普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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1章 再び動き始めた運命の歯車

15.聖女になる決意

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「星歌。ありがとう。父さんはもう大丈夫だから」
「だったら少し散歩しよう。ここは星空が綺麗だし、もう少しだけ見ていたい」
「……そうだな?」

 しばらく経って少しだけ落ち着いたパパは顔をあげ笑いながらそう言うけれど、全然そんな風に見えないから気分転換に散歩を提案すると頷いてくれた。
 そして立ち上がって手を繋ごうとしたけれど、さっき血を流していたことを思い出す。

「パパ、手は痛くないの?」
「ああ、それなら大丈夫だ。この程度ならすぐに自然治癒力で塞がる」

 と言って手のひらを見せてくれると、確かに血は止まっているも傷口は結構深く痛々しい。それだけ自分を堪えた。

「パパはすごいよ。怒りをちゃんとコントロール出来るんだもん」
「それは星歌がいたから、不甲斐ないとこ見せられないだろう?」
「そうかな? あれはさすがにぶち切れても良いと思うけど」

 そんなパパが誇らしくて自慢に思える。
 パパの頬はかすかに赤く染まり照れながらそう言うけれど、私はパパみたい人間が出来てないからそうは思わない。

 私にはお母さんの記憶がないから言われても、そうじゃないとは思っただけで怒りはなかった。でもお母さんではなくパパだったら間違えなくぶち切れていた。

「星歌、力は無闇に振りかざしたらただの暴力なんだよ。いざという時にしか使ってはいけない。父さんの場合は星歌と仲間を護る時だよ」
「そうだね。私もそうする。そのためにも龍くんに魔術を教わっても良い?」

 やっぱり私のパパは立派な人だった。
 私も少しだけでもそんなパパに近づきたくて元気の良い返事をして、タイミング良く話を切り出しお願いする。

 自分の身を護るだけじゃなくって、私も大切な人達を護りたい。
 そしたら少しは負担を減らせる。

「星歌のやりたいようにやりなさい。ただし無茶は絶対にしない。約束だ」
「うん。もちろんパパも無茶はしないでね?」
「それはどうだろう? 父さんは星歌の戦士だから、多少は無理も無茶もする。でも絶対に星歌を一人にさせないと約束する」

 前半部分は娘思いの父親の鏡と言うべき台詞で小指を差し出されゆびきりを求められるけれども、後半部分はやっぱり私の約束を無視した約束に不安だけしか残らない。

 一見これも父親の鏡の答えに思えるけれど、よく考えれば単なる言葉の綾。
 ただ私を一人にさせないと言っているだけで、それは私を残して死なないと言う意味ではない。
 まぁそれでも命を掛けて娘を護るのは親の鏡かも知れないけれど、そんなの私は絶対にイヤ。

「だったら私がパパを護るから。ゆびきりげんまん」
「星歌……」

 今のパパは弱っているから口論はしたくなくって、私の約束を強引に押し通し小指を絡める。
 その瞬間パパはちょっとショックを受けた表情を浮かべて切なげに私の名を呟くけれど、私の気持ちも察してくれたのか何も言わずゆびきりは最後まで交わされた。

「それじゃぁ散歩に行こう」
「そうだな。手を繋いでも良いか?」
「もちろん。こういう時は恋人つなぎだね」

 すっかり凹んでしまい私の様子を伺いながら自信なく聞いてくるパパに、私は笑ってそう言いながらゆびきりから指を絡め恋人つなぎに進化させる。
 怒っているけれど突き放しことは出来なくて、生意気なことを言った癖してパパを元気にさせたいと思う私がいる。



 誰もいないシーンとしている夜道をパパと二人で歩く。二つの衛生とたくさんの星のおかげで、思いの外明るく怖くなかった。

 ……いつかつよしともこうして手をつないで、夜空を見ながら歩きたいな。
 
「スピカとは良く星空を見ながら語り合ったんだ」
「え?」

  何を思ったのかぽつりとパパが話し始める。
 パパがお母さんの話をするなんて珍しい。

「あの二つの月はメレと言って、スピカが好きだったんだ」
「メレ?」
「そう。偶然にもメレはハワイ語だと歌と言う意味で、それをスピカに漢字と読み方を教えたら“もし女の子が生まれたら星夜とお揃いの星歌にしたい。漢字と言うのは読み方は一つじゃないんだろう?”と言われたからセイカになったんだよ」
「そうか。私の名前はお母さんの大好きな物がつまっているんだね」

 初めて聞いた自分の名前の由来は、何よりも素敵な由来だった。
 ますます自分の名前が好きになっていく。
 今までパパに悪いと思って触れずにいたお母さんのことをもっと知りたい。

「スピカは星歌のことを世界で一番愛していたからな。なのに俺もそうだと言ったら、少しふて腐れてたんだぞ? おかしいだろう?」
「パパは私にお母さんを取られて嫉妬しなかったの?」

 パパが父親の鏡のようにお母さんも母親の鏡だったようで、でもちょっとだけ子供っぽい所もあった。それだけパパのことを愛していた証だとしたら、パパもそうだったかも知らない。もしお母さんが生きていたら今でもラブラブ夫婦で、私のことはお母さんの次?
 
「当たり前だろう? だって星歌は父さんと母さんの愛の結晶で、かけがえのない宝物なんだからな」
「うっ……。面と向かって言われるとすごい恥ずかしいんだけど……」

 しかしパパは迷いなく否定し私を見つめ臭い台詞を堂々と言うから、体温は一気に上昇してしまい湯気が立つほど恥ずかしくなり視線を泳がせる。

 両親から無償の愛情を注がれていたのはよく分かって嬉しいけれど、やっぱりちょっと恥ずかしいだよね?
 だからこそそんなお母さんがトゥーランでは悪人として教えられているなんて、今さらながら腹が立ち苛立ちも覚える。

「パパ、私聖女になる」
「え?」
「聖女になって魔族と人間が争うことになった原因を探す。そしてお母さんの冤罪を晴らしたい」

 そう思ったら状況を見て見極めようとしたはずなのに、いてもたってもいられなくなり力強く宣言していた。

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