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3章 一難去ってまた一難 魔王の孫娘は不幸?
37.狂いだす歯車
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私達がトゥーランにやって来て、あっと言う間に数日が経った。
パパにはトゥーランの一般教養、龍くんには陽と魔術の講習を受け、家ごと転移したおかげで今の所不自由なく快適な異世界ライフを送っている。
ただ肝心の魔族が人間の敵だと言う洗脳の謎については、まったくと言って良いほど進展がない。だから聖域を巡りながら各地におもむき調べてみようとなった。
セレス姫曰く、アリア姫(まだ姫様だった)が何か情報を持っているかもなので、まずはレジストを目指すことに。
そんな矢先、とんでもない事件は起こった。
「え、ここはどこ?」
気がつくとそこは知らない場所だった。
薄暗くてかび臭くって、なぜか頭がふわふわする。視線の先には鉄格……牢屋?
なんで私はこんな所にいるのだろうか?
記憶を失う前の記憶を思い出す。
確かヨハンさんとルーナスさんを含めた大宴会をしていて、大人達は酒盛りになり盛り上がってたよね?
それで私と太陽は途中で眠くなり、隣の部屋に行こうとして部屋を出たら……背後からいきなり誰かに甘い何かを嗅がされて……記憶がなくなった?
と言うことは、これは誘拐?
記憶を思い出してもそれしか思い出せなくて、何か手がかりになる物がないかと辺りを見回すと、
「ようやくお目覚めのようですね?」
「え?」
突然女性の声がしたので視線を声の方に向けると、唐松模様の着物着た和服美人の女性が私に微笑みかける。
なんだかただならぬ殺気が漂い、思わず息を飲み女性と距離を取る。
「私はニシキと申します。初めまして魔王の孫娘」
「!!」
「そんなに驚かないで下さい。私はあなた様の味方です」
「味方?」
女性は自ら名を名乗り物腰は低くく、私の正体を見抜いた上で敵じゃないという。
殺気はするのに、なぜか殺意はなさそう。
……信じても良いのかな?
「ええ。私はあなた様を主様のところまで案内するよう命じられております」
「主?」
「はい。魔族の長であるシノブ様です」
信じられない名前をニシキは口にする。
意味が分からなかったと言うより、その理由に理解したくなかった。
だって忍と言う魔族は私の命を狙いにトゥーランからやって来て、パパとの激闘の末私の浄化の光で倒したはず。
それなのになんでトゥーランで生きているの?
もしかして名前だけ同じで赤の他人かも……そんな偶然あるはずないか。
考えれば考える程訳が分からなくなるけれども、このニシキを信じたらいけないことだけ理解をした。
脳天気にのこのこ付いて行ったら、私は間違えなく殺される。
「嫌だと言ったらどうなるの?」
「あなた様は人間に処刑されるだけです」
「あなたにではなく?」
「ええ。あなた様は昨夜人間の隠密部隊に拉致され、もうすぐ闘技場で火あぶり処刑されます。魔王の孫娘であるあなた様は、人間にとって何よりもの凶器なのです」
ダメ元で拒否権の選択が出来るかの問いに、顔色一つ変えずに怖ろしいことを答えるニシキ。
心当たりがありまくりで、ショックのあまり目の前が真っ白になる。
恐怖のあまり身体が震えて、その場にしゃがみ込む。
魔王の孫娘である私は、火あぶり処刑。
ニシキに着いて行けば、忍に殺され魔王の器。
どっちを選んでも私には明日がない。
「だったら私のことはほっといてよ」
「ですが、このままここにいたらあなた様は処刑されてしまいますよ」
「あんたと一緒に行っても、殺されるだけじゃない」
「いいえ、主様はあなた様を妻に迎えると言っております」
「それこそ絶対にいや!!」
従いたくないから強気で突っぱねれば、聞きたくない正論が当然のように返ってくるだけ。それでも私は無意味だと分かっても声をあらげ全力で拒否すれば、今度は死より恐ろしい最悪な選択を言われ発狂する。
忍と結婚なんてありえない。
新たなる魔王を生むだけの道具としての結婚なら、火あぶり処刑された方が何百倍もましだ。
…………。
…………。
私はまだ死にたくないよ。
「……パパ……」
「急にどうしたのですか?」
怖くて怖くて涙があふれて、地面にこぼれ落ちる。
どうして私だけがこんな目に合わないといけないんだろうか?
