普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

文字の大きさ
上 下
37 / 157
2章 私が生まれた世界“トゥーラン”

18.龍くんの元恋人

しおりを挟む

 ブラッケンにミニバンで入国したら騒ぎになると言うことなので手前の森の中で降り、龍くんはミニバンをミニチュアサイズにしてリュックにしまいそれから少しだけ徒歩移動。
 そしてどうやって入国審査をパスするんだろうと思っていたら、黒崎の知り合いで話はすぐ通りなんなく入国が出来たんだけれど……事件は入国して何をしようか迷っていた時に起きてしまった。


「リュウノスケ様……」

 きれいな年配の女性は龍くんの顔を見るなり涙を流し、一目散に龍くんに抱きつき声に出し泣き出す。
 何もかもが突然で私達は唖然と龍くんを見つめると、龍くんは戸惑い女性を見つめる。

「あのどちら様でしょうか?」

 心当たりがないらしい。

「私です。ステーフです」
「は?」
「……ステーフって確か龍ノ介の恋人じゃないか?」

 女性は名前を名乗るも、気づいたのは龍くんではなくパパだった。
 しかも恋人という言葉を陽は聞き逃すはずもなく、顔から一気に血の気が失い真っ青になっていく。
 私はそっとそんな陽を支えた。

「……あ。そう言えばトゥーランは二十八年の年月が流れているんだったな。つまり十七だったステーフは四十五。……オレより十五も年上になってるじゃないか?」

 ようやく龍くんもステーフさんを思い出すも異なった時間の流れは悲劇のようで、現実を知ると表情も動きも固まり動かなくなった。

「リュウノスケ様?」
「ちょっと軽い目まいが……」
「だったら少し私の……いいえリュウノスケ様の家で休んで行かれませんか?」
「……龍ノ介さんの恋人が、龍ノ介さんの家に住んでいる……」
「ひ陽?」

 様々な事実が発覚し続けたため、陽はショックのあまり気を失い私へと倒れ込む。




「……龍くん、サイテー……」
「師匠、見損なったぜ?」

 ステーフさんの案内でやって来たのは家と言うより大きな屋敷で、そこにはステーフさん以外にナーシャさんと言う女性も住んでいた。彼女もまた龍くんの恋人だったらしい。
 そして彼女達と龍くんに経緯を説明してもらったんだけれど、私の頭では到底理解出来ず軽蔑の眼差しを龍くんに向けてしまった。あんなに尊敬している太《つよし》さえも。

 ちなみに気絶した陽は客間で寝かしてもらっている。
 黒崎は私達が来たことを姫様に知らせに行く言って、嫌がるチョピを無理矢理連れ別行動。

 トゥーランには実力者は多数交際が認められている。
 だから当然英雄である龍くんにも多数交際が認められていたから、恋人や妻が何人いようが彼女達さえ納得すれば問題はなかった。事実彼女達はそれでも構わなかったらしく龍くんと五人の恋人は当時仲良く屋敷に住んでいたらしい。龍くんが地球に戻る時に全員と円満に別れたとか。
 その後三人は屋敷を出て二人は別の人と新しい家庭を作り幸せに暮らしている。ナーシャさんもこの屋敷で庭師だった旦那さんと子供達とで幸せに暮らしているらしいから、ここまでだったらまだ大人の男性なら良き思い出なのかも知れない。
 でも私は女性でお子様だからそれでもなんだか不潔を感じてしまい、もう二度と恋愛相談をしないと固く誓った。
 
 そして更な龍くんも知らなかったる真実が発覚。
 なんとステーフさんは別れた後に妊娠をしていることが分かり、迷うことなく出産したそうだ。今は姫様の側近として働いているらしく、年齢を聞いたらこれまたびっくり二十七歳。龍くんと三つしか違わない。


「これは完全なる不可抗力だ。いくらオレでも妊娠している相手を残して、地球へ戻ったりはしない。……連れて帰っていた」

 テーブルをバンと叩き釈明を懸命し私達の賛同を得ようとしているけれども、微妙な沈黙が気になる。
 しかしそれは当然すぎる回答で、逆にそれでも残して帰ったと言ったら龍くんは人間のクズ。
 陽には悪いけれど全力で…… 陽だってバカではないから幻滅して恋心を失せるか。
 もう今の段階で龍くんへの恋心は失せるかもだけれど……。

「ステーフさん、すまない。俺があの時龍ノ介の好意に甘えたばかりに、君と子供を不幸にさせてしまったんだな」

 黙って話を聞いていたパパは龍くん以上に責任を感じているようで、席を立ち床に座りステーフさんに土下座で謝罪する。

 言われて思い出す。
 龍くんはパパと私のために一緒に地球へ戻ってきてくれて私を育ててくれた。
 さっきはサイテ-って言っちゃったけれど、もし私がいなかったら龍くんは地球に戻らずステーフさんと結婚していた。私もパパのように謝らないといけない?
 
  しかし

「セイヤ様、頭を上げて下さい。私は今まで不幸だと思ったことは一度もありません。それどころか最愛の人の子供を産めて、育てることが出来てすごく幸せでした。それに金銭面でも何自由することなく、息子の才能を最大限に伸ばせられたのですよ」 
 
 ステーフさんはなんの迷いもなく笑顔でそう答えてくれた。本当に幸せそうで嘘ではないと思う。

「……ステーフ。今さらだがオレに出来る事があればなんでも言ってくれ。……さすがに結婚は無理なんだが……」

 前言展開、やっぱり龍くんはサイテーかも知れない。

「でしたらリュウノスケ様達がブラッケンにいる間は、ここに住んで私にお世話をさせて下さい」
「え、あうん。それでいいのならこちらこそよろしく頼む」

 なのにステーフさんは本当にいい人でそれでもなお健気な申し出に、龍くんは拍子抜けしてしまい反射的に頷くだけ。するとステーフさんはとびっきりの笑顔を浮かばせる。

 いいのかそれで?

「ありがとうございます。では私はヒナタ様の様子を見てきますね」
「それなら私も」

「母上、どちらにいらっしゃるのですか?」

 何はともあれ一端話は落ち着き心晴れ晴れのステーフさんはそう言って部屋を出ようとするから私も一緒に行こうと思い席を立つと、突然部屋の外が騒がしくなりただ事ではない男性の声が聞こえた。

「リュウ、どうしたの? 私ならここよ」

 ステーフさんは扉を開け、声の主の呼びかけに応じる。

『リュウ?』
「リュウノスケ様の息子の名です」
「…………」

 名前に違和感を覚えたのは私だけではなくみんなで復唱をハモらせれば、ナーシャさんはやっぱりなと言う答えを即答した。怒っている口調。
 ちなみにナーシャさんはさっきからどこか龍くんを軽蔑している眼差しを向けていて、龍くんも彼女と視線を合わそうとせず今はあまりのことに絶句する。

 たった今発覚した息子の存在なのに、心の準備をする暇もなくすぐに対面。
 これは龍くんじゃなくても非情に気まずい。
 私まで緊張してきて張り詰めた空気に息を飲む。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

処理中です...