普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

文字の大きさ
上 下
53 / 157
2章 私が生まれた世界“トゥーラン”

34.私が産まれた日の話

しおりを挟む
「あれ、ここはどこ?」

 無我夢中で走り続けフッと立ち止まり辺りを見回せば、繁華街を抜けてしまったらしく森林の風景に変わっている。建物と言えば、すっかり荒れ果てた古びた一軒の家だけ。

「ここは……星歌、お前が産まれた場所だ」
「え、私が産まれた場所……」

 どこか懐かしむようにパパが答えたことによって、初めて知る真実に感動してしまい涙が出そうになる。それと同時に淋しさも感じるのは、廃墟となっているから?

 トゥーランでは私が産まれたのは三十年前。
 そう考えると廃墟になっているのは普通なのかな? 建物って人が住んでいないとすぐ痛むって言うぐらいだし。
 
「ねぇパパ。私が産まれた時の話をしてくれる?」
「あ、オレも聞きたい」
「いいよ。──ここは父さんが魔王を倒し村の領主となるまでの三ヶ月ばかり住んでいた住居だ。スピカは素性がバレるのを恐れていて、父さんも目立つことが苦手だったから、繁華街から少し離れたこの場所にしたんだ」

 私とつよしの好奇心に答えるかのように、パパはゆっくり語り始める。




 十六年前


 その日は晴天で暑い日だった。

 ヨハンから
 
 スピカが破水したからすぐ帰って来い。
 
と言う連絡を受けた俺は仕事を速攻切り上げ、全速力で我が家へとめざした。

 絶望のどん底から俺を救ってくれたスピカが妊娠したと聞かされたあの日、我が子が産まれる前に魔王を倒すと強く決意した。
 世界の人達のためにではなく。我が子が心から笑い続けられる平和な世の中にするためなら、俺は何があったとしても挫けないし二度と立ち止まらない。この身がどうなろうと構わな……我が子を一目見るまでは絶対死ねないと思うようになった。だから俺は今こうして生きているのかも知れない。
 そしてそんな我が子にようやく会えることが嬉しくて、人混みの中でも叫んでしまいそうだった。




「今帰──」

「んぎゃんぎゃー」
 
 我が家の扉を開けると、今まで聞いたことがない元気な産声があがる。
 おそらく一生涯忘れることはない世界で一番美しい声。

 我が子“星歌”が産まれたんだ。

「スピカ、星歌」

 嬉しさのあまり妻と子の名前を大声を呼び、いそいで産声がする寝室に行くと、


「セイヤ、うるさい。少しは静かにしなさい」

 怒ったヨハンが出てきて、そう言いながら脇腹を殴る。
 
 痛かった。

「な何すんだよ?」
「そんな大声を出したら、スピカとセイカちゃんに迷惑でしょ?」

 ヨハンの言葉のおかげで我に返った俺は何も言い返せなくなる。
 ベッドには汗だくになり、赤目にキバそして尖った耳の本来の姿に戻っているスピカ。そんな姿を見てしまうと、自分があまりにも情けない。

 いくら浮かれていたとは言え、騒ぎすぎた……。

「……すまない。嬉しかったんだ……」
「ヨハン、そのぐらいにしてあげなさい。セイヤ、おめでとう。すごい可愛いだろう?」

 苦笑しながらルーナス先生はヨハンにそう言うが、俺には笑顔を浮かべ激励された後大切に抱いている赤ん坊を見せられる。

 玉のように愛らしい。

 それはこの子のためにある言葉なのだろう。

 どんな輝く美しい宝石よりも、輝いている産まれたばかりの星歌。
 俺の娘は天使かも知れない。

 そっとルーナス先生から星歌を受け取り抱き上げると、何もかもが小さく力の加減少しでも間違えてたら、壊れそうなガラスの彫刻。
 それなのに見た目以上にずっしり重く感じられるのは、父親の責任と言う物が含まれているのだろうか? だとしたら責任重大だな。

 星歌には悲しい思いも苦しい思いも寂しい思いもさせたくない。
 一生笑顔でいて欲しい。
 そのためなら何があったとしても、星歌は俺が護ってみせる。
 

「スピカ、お疲れ様。星歌を産んでくれてありがとう」
「どういたしまして。私もセイカに逢えて本当に嬉しいよ。これからは三人仲良く暮らしていこう」
「当たり前だ。俺が何があっても二人を護るよ」

 スピカの側に行き感謝の気持ちを伝えれば、スピカは幸せそうに当たり前のことを言うから胸を張って断言する。


 絶望を知り更なる大切な仲間達の犠牲の上でようやく魔王を倒した後の世界は、夢と希望が満ちあふれる輝かしい未来。もちろん俺が護れなかった人達をけして忘れることなく、これからも懺悔はし続けるつもりだ。
 それでも俺は幸せでこの先スピカと供に星歌の成長を温かく見守り、笑いが絶えない誰もが羨む家庭を家族になる。
 スピカと星歌を世界で一番幸せに……俺が今世界で一幸せだから、それより幸せにするのは難しいかも知れないな。

 俺の未来は、とにかく輝いている。






「おっさんにとって星歌は産まれる前から、特別で大切な存在だったんだな」

 私の産まれた日の話が終わると、しみじみとつよしは呟き暖かな眼差しを向けられる。
 なんだかそれがくすぐったくって、一緒に聞けて良かったと思う。

 私が産まれてきたことに両親は喜んでくれ、そして愛されていた。
 不安なんて一切ない本当に幸せだった日々だったんだね。

「パパ、私は今でもとっても幸せだよ」

 少し悲しげな表情を見せるパパに、それだけ言って私は微笑む。

 パパにとっては私がいて幸せでも苦しい日々なんだろうけれど、私にとっては幸せな毎日であることは間違えない。
 パパが命をかけてでやって来たことは、無駄なんかじゃないって知って欲しかった。

 するとパパは嬉しそうな表情へと変わり、何も言わず私の頭をなぜてくれる。

 やっぱり私は幸せ者だ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...