普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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4章 それぞれの愛のかたち

67.失恋のその先

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 半月前、私は失恋した。
 最初は思い続けていたらいつかは結ばれるんじゃないかって甘い期待をしていたけれど、こっちに来て龍ノ介さんの内面を知るうちに私には高嶺の花だと思い知らされた。それなのにどんどん好きという気持ちが膨らんで。このままじゃダメだと思い、勇気を振り絞って告白したら見事玉砕。
 龍ノ介さんにとって私は、娘の親友で教え子でしかなかった。
 そんなこと本当は最初っから、分かっていた。十五歳も年上で大人の男性が、子供の私なんて相手にしてくれるはずがない。むしろ相手にされたら、逆に問題なんだと思う。
 それなのに私の好きは止まらなかった。
 数日はショックで悲しくて大泣きしたけれど、何もかもが吹っ切れ逆にすっきりしたんだ。
 今では地球に戻ったら、私も太や星ちゃんみたいなアオハルをしてみたい。今度好きになる人は年相応の人だって決めている。
 いつになるかは分からないけれどね。



 星ちゃんとおじさんが緊急の用事で出掛けてしまったため、サトラス山脈での実践は延期となった。
 代わりに私と太と黒崎くんは龍ノ介さんに連れられて、普段から使っている洞窟にやって来た。
 
「今日の目的はズバリ陽と大地の信頼関係を築き上げること。パーティー内での信頼関係が重要視されるからな。太とは武者修行の甲斐があって信頼関係が築けたようだが、陽と大地にはまるでない。だから二人で協力し合い洞窟内にいるリュウを捕まえろ」

 龍ノ介さんから真の目的を告げられる。

 確かに私と黒崎くんの間柄は、まだ知人レベルよりちょっと毛が生えた程度。
 星ちゃんか太がいれば会話は弾むんだけれど、二人になった途端会話がなくなり距離を取ってしまう。それでも特に問題ないと思っていたけれど、言われてみれば一人一人の信頼関係は大切だ。
 もしも危険な場所ではぐれて二人だけなったら、連携がうまく取れず一巻の終わりかも知れない。そうならないためにもこれをきっかけに、少しずつ信頼関係を築いていこう。

 だけどどうしてリュウさんが助っ人なんだろう?

「だったらオレは何をすればいいんだ?」
「太はオレとここで剣の稽古。武者修行の成果を見せてくれ」
「そう言うことなら文句はねぇ。必殺技を編み出したんだ。陽、頑張って来いよ。大地、陽のことよろしく頼むな」
「うん、頑張ってくる。太も頑張ってね」
「ああ。佐藤のことは任せておけ」

 不満大爆発の太だったけれど、龍ノ介さんに個別指導と言われると機嫌がよくなる。
 表向きは私を心配してくれるものの、頭の中はすでに剣のことでいっぱいでただ言っているだけ。早く稽古を始めたいと思っているはず。
 私は太の片割れだからそうあっても特に何も思わないけれど、こう言う所あるから太はガキなんだよね?

 昔から剣(剣道)のことになると、他は二の次になって女心と言う物をまったく理解していない。その上お調子者だから告白されたら、その気になって浮かれて付き合い出す。でも彼女よりも大切なのは、剣道と星ちゃんだからそれが原因ですぐに破局。それなのに破局の原因が分かっていないから、同じことを繰り返すと言うお粗末ぶり。
 最近ようやく自分の本当の気持ちに気づいて徐々にしっかりして来たなと感心していたのに、こう言う所を見せられるとちょっと心配である。
 そろそろ実は太の気持ちに気づいていると言って、太を教育しないといけないのかな?




「それじゃぁ黒崎くん。私がリュウさんを見つけ出すから、黒崎くんは捕まえてくれる? もちろん援護はするから」
「見つけられるのか?」
「うん。こないだ捜索魔術を覚えたから。──ほらここ」

 洞窟に入ってすぐ私から黒崎くんに作戦内容を話し、魔術で洞窟の図面を呼び出す。
 入口から一番深い場所に、私達の味方である青い光が一つ。敵である赤い光が、五六個。
 ただ今の私の能力では、味方が誰なのか分からない。敵も能力がそこそこのモンスターしか分からなかったりする。
 でも龍ノ介さんはリュウさんが洞窟に隠れていると言っている以上、この青い光はほぼ間違えはない。

「佐藤はサポート魔術が得意なんだな。自分は攻撃魔術以外の才能はほとんどない」
「そうなんだ。私は攻撃魔術も覚えたけれど、威力がないんだよね? だから強化合宿中に少しでもサポート魔術の腕を磨こうと思ってるんだ」
「それは良い考えだな。パーティーにはなくてはならない存在だ。応援している」

 意外に話しやすくて、つい言わなくても良い自分の目標を打ちあてしまう。微笑まれて優しく応援される。
 まさかそんな風に言われるなんて思ってなかったから、びっくりしてキョトンと黒崎くんを見つめてた。

 笑顔の黒崎くんって、大型犬仔犬みたい。

「佐藤?」
「え、あありがとう。そろそろ行こうか?」

 我に返った私は言うまでもなく恥ずかしくなり、視線を背けお礼を言って一人先に向かおうとする。不意にイヤな予感が頭の中を過ぎり、すぐに立ち止まる。
 とっさに進行方向に目を向ければ、見上げるぐらいの巨大なモンスターがのさばっていた。
 まだ私達には気づかず殺意は向けられてないはずなのに、邪気が漂い始め格の違いを感じる。でも怖いとかそう言う感情はなく、モンスターから目が離せない。
 
「佐藤、何をしてる? 別の道から行こう」
「そうだね。ひょっとして黒崎くん一人だけなら倒せたりする?」
「いくらなんでもあれは無理だ。村瀬さんや館先生なら倒せるかも知れないが、憲兵団でも二十人でなんとか倒せるレベルだ。佐藤は感じないのか、この凄まじい邪気が?」

 目の前の状況をイマイチ状況を把握できない私に、黒崎くんは冷静に今の状況を教えてくた。私の手を強く握り、モンスターとは別の狭い道へと駆け足で進む。黒崎くんの手が震えている。
 言われて初めてこれが。生死に関わる恐怖なんだと思い知る。

 憲兵団が二十人でなんとか倒せるレベル……。
 なんでそんな化け物のモンスターがここにいるの?
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