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4章 それぞれの愛のかたち
72.ありがとう
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そう言えば太が星ちゃんと話したがっているから、トレーニング室に行ってきなよ。
陽に詳しい事情を聞き出そうとする前にそう言われてしまい、ちょっと迷いもした物の私も太と話したかったから頷きトレーニング室に向かった。
「太?」
「星歌、来てくれたのか?」
「うん。ピアスありとう。すごく気に入ったよ」
「おう。それなら良かったぜ」
一週間ぶりの太との会話。
声を弾ませピアスのお礼をすれば、太の声が軽く弾む。その反応がますます嬉しくて、ドアの前にある椅子に座る。
久しぶりだから緊張するかなと思ったけれど、相手が太だからそんなことは全然なかった。目の前の景色が輝きだす。
「ずいぶん強くなったんだね? 私ももっと頑張らないと、賭けに負けちゃうかも?」
確実に私の方が賭に負けてるけれど、あえて自分に言い聞かせるようそう言う。
「!! そんなことない。オレはまだまだ弱い。一度負けたぐらいで心が折れてしまう程弱いんだ」
「!? 何があったの?」
声援を送ったつもりで言ったはずが地雷を押してしまったようで、今まで聞いたことのない弱音を聞いてしまった。言葉通りにもがき苦しみ悩んでいる。
陽の様子がおかしかったのは、このことだったんだ。
この場合は私はなんて言えば良いのかな?
肯定する?
否定する?
落ち込んでいる太の力になりたいけれど、どっちも正解でもあり不正解かも知れない。
「……地球に陽を連れて戻りたいの?」
「陽はオレと違って役に立つから、戻るつもりはないと言っている」
「え、どう言うこと?」
「オレは最強級モンスターに手も足もでなかった。陽とリュウがいなければ、死んでたと思う」
「そんなの当たり前だよ。最強級モンスターなんて滅茶苦茶強いんでしょ?」
陽に助けられた? と言う疑問はあるけれど、それは今聞くことじゃないのでスルー。
「ああ、分かってた。だが負けてようやく気づいた。どんなに修行しても敵わない強敵がいるかも知れないって。怖い死にたくない。ここから逃げ出したい」
「…………」
思いの外闇は深い。やっぱり何を私が言っても、きれいごとにしかならない。
私はトゥーラン人で魔王の孫娘。
何があったとしても、パパと龍くんに護ってもらえる。
でも太は地球人で、トゥーランとは関係がない。巻き込まれただけなのに自分の身は自分で護らないといけない。
本当も何も無関係な太からして見れば理不尽なんだろう。それなのに私は太だけでなく陽の優しさに甘えていた。
「太……ごめん」
考えた末に出た言葉は心からの謝罪。今の私に言えるのは、このぐらいしかない。
悲しくて胸が痛くて涙があふれこぼれ落ちる。
いつだって自信満々だった太のプライドを私が傷つけてしまった。
どうやって償えばいいんだろう?
「なんでそこでお前が謝るんだよ」
「だって私が原因だから。太陽を巻き込まなければ、太はここまでの挫折を味わなくてすんだ」
謝罪の意味が分かってない様子だったから、今度は誰にでも分かるよう言葉で伝える。
太って意外とこう言うのには鈍感らしく、言われて初めて意味を理解するってことが度々あるんだよね?
今も多分こうなった原因が私にあるなんて気づいていない。
「お前はまったく悪くない。オレが軽い気持ちで後先良く考えず行動した結果だ。本当にどうしようもない馬鹿だよな?」
「太……」
こんなに弱っていて理由を知ってもまだ私を攻めず。自暴自棄になっている。
なんでそこまで私に優しくしてくれるの?
私は優しくされる理由はないんだよ。
優しくされるのは嬉しいけれど、今は逆に辛いだけ。
「……手を握っていいか?」
「え、いいけど、どうやって?」
「今からドアを少しだけ開けて手を出すから、握って欲しいんだ」
「うん、分かった」
突然なんの脈略がなく真剣な申し出に、戸惑いながらもイヤじゃなかったかから了解すれば、すぐにドアが少し開かれ手を差し伸べられる。言われた通りその手を握りると、ギュッと握り返され手を繋ぐ。
太の温もりを感じドキドキ胸が高鳴り始め、あんなに辛く悲しい気持ちが吹き飛び幸せいっぱいになれる。
「おっさんの言う通り、星歌の手はすごいよな? 勇気が見る見る溢れ出す。さすが聖女様」
「え、そうなの?」
たちまち声が明るくなりいつもの太に戻る。しかもパパと似たようなことを言われるから、嬉しさよりも驚きすぎて声が裏返ってしまう。
パパは私命だから精神的な物でしかないと軽く考えていた。本当に私の手にはそんな不思議な能力があるのだろうか?
