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3章 一難去ってまた一難 魔王の孫娘は不幸?
55.二人の約束
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「太、大丈夫?」
バッグにはあらゆる意味で最強の二人がいるので、恐れることなく声をかける。どっちかと言えば、太の方が心配だ。
「え、星歌?? あれオレなんともない」
トレーニング室内が騒がしくなったと思えば、太の信じられないとばかりの声が響く。
良かった。龍くんの読み通りなんともない。
「本当に?? 龍くん予想通り声だけなら平気なんだね」
「え、そうなのか?」
「ああ、さすがオレだな。そんじゃオレと星夜は一端消えるわ」
「その方が良さそうだな。……頑張れよ星歌」
「──パパ!?」
何を期待しているのかおかしな気を使われ、立ち去ろうとするパパから小声で声援を送られる。まさかそんなことパパから言われるなんて思ってもいなかったから、びっくりして今度は私の声が裏返った。
物わかりの良い親はこう言う特にちょっと厄介。
告白。
さっきは意気込んでその気でいたけれど、強化合宿することになった今はまだ時期じゃないと思う、。
せめて太の洗脳を解いてから、目を見てちゃんと告白したい。
「星歌、どうかしたか?」
「ううん、なんでもない。これからはドア越しの会話だね」
だからこの思いはもう少し太には秘密。
それにドア越しでの会話なんてロマンチック……。
「そうだな。……さっきは酷いこと言ってごめん……」
脳天気に今の状況を楽しむ私とは違いに、さっきのことを気にしているのか沈んだ声が申し訳なく謝られてしまう。
声だけでどんなに落ち込んでいて傷ついていることがよく分かる。
不謹慎だけどなんか嬉しいな。
だってそれだけ私のことを大切に想ってくれている証拠だから。
「気にしてないから大丈夫。洗脳の実の効果は聖女の力で浄化出来るんだって。習得するには審判の花に行って加護をもらわないといけないから、私達も明日から二ヶ月間強化合宿することにしたんだ」
「二ヶ月も強化合宿? すごいなそれ」
強化合宿と聞いただけで沈んだ声は、あっと言う間に明るくなっていつもの太に戻る。
相変わらずの単純な人だけれど、今回ばかりは棚ぼたなんだと思う。きっと目を輝かして燃えてるんだろうな。
「太って熱血漢だよね?」
「そうか? でも努力すればするほど強くなるんだぜ? オレの一番の憧れはおっさんなんだ」
「パパに? 龍くんじゃなくって?」
龍くんを神様のように憧れていた太だったのに、まさかの発言に驚きを隠せず飛びついてしまう。
「師匠よりおっさんだ。師匠は完璧で天才肌は憧れて尊敬してたが、女にだらしないと言うか考え方には賛同できない。最近特にだ。その点おっさんは血の吐くような努力をして強さを手に入れた。凡人でも最強になれるって証明してくれた努力家。しかもその強さは自分のためではなく愛する人や仲間のために使う。なんかそう言うのかっけいじゃん。異世界に身を捧げるヒーローはごめんだが、おっさんみたいな愛にあふれるヒーローになりたい」
愛弟子である太からも考え方を否定された龍くんは哀れだなと思うも、自業自得だから仕方ない。それよりもパパをそんな風に見てくれていると思うと嬉しかった。
でもそれはそれでちょっと心配かな?
パパみたいなヒーロー。
それって、全然駄目じゃん。
異世界には身を捧げないけれど、愛する者のために身を捧げてます。自分のすべてを犠牲にしているのに、本人はそのことにまったく気づいていないどころか生き甲斐にしている。
そう言う所まで似て欲しくは……太とパパの性格はそこまで似てないから大丈夫か。
「試みは立派なんだけどあんまり無茶をしたら陽が心配するよ。太は何かに夢中になるとすぐ周りが見えなくなるんだからね」
「うぐ……」
私が心配すると言うより陽がと言った方が効果は倍増。意外にも自覚はあるらしく口ごもった。自覚があって何よりだ。
「じゃぁ私戻るね」
「あ、ちょっと待った。聞きたいことがある」
私としてはいつまでも話していたいけれど太にウザがられないために、話を終わらせ上に行こうとしたら引き留められ立ち止まる。
「聞きたいこと?」
「ああ。黒崎とはどうなったんだ?」
「どうにもならないよ。黒崎とは友達にはなれると思うけれど、それ以上はない」
どうしてそんなこと聞くのだろうと思いながらも、下手に隠して誤解されたらいやなので事実だけをきっぱり答えた。
太は黒崎の告白に激怒したんだから、誤解されても応援されることはないから良いけれど、それでもやっぱり好きな人に誤解されたくはない。
「星歌はやっぱりおっさんみたいなのが理想なのか?」
今度は好きなタイプを聞かれる。
「今ならそうかな? 優しくて頼りになる人。それで私を一途に愛して……だからと言って束縛願望はないよ。浮気しない男性が良いだけ」
「なるほど。……それならワンチャン……」
「え?」
「いいや。なんでもない」
絶対何かを隠された。
声のトーンが明るくなっているからして、十中八九悪口を囁いて笑っている。
鬼ファザコン?
