普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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4章 それぞれの愛のかたち

66.親子水入らず②

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 俺と星歌はスピカに十四年の出来ごとを話すと、スピカも二十八年の出来ごとを話をしてくれた。
 と言ってもスピカは信頼していた村人達に殺されたことでこの世界に絶望し墓で永い眠りについてたそうだ。眠りから目覚めたのが墓荒らしがあったらしい一年前で、半年前マヒナが自分のホムンクルスを連れてやって来た時に憑依したらしい。
 そのため自分が人間達の中で極悪人にされていて俺達が地球で暮らしていたことも、自分が死んで二十八年たったことも知らなかったと言う。
 一部始終をにこやかに話していたが、時より見せる残念そうな表情にいたたまれない気持ちになる。

 俺の罪はやっぱり大きい。

 あの時俺がもう少し早く帰宅すれば、
 嫌がるスピカを強引にでも聖都に連れていけば、
 俺がスピカが臨月だからと言って聖都に行かなければ、
 この十四年間何度も何度も自問自答しても、納得のいく答えが出てこなかった。

 例えこうしてスピカが蘇ったとしても、お腹の子と過ぎ去ってしまった時間は巻き戻せない。
 もし罪を償えるとすれば、俺達にはこれからの未来がある。
 新しい楽しい思い出をたくさん作っていけばいい。

「まぁセイヤにはいろいろと言いたいことがあるけど、セイカはこんな素敵な女性に育ててくれたのには感謝する。これでもうあたしの心残りがないな」
「え、それってどういうこと?」
「ホムンクルスの寿命は短い。長くても二年足らずと言われている」
「は、再会した直後にそれを言うか?」

 いつにもなく前向きになってこれからを考えていれば、いきなりスピカから信じたくない真実を話され奈落の底に突き落とされそうになる。
 それなのにスピカは言葉通り満足そうで悲しみが一切感じられない。さっきの残念そうな表情は幻影なのか?

「寿命が尽きる直前に暴露して欲しかったかい?」
「いやそれはもっとダメだ」

 自分のことなのにどこか他人ごとで、縁起でもないことを言い出し俺をおちょくる。

 これがスピカなんだよな。だからと言って納得なんて出来るはずがない。
 俺はまた愛する人をまた失う?
 冗談じゃない。あんな思いはもうこりごりだ。
 何か方法はないのか?

「そうだ。また新しいホムンクルスに憑依すればいいだろう?」
「そうだよ。私がホムンクルスを作れるようにするからさ」
「ありがとう。でもな。さっきも言ったが、ホムンクルスは作りが雑だからさ、不自由なんだよ。二人に迷惑を掛ける。心残りがなくなったわけだし、この肉体が滅びたら成仏しようと思うんだ」

 必死になって解決策を探しだそうとする俺と星歌に、スピカはあっけらかんとして無理だと首を横に振る。
 あっさりとなんでも諦めようとするのが、スピカの悪い癖だった。

 俺とのことだって自分が魔王の娘だからと言って、自分の気持ちを押し殺し距離を取ろうとしたことがあった。あの時は本当に嫌われたと思ってショックだったが、龍ノ介とセレスから真相と聞かされ諦めずスピカの心を完全に射止めてた。

 そうあの時と同じ無理矢理諦めようとしている表情。
 本当は出来るだけ長い時間、俺達と一緒にいたいと願っている。
 確かにホムンクルスのデメリットがあったとしても、諦めなければきっと何か良い方法が見つかるはずだ。

「残念ながら俺は諦めが悪いんだ。すべてが解決出来る方法を探し出すよ」
「私も。だからお母さん、最後まで諦めないで」
「……セイヤ、セイカ。仕方がないから二人にあたしの未来を預けるよ」

 あの時と違っていさぎよく俺達の意見を聞き入れてくれ涙を流す。星歌もつられて涙を流し、俺は今日はもう何度も涙を流していたため我慢した。





「そう言えば、パパの銅像ってどこにあるんだろう?」
「……マヒナが壊した見たい」

 スピカとマヒナの家までの帰り道。何かを思い出したかのように星歌がそう呟くと、スピカは気まずそうに小声でありえそうなことを答えた。
 俺としてはそんな物壊された方が良かったのだが、星歌には気にくわないようでムスッとする。

「私やっぱりマヒナさんのことが嫌い」
「こら星歌、母さんの前でそんなことを言ったら駄目だぞ」
「いいんだよ。あたしもマヒナのそう言う所はいけ好かない。どうしてあの子はあたしの愛する人を否定するんだ? セイヤは世界を救った偉大な英雄なんだぞ」
「だよね? パパは何もかもが最高なのに、信じられない」

 星歌だけではなくスピカまでもが機嫌を損ね意気投合。すっかり二人は打ち解けたようでそこは何よりも嬉しいのだが、スピカを何よりも慕っているマヒナがあまりにも気の毒だ。
 マヒナにしてみれば俺は邪魔者でしかなく、スピカを護ると誓っておきながら護れなかった大嘘つき。嫌われて憎まれるのは当然なのだろう。
 
「本当にな。大体セイヤはあたしが認めた愛する人。それを認められないってことは、あたしに対するぼうとくだと思わないかい?」
「確かに。それを言ったら少しは大人しくなるんじゃない?」
「そうだな。帰ったらマヒナにも憑依したって伝えるつもりでいたから、その時バシって言ってみるよ」

 これで俺はますますマヒナに嫌われることになるだろう。
 スピカとの別れはつらいが、今日の所は我が家に帰った方が良さそうだ。これからはいつでも会えると思えば、心は驚くほど軽くこれから先何があっても平気だと思える。
 今度ここに来る時はキャンプセット持ってきて、数日親子水入らずでのんびり過ごすのも悪くはない。

『は?』

 そう思っている矢先、突然目の前に我が家がパッと現れる。
 目を疑うも星歌とスピカにも見えているのか、三人の驚き声がハモるのだった。 

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