私が魔族で魔王の孫娘だから?
魔族は皆殺し。
知っていてそれでも私はお母さんの意志を受け継いで聖女となったけれど、実際こうして捕まって処刑されるとなると納得が出来ない。
私自身は何も悪いことはしてないのに、どうして?
…………。
…………。
そうだパパは、絶対私を助けに来てくれる。
だから私は恐怖に負けてなんていられない。
すると冷静沈着だったニシキの顔と口調に初めて焦りが見え、私を本気で心配してくれているのか近づき頭をなぜようとするけれど、
バシッ
「触らないで」
その手を思いっきり払いのけ、ニシキを睨み付ける。
ニシキの思い通りにはさせない。
「……申し訳ありません。ですが私は絶対にあなた様を傷つけたりしません。約束します」
「信じない。忍の部下の言うことなんて、絶対に信じない」
よくもまぁそんな心にもないことを息を吐くように言えて、薄っぺらい約束を交わせる。
態度も切なげ再び物腰は低いから信じそうになるけれど、忍の部下と言うだけで信憑性ゼロ。弱々しい態度を見せず怪訝しく断固否定。
攻撃魔術を一発──。
「分かりました。あなた様がそう言うのならば、私は一旦退きます」
「え、本当に?」
「はい。ですがもしあなた様が命の危険に曝された時は、主様の元へ連れて行きます。それではまた」
あっさり私の言い分は通り、ニシキは意味深なことを言いサッと消える。
予想外な出来事に涙がぴったりと止まり、キョトンとしてしまう。
一体、ニシキは何者だったんだろうか?
パパにはトゥーランの一般教養、龍くんには陽と魔術の講習を受け、家ごと転移したおかげで今の所不自由なく快適な異世界ライフを送っている。
ただ肝心の魔族が人間の敵だと言う洗脳の謎については、まったくと言って良いほど進展がない。だから聖域を巡りながら各地におもむき調べてみようとなった。
セレス姫曰く、アリア姫(まだ姫様だった)が何か情報を持っているかもなので、まずはレジストを目指すことに。
そんな矢先、とんでもない事件は起こった。
「え、ここはどこ?」
気がつくとそこは知らない場所だった。
薄暗くてかび臭くって、なぜか頭がふわふわする。視線の先には鉄格……牢屋?
なんで私はこんな所にいるのだろうか?
記憶を失う前の記憶を思い出す。
確かヨハンさんとルーナスさんを含めた大宴会をしていて、大人達は酒盛りになり盛り上がってたよね?
それで私と太陽は途中で眠くなり、隣の部屋に行こうとして部屋を出たら……背後からいきなり誰かに甘い何かを嗅がされて……記憶がなくなった?
と言うことは、これは誘拐?
記憶を思い出してもそれしか思い出せなくて、何か手がかりになる物がないかと辺りを見回すと、
「ようやくお目覚めのようですね?」
「え?」
突然女性の声がしたので視線を声の方に向けると、唐松模様の着物着た和服美人の女性が私に微笑みかける。
なんだかただならぬ殺気が漂い、思わず息を飲み女性と距離を取る。
「私はニシキと申します。初めまして魔王の孫娘」
「!!」
「そんなに驚かないで下さい。私はあなた様の味方です」
「味方?」
女性は自ら名を名乗り物腰は低くく、私の正体を見抜いた上で敵じゃないという。
殺気はするのに、なぜか殺意はなさそう。
……信じても良いのかな?