だとしたら弱っている人の手を握ったり抱きしめたら、元気にしてあげられる?
んな訳ないか。
「ああ。もう一度師匠とおっさんに頼んで徹底的に鍛えてもらう。絶対に負けたくないんだ」
「完全復活だね。でもあんまり張り切り過ぎて休息を取るのも忘れないでよ。パパみたく修行第一になるのは困るから」
いつもの太に戻ったら戻ったでメラメラと燃えるのは良いんだけれど、早速の問題だろう発言に暴走しないようやんわりとブレーキをかける。
恐れている第二のパパが誕生しそうで怖かった。
パパと龍くんの弟子だったら足して二で割った性格だったら何も問題ないのに、どうしてパパの駄目なところばっかり似ちゃうのかな?
まぁそんなパパもお母さんが現れたことで少しは改善されるはずだから、そしたら自然に太も改善される? いずれにしろ龍くんには、引き続き気をつけてもらおう。
「本当に星歌は心配症だな。休息が大事だってことはちゃんと分かってるし、オレはおっさん見たく追い込まれてないから大丈夫だって」
「それなら良いんだけど……」
一番信用出来ない台詞をヘラヘラと言われるだけで、思わずため息をついてしまい繋いでいる手に力が入る。
「だったらたまにで良いからこうやって手を繋いで、オレの話を聞いてくれ。そしたらオレ何があっても立ち止まるから」
「それで立ち止まれるんなら、いくらだって手を繋ぐし話も聞くよ。……その時は私の話も聞いて欲しいな」
聖女の力は精神安定剤にも鳴るのか万能だなと思いながら、その提案なら信じられそうだから賛成し私の願いも聞いてもらおうとした。
「もちろんだ。それじゃぁゆびきりげんまんな」
「うん、ゆびきり」
交渉成立で繋がれた手はゆびきりに変わる。
二人だけの時間はこうして増えていく。
陽に詳しい事情を聞き出そうとする前にそう言われてしまい、ちょっと迷いもした物の私も太と話したかったから頷きトレーニング室に向かった。
「太?」
「星歌、来てくれたのか?」
「うん。ピアスありとう。すごく気に入ったよ」
「おう。それなら良かったぜ」
一週間ぶりの太との会話。
声を弾ませピアスのお礼をすれば、太の声が軽く弾む。その反応がますます嬉しくて、ドアの前にある椅子に座る。
久しぶりだから緊張するかなと思ったけれど、相手が太だからそんなことは全然なかった。目の前の景色が輝きだす。
「ずいぶん強くなったんだね? 私ももっと頑張らないと、賭けに負けちゃうかも?」
確実に私の方が賭に負けてるけれど、あえて自分に言い聞かせるようそう言う。
「!! そんなことない。オレはまだまだ弱い。一度負けたぐらいで心が折れてしまう程弱いんだ」
「!? 何があったの?」
声援を送ったつもりで言ったはずが地雷を押してしまったようで、今まで聞いたことのない弱音を聞いてしまった。言葉通りにもがき苦しみ悩んでいる。
陽の様子がおかしかったのは、このことだったんだ。
この場合は私はなんて言えば良いのかな?
肯定する?
否定する?