夢見がちな餓鬼?
どっちにしてもムカつく。だったら太の理想にあざ笑ってやる。
「太の理想はどんな人?」
「オレか? 太陽みたいに明るくって笑顔が似合う奴。それでいて頑張り屋で負けず嫌い」
「へぇ~」
予想よりもちゃんとした理想にあざ笑えず感心してしまう。
以前の太だったら迷いなく巨乳美女って言っていやらしい顔になっていた。
パパの影響かな?
そうか。
太は元気で明るい頑張り屋の女性が好きなのか。
元気で明るいのなら私もちょっとは自信があるけれど、頑張り屋と聞かれたらそうでもないんだよね?
興味がないことだったらどうにかして楽な道に行こうとする怠け者。
これからはなんでも真剣に取り組んで、理想に近づけるように努力しよう。
「太。強化合宿頑張ろうね?」
「そんなの当たり前だろう? あ、そうだ。強化合宿終了時にどっちが数値の上げ幅が高いか賭けをしようぜ?」
「何を賭けるの?」
「出来る範囲でなんでも言うことを一つ聞くってのはどうだ?」
突然賭けへと発展してしまいそれはどうなのかと思いつつ、なかなか魅力的な誘いでもあった。
出来る範囲って言うのが安全そうに思えて良い。
「うん、良いよ。負けないからね?」
「オレだって負けないからな」
賭けに乗って私達は供に宣戦布告し笑い合う。
太の洗脳がこの程度で本当に良かった。
バッグにはあらゆる意味で最強の二人がいるので、恐れることなく声をかける。どっちかと言えば、太の方が心配だ。
「え、星歌?? あれオレなんともない」
トレーニング室内が騒がしくなったと思えば、太の信じられないとばかりの声が響く。
良かった。龍くんの読み通りなんともない。
「本当に?? 龍くん予想通り声だけなら平気なんだね」
「え、そうなのか?」
「ああ、さすがオレだな。そんじゃオレと星夜は一端消えるわ」
「その方が良さそうだな。……頑張れよ星歌」
「──パパ!?」
何を期待しているのかおかしな気を使われ、立ち去ろうとするパパから小声で声援を送られる。まさかそんなことパパから言われるなんて思ってもいなかったから、びっくりして今度は私の声が裏返った。
物わかりの良い親はこう言う特にちょっと厄介。
告白。
さっきは意気込んでその気でいたけれど、強化合宿することになった今はまだ時期じゃないと思う、。
せめて太の洗脳を解いてから、目を見てちゃんと告白したい。
「星歌、どうかしたか?」
「ううん、なんでもない。これからはドア越しの会話だね」
だからこの思いはもう少し太には秘密。
それにドア越しでの会話なんてロマンチック……。
「そうだな。……さっきは酷いこと言ってごめん……」
脳天気に今の状況を楽しむ私とは違いに、さっきのことを気にしているのか沈んだ声が申し訳なく謝られてしまう。
声だけでどんなに落ち込んでいて傷ついていることがよく分かる。
不謹慎だけどなんか嬉しいな。
だってそれだけ私のことを大切に想ってくれている証拠だから。
「気にしてないから大丈夫。洗脳の実の効果は聖女の力で浄化出来るんだって。習得するには審判の花に行って加護をもらわないといけないから、私達も明日から二ヶ月間強化合宿することにしたんだ」
「二ヶ月も強化合宿? すごいなそれ」
強化合宿と聞いただけで沈んだ声は、あっと言う間に明るくなっていつもの太に戻る。
相変わらずの単純な人だけれど、今回ばかりは棚ぼたなんだと思う。きっと目を輝かして燃えてるんだろうな。
「太って熱血漢だよね?」
「そうか? でも努力すればするほど強くなるんだぜ? オレの一番の憧れはおっさんなんだ」
「パパに? 龍くんじゃなくって?」
龍くんを神様のように憧れていた太だったのに、まさかの発言に驚きを隠せず飛びついてしまう。
「師匠よりおっさんだ。師匠は完璧で天才肌は憧れて尊敬してたが、女にだらしないと言うか考え方には賛同できない。最近特にだ。その点おっさんは血の吐くような努力をして強さを手に入れた。凡人でも最強になれるって証明してくれた努力家。しかもその強さは自分のためではなく愛する人や仲間のために使う。なんかそう言うのかっけいじゃん。異世界に身を捧げるヒーローはごめんだが、おっさんみたいな愛にあふれるヒーローになりたい」
愛弟子である太からも考え方を否定された龍くんは哀れだなと思うも、自業自得だから仕方ない。それよりもパパをそんな風に見てくれていると思うと嬉しかった。
でもそれはそれでちょっと心配かな?
