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4章 それぞれの愛のかたち
70.双子の絆
しおりを挟む「太と黒崎くんの具合はどうですか?」
「ああ。一日安静していれば、完全復活だ。ただ二人にとっては残酷なまでも惨敗。この挫折を乗り越えられるかが問題だな。オレも星夜も忍に惨敗した挫折経験があるから、今の強さを手に入れたと言っても良いだろう」
「そうなんですか……」
二人の治療を終えてリビングに戻って来た龍ノ介さんに二人の状況を聞けば、二人の試練の時のようでそれしか言えず肩を落とす。
武者修行を終え逞しくなって帰ってきたのに次の日呆気なく敗北したら、誰だって立ち直れないほどのショックを受けるよね?
特に太はこっちに来て初めての挫折。今朝あんなに自信満々だったのに……。
星ちゃんのために乗り越えて欲しいけれど、こればっかりは本人が決めることだから見守るしか出来ない。
「陽は、どうする? これが最後の選択だと思ってくれ」
「私は一緒に行きます。あの力があれば、役に立てますよね?」
「ああ。陽が入れば百人引きだ。まさか最強級モンスターを足止めできる魔術を習得するとは、流石オレの優秀な教え子だな」
もちろんそれは私にも当てはまり何度目かとなる選択を迫られるけれど、太達と違って変な自信があるため不安なんてまったくない。
これには龍ノ介さんはニッコリ笑顔になり、私の頭をクシャクシャになぜられ褒められる。普通だったら完全に子供扱いだから腹が立つはずなのに、私はそれでも嬉しくて幸せを感じてしまう。心臓が良い感じに高鳴っていく。
もっとカードを使いこなせるようになれば、こんな風に褒めてくれるのかな?
そしたら嬉しいな。
「ありがとうございます。これからもっと頑張ります。所でナーシャさんはどうするんですか?」
「それなんだよな。今ヨハンとリュウが説得を試みているが、おそらく決裂するだろう。今日の記憶は消しリュウに任せる。オレ達はこの地から離れるしかないな」
「それが良いかと思います」
幸せいっぱいになれたのでもう一つの気になることを聞いて見ると、ずいぶん甘い処分に思えるけれど事情が事情だけにしょうがない。それに処刑すると言われても困る。
最強級モンスターとのいざこざで逃げられたと思ったナーシャさんは、龍ノ介さんと連絡を取り合っていたヨハンさんが捕まてくれていた。
そして星ちゃんちまで帰るまでの間に分かったのは、
星ちゃんの素性を漏らしたこと。
ここへは軍を送るための視察に来たこと。
そこでたまたま私と黒崎くんの二人だけで洞窟に入って行くのを見て、モンスターで襲う計画を思いつき決行したそうだ。
今までナーシャさんは普通の人だと思っていたのに、実は由緒ある召還士一族の娘で元魔術部隊の団長まで上りつめたすごい人だった。
軍人だからこそ戦が終われば和解するのが通常のため、龍ノ介さん達は今までナーシャさんが魔族に恨みを持ち続けていることに気づかなかったそうだ。
「ルーナス師匠から連絡が来次第、空間移動魔術で家ごと移動させる」
相変わらずスケールが大き過ぎる。
でもそのぐらいのことをしないと、憲兵団から逃れられない。
「分かりました。今回の件は星ちゃんに言わない方が良いですよね?」
「そうしてくれると助かる。本当は星夜にも話したくないんだが、黙っている訳にもいかないからな。オブラードに包んで話そうと思う」
「ですよね」
私も龍ノ介さんも星ちゃん達のこと考えると、いたたまれない気持ちになり深いため息をついてしまう。
魔族が嫌いなら嫌いでほっとけば良いのに、なんでお互いいがみ合って最終的には戦争するんだろう?
星ちゃんの言うとおり共存したい人だけして、イヤな人は関わったり自分の考えを他人に押しつけなければいい。
人類みな兄弟って言うのはもちろん理想だけど、住み分けするのも大切だと思う。
「昼食作るか」
「はい。……え、この足音は太?」
突然階段から駆け降りる太の足音が聞こたと思えば、ドアがバンと開きやる気に満ちた太がやって来た。
?
「師匠。稽古をつけてくれ」
「……諦めてもいいんだぞ?」
「は、どうして? 今のオレの実力じゃ最強級モンスターを倒せないことは分かってた。さすが最強級モンスター。滅茶苦茶強かった」
「お前って本当にタフだな。昼食後につけてやるから、それまでソファーで休んでろ」
落ち込むどころか、前向きに物事を考え燃えている。あまりの展開に龍ノ介さんは拍子抜けしつつも、太の姿勢に喜びそう言いキッチンへ入っていく。
私にも凹んでいる様子がなく普段通りに見えるものの、逆にそれが心配になって太の隣に座った。
滅茶苦茶負けず嫌いでいつもだったら負けたら悔しがるのに、なんでそんなに明るいんだろう?
まさか強がっているとか?
「太、本当は凄く悔しんじゃないの?」
「そんなの当り前だろう? 文字通り手も足も出なかったんだぜ? 正直師匠やおっさんみたく強くなれるのか不安で、地球へ逃げ帰りたいと思う自分がいる」
「案外あっさり白状したね?」
「お前に格好つけてもしょうがないだろう?」
龍ノ介さんには見せなかった自信を失い怯えた表情に変わり、沈んだ声で本音を語り私の肩に頼りなく寄りかかる。
まだ私は太にとって一番心を許せる存在。
出来ることならこのポディションは誰にも取られたくないけれど、近いうちに星ちゃんに譲らないといけないね。
星ちゃんと付き逢ったら、私はただの妹になる……わけないか。
「それもそうだね。だけどなんでそう言わなかったの?」
「んなこと言えるわけねぇだろう? そしたらオレは負け犬だ。星歌を大地に取られたく……あっ!?」
ちょっとだけ意地悪な問いを投げかけると、ムッとなり即答するも言い終わる前に慌てて口を閉ざす。あからさまに様子がおかしくて首を傾げた。
そう言えば私太に星ちゃんが好きだってまだ聞いてなかったっけぇ?
だから隠そうとしている?
ひょっとして私に隠してるつもりでいた?
「大丈夫。私、太が星ちゃんを大好きだってこと知ってるよ」
「!?」
太の顔がゆでだこのように真っ赤に染まり絶句するのだった。
今の太ならならそんなに心配しなくても、ちゃんと立ち直って前に進めると思う。
それには星ちゃんが必要だよね?
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