は丁度木の蔭に隠れていて見えない。
 まるで密談しているように見えて、マヒナさんをイマイチ信用していないのもあり怪しさ1000%。

「怪しいな。少し近づいてみるか?」
「うん、そうだね」

 お母さんも私と同じく怪しんでいて、そっとマヒナさん達に近づき腰を落とし林に身を隠す。

「作戦は今の所おおむね順調のようです」
「いい気味だ。まったく魔族皆殺しなど愚かな計画をするからこうなるんだ。それで母様を殺害し、セイカまでも殺そうと企む糞虫供は捕らえたか?」

 初っぱなから耳を疑う事実を聞いてしまい、私と母さんは目を丸くさせ声を上げそうになるも慌ててお互いの口を塞ぐ。

 マヒナさんはお母さんを殺した犯人を……村人達じゃないの?

「いいえ。勘付かれたらしく逃げられました。現在全力で探しております」
「そうか。絶対に生け捕りにするんだぞ? 計画通り糞虫供は民衆の前で公開処刑する」

 重い話はなおも続く。

 興奮気味のマヒナさんは怖いけれど、殺したいと言う気持ちはなんとなく分かる。
 私達は見つけ出しまずは話し合いをするつもりだけれど、本当はパパも殺したいほど憎いはず。

「分かっております。連中達さえいなければ、人間も少しはまともに──」
「なるわけないだろう? 母様は人間と魔族の共存を夢見ていたが、そんなのは理想郷でしかない。やられる前にやらなければ殺されるだけ。これで魔王族唯一の生き残りであるセイカとシノブの婚姻が成立すれば、今度こそ魔族がトゥーランを支配出来る」
「!!」

 とんでもない許しがたい計画を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になり体中の力が抜けそうになる。そんな私の手を掴みお母さんはそっとその場から立ち去り、少し距離を取った後全速力で我が家へ向かう。


「セイカ、大丈夫。あなたには私とセイヤ。それに仲間だっている。絶対にそんな企み阻止するからな」
「お母さん……」

 我が家に着くまでお母さんは呆然となる私に、ずーと力強い言葉を投げかけてくれた。




「マヒナの奴、一体何を考えてるんだ? セイカとシノブの婚姻などあってはならぬ。しかも魔族が世界を支配する? 世界大戦を再び始めるつもりか?」
「残念ながらもう始ってしまいました」
『!!』

 我が家に帰りつよし以外の全員リビングに招集させ、お母さんがマヒナさんの話を一語一句漏らさず話してくれた。パパと陽はあまりのことに絶句し、ルーナスさんは大激怒。縁起でもないことを言葉ににすると、リュウさんの声がそれを援護する。
 いないはずの人の声に一同驚き声がするドアに注目すれば、ドアは開きリュウさんとセレス姫それからステーフさんの三人が入ってきた。
 三人とも服はボロボロで特にリュウさんなど怪我をしていて、言葉通りならここまで命からがら逃げて来たんだろう。

 すでに事態は最悪に動き始めている。

「リュウ、一体何があったんだ?」
「明朝方ブラッケンが魔族軍の襲撃を受けました」
「は、ブラッケンは鉄壁の聖都と呼ばれる五大都市の一つだろう?」
「はい、そうです。要となる城周辺はなんとか死守しましたが、次に耐えられるか分かりません」

 更なる追い打ちをかけるように悲惨な現実を突きつけられてしまい、今まで冷静に対処していた龍くんさえもが驚きを隠せず動揺しだす。
 私も結界の塔はブラッケンの護りは完璧だと聞いていただけに、ショックが大きい。

 ブラッケンには特に親しい……

「ナーシャさん。それからミシェルちゃん達は無事なんですか?」

 思い出した数少ない親しい人達の無事を確認する。

「ナーシャさん一家は無事ですが、民衆は分からないです。オレは姫付きの騎士なので、落ち着いた所で母上と合流しこちらに来た次第です」

 悔しそうにリュウさんは答えた。セレス姫を命に代えて護るのがリュウさんの役目なのだから、この判断は誰がなんと言おうと正しいんだと思う。
 だから本当ならだったらミシェルちゃん一家を捜しに行くって言いたいけれど、お尋ね者の私が行っても迷惑になって騒ぎになるだけ。それどころか通報され捕まれば、確実に公開処刑……。

 考えるだけでも怖ろしい。

「これからどうすればいいんだろう? こうなった以上いくら洗脳を解いた所で、話し合いはもう無理だよね?」
「それは分からない。もし忍がすべての元凶であれば、当初の計画通り忍を倒し人間の洗脳を解けば和平交渉だけでも出来るはずだ」
「もしもじゃなくって確実だろう? あいつには前魔王と同じで良心の欠片もない」

 恐怖に脅え後ろ向きなことしか考えられず口にしたら、龍くんは前向きに確かにそう思うことを言ってくれた。そして他人を悪く言わないパパが忍を全面的に悪人認定をしてくるから、驚きすぎて恐怖など吹っ飛んでしまう。

「セイヤ、どうした? 君がそこまで言うとは珍しいじゃないか?」
「当たり前だろう? あの男は星歌の命を狙っていると思えば、今度は結婚すると言い出す始末。星歌を物としか考えてない野郎だ。お前はそれでも平気なのか?」
「平気なわけないだろう? 一度や二度ぶっ殺したって物足りないね」
「俺も同じだ」
『…………』

 お母さんも私と一緒で驚くもパパの答えに感化され、物騒でしかないことを言いだし二人は意気投合。あまりのことに一同ドン引きする。

 触らぬ神にたたりなしと言うのはこのことなんだろう。
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