落ち込んでいる太の力になりたいけれど、どっちも正解でもあり不正解かも知れない。
「……地球に陽を連れて戻りたいの?」
「陽はオレと違って役に立つから、戻るつもりはないと言っている」
「え、どう言うこと?」
「オレは最強級モンスターに手も足もでなかった。陽とリュウがいなければ、死んでたと思う」
「そんなの当たり前だよ。最強級モンスターなんて滅茶苦茶強いんでしょ?」
陽に助けられた? と言う疑問はあるけれど、それは今聞くことじゃないのでスルー。
「ああ、分かってた。だが負けてようやく気づいた。どんなに修行しても敵わない強敵がいるかも知れないって。怖い死にたくない。ここから逃げ出したい」
「…………」
思いの外闇は深い。やっぱり何を私が言っても、きれいごとにしかならない。
私はトゥーラン人で魔王の孫娘。
何があったとしても、パパと龍くんに護ってもらえる。
でも太は地球人で、トゥーランとは関係がない。巻き込まれただけなのに自分の身は自分で護らないといけない。
本当も何も無関係な太からして見れば理不尽なんだろう。それなのに私は太だけでなく陽の優しさに甘えていた。
「太……ごめん」
考えた末に出た言葉は心からの謝罪。今の私に言えるのは、このぐらいしかない。
悲しくて胸が痛くて涙があふれこぼれ落ちる。
いつだって自信満々だった太のプライドを私が傷つけてしまった。
どうやって償えばいいんだろう?
「なんでそこでお前が謝るんだよ」
「だって私が原因だから。太陽を巻き込まなければ、太はここまでの挫折を味わなくてすんだ」
謝罪の意味が分かってない様子だったから、今度は誰にでも分かるよう言葉で伝える。
太って意外とこう言うのには鈍感らしく、言われて初めて意味を理解するってことが度々あるんだよね?
今も多分こうなった原因が私にあるなんて気づいていない。
「お前はまったく悪くない。オレが軽い気持ちで後先良く考えず行動した結果だ。本当にどうしようもない馬鹿だよな?」
「太……」
こんなに弱っていて理由を知ってもまだ私を攻めず。自暴自棄になっている。
なんでそこまで私に優しくしてくれるの?
私は優しくされる理由はないんだよ。
優しくされるのは嬉しいけれど、今は逆に辛いだけ。
「……手を握っていいか?」
「え、いいけど、どうやって?」
「今からドアを少しだけ開けて手を出すから、握って欲しいんだ」
「うん、分かった」
突然なんの脈略がなく真剣な申し出に、戸惑いながらもイヤじゃなかったかから了解すれば、すぐにドアが少し開かれ手を差し伸べられる。言われた通りその手を握りると、ギュッと握り返され手を繋ぐ。
太の温もりを感じドキドキ胸が高鳴り始め、あんなに辛く悲しい気持ちが吹き飛び幸せいっぱいになれる。
「おっさんの言う通り、星歌の手はすごいよな? 勇気が見る見る溢れ出す。さすが聖女様」
「え、そうなの?」
たちまち声が明るくなりいつもの太に戻る。しかもパパと似たようなことを言われるから、嬉しさよりも驚きすぎて声が裏返ってしまう。
パパは私命だから精神的な物でしかないと軽く考えていた。本当に私の手にはそんな不思議な能力があるのだろうか?
だとしたら弱っている人の手を握ったり抱きしめたら、元気にしてあげられる?
んな訳ないか。
「ああ。もう一度師匠とおっさんに頼んで徹底的に鍛えてもらう。絶対に負けたくないんだ」
「完全復活だね。でもあんまり張り切り過ぎて休息を取るのも忘れないでよ。パパみたく修行第一になるのは困るから」
いつもの太に戻ったら戻ったでメラメラと燃えるのは良いんだけれど、早速の問題だろう発言に暴走しないようやんわりとブレーキをかける。
恐れている第二のパパが誕生しそうで怖かった。
パパと龍くんの弟子だったら足して二で割った性格だったら何も問題ないのに、どうしてパパの駄目なところばっかり似ちゃうのかな?
まぁそんなパパもお母さんが現れたことで少しは改善されるはずだから、そしたら自然に太も改善される? いずれにしろ龍くんには、引き続き気をつけてもらおう。
「本当に星歌は心配症だな。休息が大事だってことはちゃんと分かってるし、オレはおっさん見たく追い込まれてないから大丈夫だって」
「それなら良いんだけど……」
一番信用出来ない台詞をヘラヘラと言われるだけで、思わずため息をついてしまい繋いでいる手に力が入る。
「だったらたまにで良いからこうやって手を繋いで、オレの話を聞いてくれ。そしたらオレ何があっても立ち止まるから」
「それで立ち止まれるんなら、いくらだって手を繋ぐし話も聞くよ。……その時は私の話も聞いて欲しいな」
聖女の力は精神安定剤にも鳴るのか万能だなと思いながら、その提案なら信じられそうだから賛成し私の願いも聞いてもらおうとした。
「もちろんだ。それじゃぁゆびきりげんまんな」
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