普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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3章 一難去ってまた一難 魔王の孫娘は不幸?

45.秘密の花園

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「セイカちゃんが羨ましいわね? こんなお風呂に毎日入れるなんてね」
「はい、この檜風呂に入ればどんな疲れもとれます」

 すっかり檜風呂が気に入ってくれたヨハンさんに、私はちょっと得意げになって自慢して思いっきり伸びをする。言葉通り見る見るうち身体の疲れがとれていく。

 大人三人が余裕で入れるほどの檜風呂
 小さい頃はパパと龍くんの三人で入っていて、小六までパパとは入っていたんだけれど、月経が始まった辺りから一人で入ることを強制されたんだよね? 初めて言われた時は淋しくて嫌だったな。嫌われたと思ってしばらくふて腐れて、パパを困らしていた。
 ファザコン娘を男手一つで育てるのは、いろいろ大変なんだろうな。

 ……もしお母さんが生きていたら、今頃どうしてたんだろうか?

「ヨハンさん、お母さんはパパのどこが好きだったんですか?」
「芯が強くて人の痛みが分かる心優しいところだって言ってたわ。外見もタイプだったらしくて、柄にもなく一目惚れ。でもスピカは魔王の娘でセイヤは英雄候補。報われない恋だと思って、最初のうちは諦めようとしていたの」
「え、そうなんですか? パパの外見がタイプだったとは知りませんでした」

 初めて知ったお母さんがパパに恋に落ちた理由に驚く。

 出会ってすぐに恋に落ちたってことは知っていたけれど、一目惚れだとは思いも寄らなかった。
 パパはお母さんの何にでも一生懸命で明るいところに心を惹かれたと言っていた。
 そりゃぁ今ではワイルドイケメンだけれど以前は人が良さそうな頼りない男性だったから……そう言えば前に見た結婚式の写真のパパは今に負けないぐらいワイルドイケメンで自信にも満ちあふれていたよね。
 それだったら一目惚れのタイプって言うのも納得。

「今と違ってあの頃は覇気がある男らしい外見だったのよね? 蓋を開ければ優しすぎて生真面目でつまらない男。私はごめんだわ」

 軽くパパをディスられた気がしてムッとはなるも、龍くんがタイプの人にパパの良さを分かるなんて到底思えないからスルーをする。

 それにこの分だとヨハンさんは最初っから龍くん。龍くんだってお母さんよりヨハンさんがタイプだったんだろうから、三角関係と言うのはなかったんだろう。

「ヨハンさんは龍くんのことが今でも好きなんですか?」
「ええ、好きよ。実際復縁したわ」
「!!」

 これは誰が何と言おうと爆弾発言で、まさかこんな答えが返って来るとは思わなかったから、言葉を失い口を開けヨハンさんを見つめた。

 復縁した?

 ステーフさんにはあんなに拒否っていたのに?
 確かにヨハンさんは爆乳でナイスバディだし、肌もすべすべでハリ艶もある。
 だからなの?

「そう言えばセイカちゃんには言ってなかったわね? 私ハーフエルフだから年齢は百歳だけど、人間の年齢に換算するとまだリュウノスケと釣り合える二十代なの」
「!!」

 おどけた口調でヨハンさんはネタバレをする。

 世の中は不思議なことだらけ。
 あまりのことに、頭がついていかない。
 でも龍くんはやっぱり恋愛面では、最低でゲスであることだけは分かる。

 だから現在も結婚なんかしないで、やりたい放題やっている。その証拠に龍くんは長続きしてない。
 ひょっとして私が知らないだけで、股がけもしているんじゃぁ?
 パパはそう言うことを知っていたから、私が龍くんのお嫁さんになりたいと言った時は、血相を変えて猛反対したんだね。
 いくら一度に複数を愛せる懐が大きい人であっても、歳を取っておばさんになったら別れて他に行く。そんな考えの人に愛娘を任せられないと思うのは当然。
 でも保護者だったらいいんだろうか?

 って言うか陽にはなんて言えばいい?

 龍くんは外見だけで相手を好きになるゲス男だから、付き逢えたとしても長くは続かないよ。
 浮気は容認しないとダメだよ。
 そう言ったら諦めてくれるかな?
 恋は盲目と言うぐらいだから、それでもいいって言われたらどうしよう。

「セイカちゃん?」
「ひょっとして龍くんは現在ヨハンさん以外にも交際している人がいるんですか?」
「そうね。いるんじゃないかしら?」

 一大事なはずなのに、涼しげに答えられるだけ。
 まるで私の考えが間違っているように。

「……ヨハンさんは、それでいいんですか?」
「ええ。だって実力がある強い男性に、多くの女性が夢中になるのは当然じゃない? それに女性も優秀な子供を産みたいと思っているから、男性が落ちぶれたら迷わず離れていく。言わば恋愛は弱肉強食ね」

 トゥーランの恋愛観を力説される。

 なんとなく言いたいことは分かるけれど、分かりたくない野性的な理屈。
 そう言う人ってなんか可哀そうで淋しい人だなと思ってしまう。
 本当の恋も愛を知らずに一生を終える。

 まぁそう思う私も最近恋を知っただけで、愛についてはよく分からない。

「お母さんもそう言う考えの人だったんですか?」
「セイヤに出会う前までわね。ほらスピカは魔王の娘だったから、最高の血を子供に継いで欲しかったみたい。でもセイヤに出会って恋を知り、セイヤが精神崩壊した時に愛を知った。だからセイヤが立ち直るまで寄り添い励まし続けた。それを見てて少し羨ましかったな? でも私にはちょっと無理」

 お母さんもトゥーランの人だからそう言う考えなのかなと思いながら聞いて見ると、素敵な恋愛話でホッとする。

 私の両親は誰もが羨む恋愛をして結ばれた。
 なんだか誇らしいな。

 私は つよしのことは好きで何があったら力になりたいとは思っているけれど、私の一番はまだパパだってことをさっき自覚したからそれは愛とは呼べない。
 パパより好きになる日が来たら、それは愛に変わるのだろうか?
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