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2章 私が生まれた世界“トゥーラン”

32.英雄達の先生

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「お久しぶりです。ルーナス師匠。元気そうで何よりです」
「リュウノスケも元気そうだな」
「はい。──って星歌と太陽、お前らもここに来てたのか?」

 いつもと違った龍くんの腰の低い姿に珍しさを感じその様子を黙って伺っていると、挨拶が終わった後私達を見つけ目を見開き問うから、私達は反射的に黙って深々と頷く。

 龍くんの四人目の元恋……師匠と呼んで低姿勢だからいくらなんでも違うか。

「なんだ。リュウノスケの知り合いか」
「はい、オレの教え子達です。彼がつよしで彼女が陽と──」
「星歌です。ルーナス先生、お久しぶりです」
「セイヤ? やっぱり生きていたんだな。だったらやはりスピカのことはガセ情報か」

 正体を隠していると思ったパパが龍くんの台詞を割り込み、フードを脱ぎ私の肩を抱き寄せ女性ルーナスさんに紹介する。それを聞いたルーナスさんは涙ぐみ微笑む。

 まさか龍くんじゃなくってパパの彼女……同じく先生だからそれはないか。それにパパはお母さん一筋だって言っている。

「ルーナス師匠。オレ達の話を聞いて下さい」
「そのようだな。今日は店じまいをして話を聞こう」

 ルーナスさんの正体が知りたいけれどなんだか話に入っていけず、すっかり大人達の会話になってしまい私達は蚊帳の外になってしまった。だからと言って私達だけこの場を抜け出し観光再開できる雰囲気でもない。





 ルーナスさんの正体は龍くんの魔術の先生で、魔術師では有名な人。
 人間でもない魔族でもないエルフだからなのか人間の洗脳は受けてはおらず。二十八年前の事件に疑問を抱いたらしいが、人間が魔族を敵だと思うように魔族も人間が敵だと思っているため、その辺については何も疑問を持たなかったそうだ。
 それだけ人間と魔族の関係は、今や最悪になっている。

「事情は良く分かった。私も洗脳について調べておくよ。それよりこの子らに、この世界の相場を教えた方が良い。一つの買い物に真顔で相談しないと買えない。その姿は可愛らしいが、世の中物騒だからな」
『…………』

 すべて見られて悟られごもっと過ぎる指摘をされてしまい、恥ずかしくって何も言えない私達。

「そう言えば教えてなかったな。すまない。この鳥が描いてあるのはギル銅貨おおよそ十円、女性が描いてあって縁がギザギザなのがベル銀貨で百円。ギル銀貨は千円、ベル銀貨は一万円。金貨はベルのみで十万円になっている。黒崎くんからさっきレクチャーを受けたから間違いないだろう」
『なるほど』

 パパの分かりやすい説明に私達は一度聞いただけで納得をする。

 だとしたら陽の買いたいタロットカード? は、三万円と言うことになる。価値が分かっても、相場が分からないからこれは妥当……龍くんの先生だからぼったくりはない?

「それで何を買おうとしてたんだ?」
「占い師用のカード武器です。ベル銀貨三枚と言われました」
「これだよ。こいつがその娘を選んだらしい」
「なるほどな。そう言うことなら買わせてもらいます」

 陽とルーナスさんの事情を聞いた龍くんは、品定めをせずに即決する。

 三万円を即決するなんて凄すぎる……。
 それとも武器の相場がそう言う物だろうか?
 しかもここは恩師の店だから、品定めをしなくても確かな物?

「え、良いんですか? ベル銀貨三枚って大金じゃ……」
「武器が主を選ぶと言うだけで、その武器は確かな物なんだよ。逆にその値段はめっけもんだ」

 陽も私と同じ疑問を持ち申し訳なさそうに問うえば、龍くんは笑顔になりなるほどね? と言う答えが返ってきた。龍くんがそう言うのなら間違えはなく、陽も安堵し木箱を大切そうに抱きしめる。

「私も──」
【星歌にはボクがいるの。そんな武器ボクは許さないもん】
「え、チョピは武器だったの?」

 ほっぺをぷくっと膨らませたチョピがバッグからいきなり飛び出して、耳を疑う新事実を言ってくる。嘘ではなく本気だから余計に戸惑う。

 確かに私はチョピに選ばれ聖女になった。
 だけどチョピは生き物でちゃんと意志を持っているから、武器ではないと思うけれども変身するのかな?

【違うよ。聖女は武器なんて必要ないの】
「なんだそう言うことか。だったらいらないね」

 それでも武器は欲しいは思うも、気迫に負けてしまい納得させられてしまう。するとあっと言う間にチョピの機嫌がなおる。

 そこまで私に武器を持たせたくないんであれば、チョピの言うことを聞いておこう。
 チョピに嫌われたら最悪だし。

「ほぉー、こいつは伝説の聖霊チョピじゃないか? だとするとセイカは聖女なんだな」
「はい。聖女の使命はお母さんの夢と同じで、人間と魔族が手を取り合う世界にすることです」
「それは素敵な目使命だ。頑張りなさい」

 チョピに興味を持ち詳しいことを知っている口調だったから、疑いもなく胸を張って使命の話をすると優しい笑顔で応援してくれ頭をなぜられる。

 なんだかリラックス出来て嬉しいな。

「所でリュウノスケとセイヤは何を買いに来たんだい? 生存報告だけではないだろう?」
「はい。魔力量をある程度抑える薬を二本と、トラップ魔術察知マスクを買いに来ました」
「マスクはセイヤが掛けるんでいいんだね? すぐに用意しよう」
「はい、よろしく頼みます」

と言ってルーナスさんは席を立ち様々な瓶が置かれている棚から液体の入った小瓶二本と、その下の引き出しからマスクと札をを五つを取り出し持ってくる。

「全部でベル銀貨五枚だよ。それとこれはおまけだよ。絶体絶命だと思った時これに強く念じれば、一度だけ災いを軽減させることが出来る」

 おまけと言う割には間違いなく凄い品物で、ひょっとしたら一番価値がある物かも知れない。
 そんな物をおまけと言うルーナスさんは太っ腹だ。

「ありがとうございます。今度はゆっくり食事でもしましょう」
「そうだね。その時は遠慮なくお酒を奢ってもらおう。もちろん、セイヤも一緒にな」
「もちろんです。楽しみにしています」

 パパと龍くんはすっかり私にはけして見せない生徒の顔になっていた。

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