普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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2章 私が生まれた世界“トゥーラン”

24.聖女のみそぎ

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【ここが聖女の泉だ】
「わぁ~きれい」

 ようやく聖女の泉に辿り着けば、そこは幻想的な世界だった。

 泉の水はキラキラ光るエメラルド色で透明度は半端ない。見たことのない色鮮やかな魚が優雅に泳いでいて、蝶達は優雅に空を舞っている。光り輝き色とりどりの花達はきれいに咲き誇り、大木に生い茂る葉がかすれる音は心地よいメロディー。
 聖女の泉に相応しい場所。

【みそぎが終わったら我の加護を授けよう】
「え、試練とかないの?」
【我の穢れを祓った。それでもう充分だろう】
「確かにそうだよね」

 どんな試練が始まるかと唾を飲み込み心して聞いていれば、最初に私が抱いていたみぞぎだけで終わるシンプルな内容だった。
 あまりのことに拍子抜けしてしまい反射的に聞き返せば、誰もが納得する答えが即答される。
 
 でもその言い方だと、本当は試練を受けさせる予定だった。
 なんの試練なのか予想は付かないけれど、堅物だろうガーロットからして難しい内容なんだろうな。聞くのが怖いから辞めとこう。

【ガーロットもセイカのことが気に入ったんだね?】
【さよう。だが我はどっちかと言えば、セイヤの方が気に入っておる】
【ボクもセイカのパパは好きだよ。でもセイカの方がもっと大好き】
「あありがとう……」

 聖獣と精霊(今思ったんだけれど、聖霊?)に好まれるのは聖女の宿命なんだろうか?
 妙に恥ずかしい……でもチョピの好きはLIKEだろうから、私も大好きって言えば良いのかな?
 LIKEで良いんであれば、私もチョピが大好き。
 たった一日だけの付き合いだけれど、そう言えば私はチョピに一目惚れだったんだよね? 

【うん。じゃぁ早くみそぎを済ませよう】
「そうだね。パパ、みそぎに行ってくるね」
「ああ。父さんはここで待っているから、何かあったら大声を出しなさい」

 さすがのパパも娘のみそぎに同行するとは言わず、少しだけ心配の表情を浮かべそう言いながらリュックからバスタオルを取り出し渡される。用意周到なパパらしい。

「ありがとう。ねぇチョピ、どこでみそぎをすれば良い?」
【どこでも良いけれど、セイカのパパに見られないで大声を出せば聞こえる場所が良いよね? あの大木の辺りはどうかな?】
「そうだね。そうしよう」

 特定の場所でみそぎをするのかと思えば自由らしく、でも意外にもチョピは常識があるようでそんな配慮をしてくれる。
 一部パパを誤解した言い方をされうん? となるも、確かにそうだなと思い提案された通り大木へと向かう。

 パパはのぞきなんて絶対しない。
 のぞきは絶対にしないとは思うも、それ以外に疑わしきことがある。
 パパにとって私は女ではなくいつまで経っても目に入れても痛くない子供だから、この前見たく緊急事態であれば寝ている私の着替えを平気でやるからそこは信用がない。

 ……父親だからしょうがないのかな?








 チョピを抱きしめ泉に入ることによって、聖女のみそぎが始まる。

 とのことなので、準備を終えた私はチョピを抱いて、まずは片足のつま先だけを泉に入る。
 ブルッとなるぐらいの冷たいと感じ嫌だなと思いながら気合いを入れ全身入れると、不思議なことにこれなら我慢できるかも知れない。何よりも足が届く深さだからこれなら溺れることもないだろう。

「チュピチュピ、チュピーン」

 チュピが多分呪文を唱えると、泉の色がエメラルドから黄金にパッと変わり光り輝きだす。魚達が私の元に集まってきて、ドクターフィッシュのように体中をつつかれる。痛いと言うよりくすぐったくって気持ちがいい。
 
「これがもしかして体を清めてるの?」
【そうだよ。セイカの心はきれいだから気持ちいいって感じるけど、心が汚いと痛いって感じるんだよ。だからセイカは聖女に相応しいの】

 チョピの迷いなき言葉に、少しだけ罪悪感を抱く。

 私の心は本当にきれいなの?
 自分ではそうは思わない。

 反抗期には勉強せずに夜遊びばかりしていたんだよね?
 パパの言うことなんて一切聞かず、生意気なことばかり言って困らして……。
 挙げ句の果てには興味本位で援交をする所だったけれど、パパが必死になって止めてくれたおかげで、私の反抗期は終わり更生して現在に至る。

 そんな封印している黒歴史をチョピに話したら、幻滅されて聖女に相応しくないって言われるのかな? そう言われても自業自得なんだからしょうがないけれど、……悲しいな。
 
【言わないよ。だってセイカはちゃんと悪いことだって気づいて反省してるでしょ? だからセイカは聖女に相応しいの。聖女はきれいな心の持ち主だけれど、多少の汚い心も必要なんだ。聖女の役目よりも自分を大切にして欲しい。そもそもボクは自己犠牲者は苦手だから、聖女になんて選ばないもん】
「……っぷ。何それ」

 途中まではすごく良い台詞で感動寸前で涙が出てしまいそうだったのに、最後の台詞ですべてが台無しとなり涙は引っ込み変わりに吹きだしでしまう。だけど頬をプッと膨らませ本当につまらなそうに呟く辺り、それがチョピの紛れもない本音なんだろう。
 心配しなくてもチョピは私の本性を知った上で、好きだと言ってくれた。

 悪いことをしても気づいて反省すれば、きれいな心にまた戻れる。
 そしてチョピが望む聖女は、きれいな心と多少汚い心を持っていて、自己犠牲しない人。
 私がただ魔王と英雄の血を受けついているから聖女になったわけでもないんだね。
 そう言うことなら確かに私は聖女に相応しいのかも知れない。

 そう思った瞬間、蝶達がまるで祝福してるように私の周り集まり可憐に舞い始め、花達も軽やかに透き通る声で歌いだす。

【これで聖女のみそぎは終わりだよ】

 そしてチョピはニコッと笑い私の額に口づけをすると、脳裏に優しくて暖かい浄化の光とは違う新しい言葉に出来ない文字が浮かび上がった。
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