普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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2章 私が生まれた世界“トゥーラン”

28.魔族差別

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 ブラッケンは中世ヨーロッパの町並みに似ていた。まるでおとぎの国に迷い込んだみたいで、見ているだけでも楽しくて段々足取りが軽くなっていく。繁華街も行き交う人々も活気に満ちあふれていてのどかな風景だった。

 平和。
 って言ったら、黒崎に怒られるかも知れないけれど、こんな光景を見ているとても危険だとは思えない。

 そう思っていると目の前を急いでどこかに向かっている少女が過ぎ去ろうとした時、、何かにつまずきバランスを崩し派手に転ける。その瞬間少女の髪? が勢いよく抜け私に直撃。
 私もバランスを崩し転けそうになるけれど、パパではない誰かに抱きかかえられ転けずにすむ。

「星歌、大丈夫か?」
「え、あうん。ありがとう……」

 それはつよしだったらしく心配してくれる声に驚くも、なんとか平常心を保ち受け答えは出来たと……思う。慌てて体制を立て直し、違和感がない程度につよしから離れる。

 心臓が激しく高鳴り、体中が燃えるように熱い。恥ずかしくってつよしの顔が見られない。

 ……つよしの匂いは太陽と仔犬のが混ざった匂いで、もっと……強く抱きしめて欲しい──
 !?

 私は一体何を妄想してるんだ? だめだ。何か別のことを考えないと、とんでもないことをやらかしてしまいそう。


「あなた、大丈夫? あ、ここちょっとすりむいちゃったね」

 急いで視線を目の前に向けると、陽は少女を駆け寄り抱き起こし洋服についた砂ぼこりをはらい、膝に怪我をしていることに気づくとハンカチで血を拭き取っていた。

「……うん。──!?」

 今にも泣き出しそうな五歳ぐらいの少女は小さく返事をしたけれど、何かを見つた瞬間急いで頭を触れば顔が一気に青ざめた。
 少女の髪は黒からオレンジに変わっていて、少女の視線の先は黒のロングを訳も分からず持ったパパだった。
 途端に感じる周囲の視線は、好奇な物と冷たい物。明らかに異様な空気が私達を包んでいく。

「どうかした?」
「……お姉ちゃんはあたいの今の姿は怖くないの?」
「え、怖くないけど、どうして?」

 脅え続ける少女のちょっと分からない問いに、陽も分からず不思議そうに聞き返しながらも傷口に絆創膏貼る。うさぎ柄の可愛い絆創膏。
 すると私達とは微妙に距離を取っていた黒崎が陽に近づき

「佐藤、あまりハーフ魔族と関わらない方がいい。お前まで周りから白い目で見られるだけじゃなく、憲兵団に目を付けられるぞ?」
「──あたいは、ハーフ魔族なんかじゃないもん」

 周囲を気にしながら小声で異常だと思えてもトゥーランだから当たり前の警告すると、少女は泣きながらに黒崎を睨み強く言い捨てどこかに走り去っていく。
 私も分かりきっていたとは言え、それを聞くのは辛くて嫌な気持ちが押し寄せてきた。でもここで辛い顔をしたら、パパが悲しむから私は辛い顔を見せられない。

 私もいつもの姿で街を歩いていたら、私もあの子と同じく周りから白い目で見られる。良く分からないけれど憲兵団に目を付けられる。
 ハーフ魔族でもそうなんだ。
 ……そんなの絶対に嫌だな。
 そんな目にあったら、悲しくて辛くて泣いてしまうかも知れない。

「……なぁ師匠。時間になったらギルドに行くから、三人で観光してきて良いか?」
「あ、それいいね」
「そうだな。オレと星夜はちょっと調べたいことがあるからそうしてくれ。星夜もそれでいいよな?」
「ああ。黒崎くんも付き合ってくれ」
「え、あはい」

 突然のつよしの思いつきに陽もすぐに乗り気になると、龍くんとパパは何かを察したのか理由を聞かず頷き、陽に何かを渡し黒崎を無理矢理連れて行ってしまう。黒崎も私と一緒のようで、何も分かっていない感じだった。あまりにも突然過ぎる展開に、頭が付いていかない。
 
 ここはブラッケン。右も左もまだまったく分からないのに、なんでいきなり自由行動?

「いきなりどうしたの?」
「ほら保護者がいたんじゃ、好き勝手出来ないだろう?」
「そうそう。軍資金も沢山もらったから、めいいっぱい楽しもうよう」
「ううん?」

 お気楽なつよしだけなら浮かれてそうなるのは分かるけれど、陽までもが柄にもなく浮かれている気がする。まったく流れが読めずちんぷんかんぷんの私を、太陽は同じ笑顔を見せ右手を陽が左手を太がつなぎ歩き出す。私は訳も分からず二人についていく。







「ここならもう大丈夫だな」
「やっぱり私達は同じことを考えていたんだね?」
「一体ここに何があるの?」

 太陽に連れてこられた場所は、聖女の泉の洞窟がある森だった。いつも通り以心伝心している太陽にちょっと疎外感を感じるも、こればっかりはしょうがないと思いながらも目的を聞いてみる。

「星歌。もう強がらなくて良いんだぜ」
「え?」
「黒崎くんの言葉にショックを受けたんでしょ? でもあそこにはおじさんがいたから、星ちゃんは我慢したんだよね?」

 隠していたつもりが二人には何もかもがお見通しのようで、しかも私のためにわざわざ人気のないとこまで連れてきてくれた。優しい理由が分かると何かが途切れたのか、涙が溢れこぼれ落ち弱い自分が表に出てくる。

「二人ともありがとう。ハーフ魔族が差別される世の中だって分かっていたはずなのに、実際目の辺りにしたら悲しくて辛くなったんだ。でもそんなことを言ったらパパがますます傷つくから……」

 弱音と本音を呟きだす。

「星ちゃんは本当におじさん思いだよね? でもそう言う時は私と太がいるんだから、遠慮なく頼って欲しいんだ」
「おっさんに言えないことでも、オレ達になら言えるだろう? ちゃんと陽と受け止めてやるからさ」
「……太陽。ありがとう」

 それが当然と言わんばかりに太陽は私に助け船を出してくれる。
 悲しいよりも嬉しくて幸せで、涙がますます止まらなくなり二人にありったけの弱音をこぼしていた。
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