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2章 私が生まれた世界“トゥーラン”
18.龍くんの元恋人
しおりを挟むブラッケンにミニバンで入国したら騒ぎになると言うことなので手前の森の中で降り、龍くんはミニバンをミニチュアサイズにしてリュックにしまいそれから少しだけ徒歩移動。
そしてどうやって入国審査をパスするんだろうと思っていたら、黒崎の知り合いで話はすぐ通りなんなく入国が出来たんだけれど……事件は入国して何をしようか迷っていた時に起きてしまった。
「リュウノスケ様……」
きれいな年配の女性は龍くんの顔を見るなり涙を流し、一目散に龍くんに抱きつき声に出し泣き出す。
何もかもが突然で私達は唖然と龍くんを見つめると、龍くんは戸惑い女性を見つめる。
「あのどちら様でしょうか?」
心当たりがないらしい。
「私です。ステーフです」
「は?」
「……ステーフって確か龍ノ介の恋人じゃないか?」
女性は名前を名乗るも、気づいたのは龍くんではなくパパだった。
しかも恋人という言葉を陽は聞き逃すはずもなく、顔から一気に血の気が失い真っ青になっていく。
私はそっとそんな陽を支えた。
「……あ。そう言えばトゥーランは二十八年の年月が流れているんだったな。つまり十七だったステーフは四十五。……オレより十五も年上になってるじゃないか?」
ようやく龍くんもステーフさんを思い出すも異なった時間の流れは悲劇のようで、現実を知ると表情も動きも固まり動かなくなった。
「リュウノスケ様?」
「ちょっと軽い目まいが……」
「だったら少し私の……いいえリュウノスケ様の家で休んで行かれませんか?」
「……龍ノ介さんの恋人が、龍ノ介さんの家に住んでいる……」
「ひ陽?」
様々な事実が発覚し続けたため、陽はショックのあまり気を失い私へと倒れ込む。
「……龍くん、サイテー……」
「師匠、見損なったぜ?」
ステーフさんの案内でやって来たのは家と言うより大きな屋敷で、そこにはステーフさん以外にナーシャさんと言う女性も住んでいた。彼女もまた龍くんの恋人だったらしい。
そして彼女達と龍くんに経緯を説明してもらったんだけれど、私の頭では到底理解出来ず軽蔑の眼差しを龍くんに向けてしまった。あんなに尊敬している太《つよし》さえも。
ちなみに気絶した陽は客間で寝かしてもらっている。
黒崎は私達が来たことを姫様に知らせに行く言って、嫌がるチョピを無理矢理連れ別行動。
トゥーランには実力者は多数交際が認められている。
だから当然英雄である龍くんにも多数交際が認められていたから、恋人や妻が何人いようが彼女達さえ納得すれば問題はなかった。事実彼女達はそれでも構わなかったらしく龍くんと五人の恋人は当時仲良く屋敷に住んでいたらしい。龍くんが地球に戻る時に全員と円満に別れたとか。
その後三人は屋敷を出て二人は別の人と新しい家庭を作り幸せに暮らしている。ナーシャさんもこの屋敷で庭師だった旦那さんと子供達とで幸せに暮らしているらしいから、ここまでだったらまだ大人の男性なら良き思い出なのかも知れない。
でも私は女性でお子様だからそれでもなんだか不潔を感じてしまい、もう二度と恋愛相談をしないと固く誓った。
そして更な龍くんも知らなかったる真実が発覚。
なんとステーフさんは別れた後に妊娠をしていることが分かり、迷うことなく出産したそうだ。今は姫様の側近として働いているらしく、年齢を聞いたらこれまたびっくり二十七歳。龍くんと三つしか違わない。
「これは完全なる不可抗力だ。いくらオレでも妊娠している相手を残して、地球へ戻ったりはしない。……連れて帰っていた」
テーブルをバンと叩き釈明を懸命し私達の賛同を得ようとしているけれども、微妙な沈黙が気になる。
しかしそれは当然すぎる回答で、逆にそれでも残して帰ったと言ったら龍くんは人間のクズ。
陽には悪いけれど全力で…… 陽だってバカではないから幻滅して恋心を失せるか。
もう今の段階で龍くんへの恋心は失せるかもだけれど……。
「ステーフさん、すまない。俺があの時龍ノ介の好意に甘えたばかりに、君と子供を不幸にさせてしまったんだな」
黙って話を聞いていたパパは龍くん以上に責任を感じているようで、席を立ち床に座りステーフさんに土下座で謝罪する。
言われて思い出す。
龍くんはパパと私のために一緒に地球へ戻ってきてくれて私を育ててくれた。
さっきはサイテ-って言っちゃったけれど、もし私がいなかったら龍くんは地球に戻らずステーフさんと結婚していた。私もパパのように謝らないといけない?
しかし
「セイヤ様、頭を上げて下さい。私は今まで不幸だと思ったことは一度もありません。それどころか最愛の人の子供を産めて、育てることが出来てすごく幸せでした。それに金銭面でも何自由することなく、息子の才能を最大限に伸ばせられたのですよ」
ステーフさんはなんの迷いもなく笑顔でそう答えてくれた。本当に幸せそうで嘘ではないと思う。
「……ステーフ。今さらだがオレに出来る事があればなんでも言ってくれ。……さすがに結婚は無理なんだが……」
前言展開、やっぱり龍くんはサイテーかも知れない。
「でしたらリュウノスケ様達がブラッケンにいる間は、ここに住んで私にお世話をさせて下さい」
「え、あうん。それでいいのならこちらこそよろしく頼む」
なのにステーフさんは本当にいい人でそれでもなお健気な申し出に、龍くんは拍子抜けしてしまい反射的に頷くだけ。するとステーフさんはとびっきりの笑顔を浮かばせる。
いいのかそれで?
「ありがとうございます。では私はヒナタ様の様子を見てきますね」
「それなら私も」
「母上、どちらにいらっしゃるのですか?」
何はともあれ一端話は落ち着き心晴れ晴れのステーフさんはそう言って部屋を出ようとするから私も一緒に行こうと思い席を立つと、突然部屋の外が騒がしくなりただ事ではない男性の声が聞こえた。
「リュウ、どうしたの? 私ならここよ」
ステーフさんは扉を開け、声の主の呼びかけに応じる。
『リュウ?』
「リュウノスケ様の息子の名です」
「…………」
名前に違和感を覚えたのは私だけではなくみんなで復唱をハモらせれば、ナーシャさんはやっぱりなと言う答えを即答した。怒っている口調。
ちなみにナーシャさんはさっきからどこか龍くんを軽蔑している眼差しを向けていて、龍くんも彼女と視線を合わそうとせず今はあまりのことに絶句する。
たった今発覚した息子の存在なのに、心の準備をする暇もなくすぐに対面。
これは龍くんじゃなくても非情に気まずい。
私まで緊張してきて張り詰めた空気に息を飲む。
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