普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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1章 再び動き始めた運命の歯車

17.いざ聖都へ

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 聖都ブラッケンを目指し草原をミニバンが走る。
 信号もなく車も人さえもいないから、スピードはどんどん加速して行く……パパに睨まれほどほどとなった。
 パパはいつでも安全第一。


「ね、星ちゃん。あっちに可愛らしい生き物がいるよ」
「え、どこどこ。……あ、本当だ可愛い」

 すっかりサファリパーク気分になっている私と陽はさっきから見たことがない生物を見るなり歓声を上げ、今もまた新しい生物を見つけて盛り上がっていた。
 レッサーパンダのような姿で桜色の毛並み。親子なのか大きい子が二匹に小さい子が三匹いてじゃれ合っている。
 それがまた愛らしくって、陽と手を取り合いキャキャ騒ぐ。

【あれはモモンダー。普段は大人しいモンスターだよ】
「へぇ~。あれはモモンダーと言う普段は大人しいモンスターなんだって」

 私の頭の上で同じく楽しんでいるチョピの説明を感心しつつ陽に教える。

「モモンダー? 面白い名前だな。どいつだ?」
「ほら、あの桃色のレッサーパンダのような親子」
「ああれか。名前の割にヤワそうなモンスターだな」

 そこに名前が気になったらしいつよしが割り込んできて、興味津々とばかりに窓に顔をはりつけモモンダーを捜し陽に居場所を教えてもらう。
 ただ期待と反する姿に残念そうに言葉を返す。
 そんないつも通りのやり取りなんだけれど、私と言えばさっきのチョピにバレた動揺がまだ少し残っていてうまく入っていけない。

 完全なる私の片思いだと再確認させられ、つよしにはただの友達にしか思われていません。

 セクシー系の服を着続けたら意識してくれるかも知れないけれど、それって多分下心あっての意識だと思うからそれはいらないかな?
 つよしには私自身を好きになって……それが難しいからこうして悩んでいる。
 友達期間が長い場合はどうやって進展させたらいいのだろう?
 
「星歌、さっきは本当に悪かった」
「え?」
「太、あんたまたなんかやらかしたのね」

 考えれば考えるほどよく分からなくなって気分が沈んで行く中、太と視線が合うなり頭を下げられ謝られびっくりする。陽は呆れるけれど、心当たりがまったくない。

「その服何回も着ているのを気づかずに、……さっき褒めた……」
「太らしいね。星ちゃん気にしたら駄目よ。私の時でもたまに気まぐれで褒めるんだから。しかも昨日と同じ服を着た時に限って」
「……うっ」

 謝った経緯を元気なく太が答えれば陽は失笑し、私の肩を持ちどんなにつよしが鈍感なのか教えてくれる。

 同じ服を着ても褒められるって、鈍感と言うよりかなり阿呆?
  私に興味がないと言うより、服その物に興味がないってこと?
 でもだとしたらどうして、さっき褒められた?

「だからいつも言ってるじゃない? 雰囲気が変わったと思ったら褒めるのは服じゃなくって、変わった所を言えば良いって。なんでそれが分からないの?」
「だって……今回の場合は……」
「大人っぽいって言えば良かったんでしょ?」
「あっそうか。星歌の今日の星歌はすごく大人っぽいぞ」
「え、今言い直すの?」
「……バカつよし……」

 久しぶりに陽のマジギレにつよしはそれでも反論するも、やっぱり陽の方が上手でうんざりげに解決方法を伝授する。 そしたらバカの一つ覚えかのように、ハッとし目を輝かせ実践してしまうつよし
 これにはいくらなんでもおバカ過ぎて私は拍子抜けし、陽は額に手を当て深いため息を付く。
 
 一体太は何をしたいのだろうか?






