普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

文字の大きさ
上 下
61 / 157
3章 一難去ってまた一難 魔王の孫娘は不幸?

42.陽のお手柄

しおりを挟む
「星ちゃん!!」
「星歌!!」
「太陽、無事で良かった」

 浮かない表情をした太陽が私を見るなりパッと花が咲き、私の名を呼び駆け寄ってくる。元気そうで私も声をあげ二人に駆け寄り、陽と抱き合って喜び合う。

 なんともなくって本当に良かった。

「んなの当たり前だろう? なんかオレ達がトゥーランの魔族を排除するため選ばれた聖人とか言われた」
「そうそれで、聖人の能力を更に高める実を食べるようにと言われたけれど、直感的に怪しいと思ったから食べたふりをして隠したんだ」

 二人してケロッと明るく何があったのか教えてくれるも、それは結構重大だったことが分かる。
 陽の勘が働いて食べなかったから何ごともなくすんだけれど、もし食べていたらどうなっていたんだろう?

 ……陽の嫌な予感を話の流れから考えると、その実は魔族が人間の敵だと洗脳するための物?
 だったらそれを食べたら、太陽は私の敵となって殺そうとした。
 ……そんなの考えるだけでも怖い。

「さすがヒナタだな。その実を私に見せてくれないか?」
「その実ならオレが預かっています。お察しの通り魔族が人間の敵だと言う常識を植え付ける実なのでしょう」
「だろうな。つまり洗脳の正体はこいつか。人間とやらは本当に何を考えているんだが」

 龍くんは懐から赤い実を取り出しそう言いながらルーナスさんに渡せば、察しが付いていたのかため息交じりで答えた後人間に呆れる。ガーロットはなんだか悲しげにシュンとなった。
 
 人間と魔族の共存なんて夢のまた夢なんだろうか?

 そこまで人間を洗脳して魔族を皆殺しさせたいってことは、私には到底考えられないほどの憎しみがある。
 それに魔族の方だって忍がいると分かった以上、魔王を復活させたらトゥーランを征服しようとする。魔王に逆らう者はきっとどんな種族だろうと皆殺し。
 忍は迷うことなく倒すべき危険な相手なんだけれど、人間の主犯は考えが分からないから対策を取れない。

「ルーナスさん、それで誰が主犯だか分かりませんか?」

 とにかく主犯の考えが知りたくて、頼みの綱のルーカスさんに助言を求める。

「それは詳しく調べないとなんとも言えんな。セイカは主犯を見つけたらどうしたい?」
「取り敢えず主犯の考えが知りたいです。そしてお母さんの汚名を晴らしてもらいたい」
「魔族との共存はいいのかい?」
「それは考えによってだと思います。心の底から魔族を憎んでいるなら、そう言う人達を集めて魔族立ち入り禁止の街を新たに作ることを薦めます」

 私の考えにルーナスさんは戸惑い更なる問いを問われるから、それにもちゃんと答えると今度は呆気に取られた表情に変わり私を見つめる。
 
 私の考えはおかしいんだろうか?
 根気よく話し合って、魔族と和解してもらう。
 そう答えた方が良かった?
 お母さんならそう言ってた?

「セイヤ、セイカは本当にお前の娘なのか?」
「なっ、失礼なことを言わないで下さい。星歌は俺の娘です」
「それにしては考え方がリュウノスケに似てるんじゃないか?」
「!!」

 呆気に取られたまま呟いた問いパパはムッと言い返すけれど、理由を言われると図星だったらしく絶句する。
 私も同じで言われてみてば、確かにこの考えは龍くんよりなんだろう。
 
 昔友達と大げんかした時龍くんから

“仲直りはしないといけないが、もしどうしても嫌なら無理して友達を続ける必要はない。でもその嫌いは星歌の嫌いであって、他人を巻き込むな。悪口を言いふらすなんて最低のすることだ”

 って言ってたよね?
 あの時は何を言っているか良く分からなくって結局その友達とはすぐに仲直り出来たから、その意味を深く考えようとしなかった。
 そうか龍くんの教えが無意識のうちに、私の考えになったんだね。

「オレも星歌の育ての親ではありますからね。でも星歌は総合的に星夜と考えは似てますよ。どんな相手でも偏見なく接することが出来ますし、仲間のためなら立ち向かえる強さも持っている優しい子です。……まぁたまにとんでもないことをやらかすのはスピカの血をちゃんと受け継いでますが」
「うっ……、飴と鞭だ」

 落ち込むパパを見かねて龍くんはナイスフォローをしてくれたと思っていたのに、最後の台詞が私にとっては微妙で嬉しさが還元する。でもパパの落ち込みは軽減されたようでそこは良かった。

 お母さんの血を受け継いでいると言われるのは嬉しいけれど、そう言う受け継ぎ方はちょっと嫌かも?
 って言うかお母さんって龍くんに似た性格……パパって意外と自分と正反対の性格の人に心を惹かれている?
 だから私が龍くんと似た考えになっても、特に何も言わなかった?

「確かにそういう見方も出来るな。でもまぁ、セイカの考えはある意味一番穏便な解決策かもしれないね? 話し合っても無理なら敵対するより干渉しなければ良いだけのこと。セイカはその信念を持って、まずは魔族を説得しなさい。私はこの実を調べて、洗脳を解く薬を作っておく」

納得をしてくれたのか優しく微笑み私の頭をなぜながら、助言だけでなくお膳立てをしてくれる。

 ここまでしてくれるんだから本当なら自信を持って“はい”と言いたいんだけれど、魔族を説得するのだって難しい。
 話の流れ的に忍が生きていることを、今言った方が良いよね?
 

「それなんですが、どうやら忍が生きているらしいです」
『はい?』

 覚悟を決めても言いにくい内容なので、頬をかき視線を泳がせながら勢いよく暴露すれば、皆さん驚き一斉に私をガン見して声をハモらせる。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...