パパみたいなヒーロー。
それって、全然駄目じゃん。
異世界には身を捧げないけれど、愛する者のために身を捧げてます。自分のすべてを犠牲にしているのに、本人はそのことにまったく気づいていないどころか生き甲斐にしている。
そう言う所まで似て欲しくは……太とパパの性格はそこまで似てないから大丈夫か。
「試みは立派なんだけどあんまり無茶をしたら陽が心配するよ。太は何かに夢中になるとすぐ周りが見えなくなるんだからね」
「うぐ……」
私が心配すると言うより陽がと言った方が効果は倍増。意外にも自覚はあるらしく口ごもった。自覚があって何よりだ。
「じゃぁ私戻るね」
「あ、ちょっと待った。聞きたいことがある」
私としてはいつまでも話していたいけれど太にウザがられないために、話を終わらせ上に行こうとしたら引き留められ立ち止まる。
「聞きたいこと?」
「ああ。黒崎とはどうなったんだ?」
「どうにもならないよ。黒崎とは友達にはなれると思うけれど、それ以上はない」
どうしてそんなこと聞くのだろうと思いながらも、下手に隠して誤解されたらいやなので事実だけをきっぱり答えた。
太は黒崎の告白に激怒したんだから、誤解されても応援されることはないから良いけれど、それでもやっぱり好きな人に誤解されたくはない。
「星歌はやっぱりおっさんみたいなのが理想なのか?」
今度は好きなタイプを聞かれる。
「今ならそうかな? 優しくて頼りになる人。それで私を一途に愛して……だからと言って束縛願望はないよ。浮気しない男性が良いだけ」
「なるほど。……それならワンチャン……」
「え?」
「いいや。なんでもない」
絶対何かを隠された。
声のトーンが明るくなっているからして、十中八九悪口を囁いて笑っている。
鬼ファザコン?
夢見がちな餓鬼?
どっちにしてもムカつく。だったら太の理想にあざ笑ってやる。
「太の理想はどんな人?」
「オレか? 太陽みたいに明るくって笑顔が似合う奴。それでいて頑張り屋で負けず嫌い」
「へぇ~」
予想よりもちゃんとした理想にあざ笑えず感心してしまう。
以前の太だったら迷いなく巨乳美女って言っていやらしい顔になっていた。
パパの影響かな?
そうか。
太は元気で明るい頑張り屋の女性が好きなのか。
元気で明るいのなら私もちょっとは自信があるけれど、頑張り屋と聞かれたらそうでもないんだよね?
興味がないことだったらどうにかして楽な道に行こうとする怠け者。
これからはなんでも真剣に取り組んで、理想に近づけるように努力しよう。
「太。強化合宿頑張ろうね?」
「そんなの当たり前だろう? あ、そうだ。強化合宿終了時にどっちが数値の上げ幅が高いか賭けをしようぜ?」
「何を賭けるの?」
「出来る範囲でなんでも言うことを一つ聞くってのはどうだ?」
突然賭けへと発展してしまいそれはどうなのかと思いつつ、なかなか魅力的な誘いでもあった。
出来る範囲って言うのが安全そうに思えて良い。
「うん、良いよ。負けないからね?」
「オレだって負けないからな」
賭けに乗って私達は供に宣戦布告し笑い合う。
太の洗脳がこの程度で本当に良かった。
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