「星歌、聖都に入る前にこれを飲んでおけ」
「え、なにこれ?」

 パパと運転を代わり助手席にいる龍くんが身を乗り出し、真っ黒とした液体が入った小瓶を渡すから、私は戸惑いを持ち首を傾げ中身を問う。
 もちろん龍くんがくれた物だから安全性は確かだろうけれど、それでもこんな不気味な液体を飲むのは結構怖い。

「髪と瞳を黒し八重歯をなくす変身薬。陽と昨日作ったんだ。半日は持つだろう」
「そうなんだ。ありがとう」

 答えは酷なことでももうそれは覚悟の上だから落ち込むこともなく、蓋を開けグイッと一気に飲み干す。

 見た目同様、まずかった。
 どんな配合か気になるけれど、怖いから聞かないでいよう。

「すげぇ速攻で髪が真っ黒に染まった。瞳も黒くなってるぞ!! 黒髪の星歌もいいじゃん」
「そうだね。今の星ちゃんもすごく可愛い」
【え~、ボクは前のセイカが良い】

 効果は抜群ですぐに太陽は興奮しつつ絶賛してくれ、チョピには不評だったけれどそれはそれで嬉しくて気分はうなぎ登りだ。

 黒髪と黒い瞳に幼い頃から憧れを抱いていた。
 みんなと違う赤茶の髪と瞳をした私の陰口をたたく人がいたり、軽いいじめを受けたことが何度もあったんだ。その度につよしがいじめっ子達から私を護ってくれて、陽は傷ついて泣く私の傍で励ましてくれた。
 太陽は私の姿が格好良いって言ってくれたから私は自分の姿が嫌いにならずにすんだけれど、たまに二人だけに私もみんなと同じ黒髪と黒い瞳になりたいと弱音を吐いていたんだよね。だから太陽は憧れだった姿になった私も褒めてくれている。
 チョピは本当にそう思ってくれているんだろうね。

「三人ともありがとう。でもチョピこれは仕方がないの。トゥーランの人間が魔族に敵対視しているから、私のありのままの姿だと襲われる危険性があるの」
【……そうだよね。星歌がイヤな思いをしたらボク悲しい】
「ありがとう、チョピは優しいね。だから魔族が敵じゃないって分かってもらえるまで、街に行く時はこの姿でいる方が良いんだと思う」
【うん、分かった】

 私の説明に分かってくれたのか、チョピは悲しそうに頷く。

 なんて偉そうに言ったものの、それって結構難関なんだよね? お母さんを悪役に企てた黒幕がいるのであれば見つけて真実を話すように説得(力尽く?)するんだけれど、二十八年もバレずにしかも洗脳は続いているのだからいるとしたら相当上の地位なはず。簡単に尻尾を出さないだろう。
 そのためにはまずは黒崎に黒幕がいることを証明……こっちも難しそう。
 せっかく少しだけ歩み寄れたと思ったのに、私が魔王の孫娘だってバレたからすべては水の泡。今度こそ嫌われたとか憎まれている可能性もある。

 ……まぁそれならそれでも別にいいんだけれど。

「星歌、すまない……」
「パパ、それは言わない約束でしょ? 私なら大丈夫だからね」

 昨夜花火を見ながら私の魔族は仕方がないのでイチイチ落ち込まないと約束したはずなのに、私の話を聞いてたパパは運転しながら悲しげに謝ってくるから私はあえて軽い口調で言って安心してもらおうとする。
 パパがこうだから私は余計あっけらかんにしないといけない。これから辛くなってもパパの前では弱音は吐けなさそうだから、太陽に弱音を吐こうかな?

「そうだったな。もう二度と言わない」
「うん、今度言ったら、もうパパに頼らないからね」
「それは困る。約束は絶対守るから、何かあったら一番最初に父さんを頼りなさい」

 再び約束を交わされるもイマイチ信用がなくパパの弱みにつけ込めば、慌てて強い約束をしてくれるからこれでめでたしめでたし。
  龍くんはそんなやり取りを見て、お腹を抱え声を出して笑っている。


 ブラッケンは、もうすぐそこ。

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