「ええ。私はあなた様を主様のところまで案内するよう命じられております」
「主?」
「はい。魔族の長であるシノブ様です」
信じられない名前をニシキは口にする。
意味が分からなかったと言うより、その理由に理解したくなかった。
だって忍と言う魔族は私の命を狙いにトゥーランからやって来て、パパとの激闘の末私の浄化の光で倒したはず。
それなのになんでトゥーランで生きているの?
もしかして名前だけ同じで赤の他人かも……そんな偶然あるはずないか。
考えれば考える程訳が分からなくなるけれども、このニシキを信じたらいけないことだけ理解をした。
脳天気にのこのこ付いて行ったら、私は間違えなく殺される。
「嫌だと言ったらどうなるの?」
「あなた様は人間に処刑されるだけです」
「あなたにではなく?」
「ええ。あなた様は昨夜人間の隠密部隊に拉致され、もうすぐ闘技場で火あぶり処刑されます。魔王の孫娘であるあなた様は、人間にとって何よりもの凶器なのです」
ダメ元で拒否権の選択が出来るかの問いに、顔色一つ変えずに怖ろしいことを答えるニシキ。
心当たりがありまくりで、ショックのあまり目の前が真っ白になる。
恐怖のあまり身体が震えて、その場にしゃがみ込む。
魔王の孫娘である私は、火あぶり処刑。
ニシキに着いて行けば、忍に殺され魔王の器。
どっちを選んでも私には明日がない。
「だったら私のことはほっといてよ」
「ですが、このままここにいたらあなた様は処刑されてしまいますよ」
「あんたと一緒に行っても、殺されるだけじゃない」
「いいえ、主様はあなた様を妻に迎えると言っております」
「それこそ絶対にいや!!」
従いたくないから強気で突っぱねれば、聞きたくない正論が当然のように返ってくるだけ。それでも私は無意味だと分かっても声をあらげ全力で拒否すれば、今度は死より恐ろしい最悪な選択を言われ発狂する。
忍と結婚なんてありえない。
新たなる魔王を生むだけの道具としての結婚なら、火あぶり処刑された方が何百倍もましだ。
…………。
…………。
私はまだ死にたくないよ。
「……パパ……」
「急にどうしたのですか?」
怖くて怖くて涙があふれて、地面にこぼれ落ちる。
どうして私だけがこんな目に合わないといけないんだろうか?
私が魔族で魔王の孫娘だから?
魔族は皆殺し。
知っていてそれでも私はお母さんの意志を受け継いで聖女となったけれど、実際こうして捕まって処刑されるとなると納得が出来ない。
私自身は何も悪いことはしてないのに、どうして?
…………。
…………。
そうだパパは、絶対私を助けに来てくれる。
だから私は恐怖に負けてなんていられない。
すると冷静沈着だったニシキの顔と口調に初めて焦りが見え、私を本気で心配してくれているのか近づき頭をなぜようとするけれど、
バシッ
「触らないで」
その手を思いっきり払いのけ、ニシキを睨み付ける。
ニシキの思い通りにはさせない。
「……申し訳ありません。ですが私は絶対にあなた様を傷つけたりしません。約束します」
「信じない。忍の部下の言うことなんて、絶対に信じない」
よくもまぁそんな心にもないことを息を吐くように言えて、薄っぺらい約束を交わせる。
態度も切なげ再び物腰は低いから信じそうになるけれど、忍の部下と言うだけで信憑性ゼロ。弱々しい態度を見せず怪訝しく断固否定。
攻撃魔術を一発──。
「分かりました。あなた様がそう言うのならば、私は一旦退きます」
「え、本当に?」
「はい。ですがもしあなた様が命の危険に曝された時は、主様の元へ連れて行きます。それではまた」
あっさり私の言い分は通り、ニシキは意味深なことを言いサッと消える。
予想外な出来事に涙がぴったりと止まり、キョトンとしてしまう。
一体、ニシキは何者だったんだろうか?
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