普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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3章 一難去ってまた一難 魔王の孫娘は不幸?

41.私のヒーロー

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「星歌、大丈夫か?」
「パパ!!」

 パパの足音が聞こえたと思ったら姿を現したから、私は嬉しくなって大声で叫んでしまう。
 真っ青で必死なパパの表情は、私の無事を見て安堵し……。
 
 バキバキバキ

 私にはびくともしなかった鉄格子が粘土のようぐにゃぐにゃと曲がり、あっと言う間に人が入れる広さになりパパが入ってくる。

 感動の再会のはずが、超人芸に開いた口がふさがらない。

「星歌、良かった。本当に良かった」

 そんな呆然と立ち尽くす私に構わず、パパは力強くギュッと抱きしめ大粒の涙を流す。
 ありえないほど心臓の鼓動が高鳴り続けているのを聞いて、我に返り凄く心配を掛けたんだなと改めて痛感する。

 パパにとっては私は命より大切な宝物。
 そんな私が突然いなくなったんだから、死ぬほど心配したよね?
 私もパパの温もりと石けん……酒臭い?
 とにかくこれで本当に大丈夫だと思ったら、涙があふれこぼれ落ちる。

 本当に良かった……。

「怪我はないか?」
「うん。チョピのおかげで私は大丈夫だよ」
「それなら良かった。チョピ、本当にありがとう」
【約束はちゃんと守ったから、後はセイカのパパがセイカを護ってね。ボクは疲れたから寝る】
「うん、ありがとうチョピ。おやすみなさい」

 パパが来るまで励まし続けてくれていたチョピはパパが来たことで安心したらしく、眠たそうに言いながら私の懐に入りすぐに眠りに付く。

 チョピの言葉はパパには伝わらないけれど、その約束は交わさなくてもパパは私を護ってくれる。
  護られているばかりじゃ情けないとは思いつつ、あいにく弱い私にはそうするしか他にはない。
 これからは今まで以上に魔術の勉強に力を入れて、誘拐されても自力で逃げられる術を身につける。そして酷いことを言われても言い返せる強さも欲しい。

「セイカ、元気そうだな」
【本当に無事で何よりだ】
「ルーナスさんにガーロット。はい、ご心配をおかけしました」

 いつの間にかルーナスさんとガーロットの姿もあり微笑みながら声をかけてくれるから、私はパパから離れ二人に笑顔を見せ元気良く返事を返す。

 龍くんは? と思ったけれど、誘拐されたのは私だけではなく太陽もだから、二手に別れて捜す。そうなるとパパは絶対に私だから、龍くんは当然太陽になる。

「パパ、太陽も大丈夫だよね?」
「ああ、龍ノ介に心当たりがあるらしい」
「そうなの? それなら良かった」

 朗報な答えに心配はなくなって、れからは自分のことだけを考えることにした。よけいなことをしてパパに負担を掛けさせるわけにはいかない。
 私を命にかけて護ると平気で言える人だから。

「そう言うことだから、ちょと待っていなさい。すぐに、終わらせる」
「え?」

 ルーナスさんは意味深な台詞を言って、壁になにやら魔方陣を描き始める。首を傾げその姿を見る私だったけれど、

「分かりました。星歌、約束する。お前のことは地球に戻るまで父さんが絶対に護り抜くからな」
「え、あうん」

 パパからはいきなり一方的に交わされた約束に、意味が分からないものの考える前に反射的に頷いてしまった。


 地球に戻るまで父さんが絶対に護り抜く。

 それってどう言う……生きて護り抜くって意味?
 命を掛けて護るってことじゃなくって、最後まで私を生きて護ってくれるってこと? それは今まで私が願っていたことでそう言ってくれるのは嬉しいんだけれど、ついこの前まで命をかけて護るって言っていたのにいきなりどうしたんだろう? ちょっと信じられない。

「……本当に最後まで私を護ってくれるの?」
「そうだよ。今までは父さんにもしものことがあったら龍ノ介に任せるつもりでいたが、龍ノ介に言われたよ。今はつよしくんと陽ちゃんもいるから厳しいって」
「確かにそれはそうだね」

 訳を話されやっぱりバックに龍くんがいたからなんだと思いながらも、現状龍くんの言い分がごもっともなんだと思った。
 
 いくら龍くんがチートでも私達三人を一人で護るのは無茶がある。それでも無理とは言わず厳しいって言えちゃうのはいかにも龍くんらしいけれどね。
 だけど太はこの数日でぐんぐん力を付けていて、今では中級モンスターも軽々倒してしまう程。
 まぁ調子に乗ると隙が出来て危なっかしいのは相変わらずで、そこを容赦なく龍くんにしごかれてはいる。それさえなくなれば完璧なんだろうけれど、それが太なのだからこればっかりは難しいんだろうな。

「今よりもっと強くなるからな」
「パパはもう充分強いと思うんだけど、あんまり無茶しないでね」
「してないよ。前にも言ったと思うが、父さんは星歌のためならいくらでも強くなれるんだよ」

 今でもすでにチートなのに、それでも強さを求めるのは最早病気なのかも知れない。
 最近強くそう思うようになったけれど、更に強く誓いを立てられてしまう。戸惑いながらやんわり止めても、真顔でいつもの決めぜりふを言われて会話は終了。
 
 ……もし忍が実は生きていることを知ったら、ますます無茶して強くなろうとするよね? 最後まで私を護ってくれるって言った言葉を忘れて、命を粗末にする護り方をしそうで怖いな。
 相打ち覚悟だとか良いそう。
 出来ることなら忍が生きていることを隠しておきたいけれど、そうして発覚したらとり返しの付かないことになりそうだから却下。
 忍はパパに逆恨みをしていて執念は尋常ではない。
 いくらパパが強くなったとしても、闇討ちされたらひとたまりもない。
 あんな悲劇を見るのはもう嫌。

「セイヤ、出来たよ」
「はい。星歌、手を繋いでいこう」
「うん、ってこれは?」

 ルーナスさんの声がしてパパに言われ手を繋ぎ視線を向けると、魔方陣は完成されていて壁が歪んでいるように見える。
 嫌な感じはしないんだけれど、違和感はある。

「これはエルフ秘伝の空間移動魔術。二カ所で同じ魔方陣を描くことで瞬時に移動が出来る優れものだよ。リュウノスケと事前に打ち合わせをして、セレスの部屋に通じている」
「それはすごくて便利な魔術ですね」
「だろう?」

 さすが龍くんの師匠だ。
 そんな便利な魔術があるのなら、私も覚えたい。これさえ使えれば誘拐されても簡単に逃げられると思いながら、全員で魔方陣の壁を通り抜ける。

 薄暗くてかび臭かった牢屋から、きれいで明るいしかも良い匂い場所へと変わった。

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