普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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2章 私が生まれた世界“トゥーラン”

36.おうちに帰ろう

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 外に出ると空はいつの間にかきれいな夕焼け空になっていた。トンボのような生き物が辺りを飛び交っていて、絵に描いたようなのどかな田舎の風景。

 ひいおばあちゃんが住んでる風景に、ちょっと似ているかも?

「さぁて、そろそろ家に帰るか」
「え、でも黒崎はどうするの?」
「あいつはセレスの元に一旦戻ったから、気にするな。いろいろやることがあるんだろう?」
「そうなんだ。確かに黒崎の居場所があるのだから、心配しなくても平気か」

 龍くんの言葉にさっきから姿を見せない黒崎のことが気になって聞いて見ると、言われて確かにと思たからそれ以上追求するのを辞めた。

 たださっきまではあんなにやる気を見せてたのに別行動なんて変なのと思うも、よく考えれば黒崎の帰る場所がこっちにあるんだから我が家に戻る必要はない。
 それに考え方の異なる私達と四六時中一緒にいても息が詰まるだけ。

「おっさん帰ったら筋トレの続きしようぜ?」
「そうだね? だったら俺達は家まで走って帰ろうか?」
「え?」

 やる気に満ちあふれた つよしだったけれど、パパの素で言う答えが鬼畜過ぎで耳を疑う。
 当たり前のように つよしの生き生きしている表情がそのまま凍りつき固まり、陽なんかドン引きしている。私もこればかりはちょっとって感じだ。

 我が家からトゥーランまで80kmぐらいあるんだよね? 
 それを今からその距離を走るって冗談に思えるけど、真面目なパパなんだから本気なんだろう。

「パパって実は脳筋なの?」
「星歌、星夜は筋金入りの負けず嫌いなんだ。忍にボロ負けしたことが悔しくて、意地になっているだけだ。けして脳筋馬鹿ではない」

 思わず親に対して失礼な台詞を呟くと答えはパパじゃなくって、呆れきった龍くんから返ってくる。


 一見パパの肩を持っているようにも聞こえるけれど、私は脳筋馬鹿とは言っていない。パパはけして馬鹿ではない。

 …………。
 …………。
 脳筋と言う時点、馬鹿って言うことなんだろうか?
 だったら筋トレマニアと言うべきだった?

「あんなみすぼらしい姿を二度と娘には見せられないからな。でもまぁ脳筋だとも思われたくないから、走って帰るのは辞めておく」
「おっさんのそう言う気持ち良く分かるよ。オレだってみすぼらしい姿を何度も見せたくない」
「そうだよな。なら帰ったら一緒に頑張ろう」

 パパの固い決意に つよしは賛同し、男二人は熱く盛り上がる。
 そのまま夕日に向かって走り出しそうな勢いだ。
 こう言うのをきっと美しい男同士の友情と言うのだろうけれど、女の私にはただ暑苦しいなと思うだけ。

「おじさんって、熱血男なんだね?」
「太もだよね?」
「そうなんだよ。あの二人結構馬が合うんだよな? たまについていけない時がある」

 陽にも理解出来ないようで弱冠引き気味で話し合っていると、龍くんに話を加わりうんざりとばかりに呟く。
 確かに龍くんは夕日に向かって走る柄じゃない。どっちかと言うと、要領よく最小限の努力でスマートに終わらせる。
 だから言いたいことは分かる。

 私の知らないパパを知るのは嬉しいけれど、優しくて知的だったイメージが野生児へとなっていきそうで怖かった。言い方を変えれば頼もしいなんだろうけれど、今のところどうしてもそうとは思えない。




「三人とも忘れ物はないか?」
『ありません』

 ブラッケンを出国して今朝同等森の中まで歩き、龍くんはミニバンを元に戻し乗り込み最終チェック後出発する。夕食の買い物もした。

「なんか眠くなってきちゃった」
「だな。オレも眠い………」
「私も」

 車中は我が家の匂いがしていて、ホッと落ち着くなり急に眠気が私を襲う。
 あくびをしながらそう呟けば、太陽も同じようにうとうとしている。もはや熟睡するのは時間の問題だろう。

 今日は本当にいろんなことがありすぎて、まだ半日しか経っていないのが嘘みたい。

 龍くんの隠し子と言うショッキングな出来事から始まり
 聖女の泉ではパパのチートを改めて実感し、聖女のみそぎをしてガーロットが仲間になった。

 そう言えばガーロットはパパのリュックに身を潜めて一度も出て来てないけれど、聖獣とはあんまり人前には出ないだろうか? だったら明日から家に置いてきた方が良いのかな?

【何を言う。我はセイヤのリュックの中が気に入った。これからもここでセイカ達と行動を共にする】

 などと思っているとパパのリュックからガーロットが出て来て、私のひざの上で軽く伸びをしながらそう語り出す。どうやら私の思い過ごしの余計なことだったらしい。

「それはありがとう。これからよろ──」
【駄目~!! この場所はボクの場所なの。ガーロットはセイカのパパのひざの上でしょ?】

 ガーロットの頭をなぜようとした瞬間、怒ったチョピが飛び出たと思えば、ガーロットを蹴っ飛ばし私のひざの上に座る。

 似た台詞を先ほど聞いた気がするのは気のせいだろうか?

【そうなのか?】
【そうなの。セイカは聖女だから、聖霊であるボクなの!!】
【確かにそれはすまぬ……】

 転げ落ちるガーロットの驚きの問いにチョピは強気になって断言すれば、気迫で負けたガーロットはショボンと小さくなり謝ってしまう。見た目は愛らしい仔猫だから可哀想でムギュッとしたくなるけれど、そんなことしたら余計に話がこじれる私はノーコメント。

「星ちゃん、どうしたの?」
「え、ガーロットが私のひざの上に乗ったのが、チョピには気にくわなかった見たい」
「そうなんだ。だったらガーちゃんは私のひざの上で勘弁してね」
「ニャーゴ」

 陽に簡単に事情を話すとそう優しく良いながら、落ち込んでいるガーロットを抱き上げ自分のひざの上に乗せる。ガーちゃんと呼ばれても怒らず、嬉しそうに猫なで声を出し陽に甘えるガーロット。
 
 ……良かった。

「チョピ、私は寝るから静かにしててね」
【だったらボクも一緒に寝る。おやすみセイカ】
「おやすみ……」

再び巨大な睡魔が私を襲い今度は抗うことなく瞳を閉じればあっと言う間に夢の中へ。

 これから先私達を何が待ち受けているのだろうか?
 あんまり過酷な運命だけは、勘弁して欲しいです。

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