普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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1章 再び動き始めた運命の歯車

13.歩み寄りをしてみる

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「チョピ、聖女を護る戦士って一体何人いるの?」
【五人だよ。セイカのパパとリュウノスケとクロサキ。それからヒナタにツヨシ】
「そうなんだ。あ、でもクロサキは私が嫌いだから辞退するんじゃないの?」

 パパがいるだろうトレーニング室へ向かう途中、戦士が計何人いるのか確認し真相を知る。
 ネックになるのは黒崎一人だけで、だったら欠けてもそんなに支障がないのかなと思ってしまうのは、仲良くやっていける自信がないから。

【戦士は五人いないと駄目だけれど、クロサキはボクもセイカを悪く言うから嫌い。だからそうなってもしょうがない】

 悲しそうにチョピは言う。
 五人揃わないと絶対に駄目って言われると思っていたけれど、チョピは私の味方になってくれてホッとした。

 でも……。
 一度二人だけでちゃんと話し合いをして、誤解ぐらいは解いた方が良いのかな?
 
 私のことをちゃんと知って欲しいし、黒崎のことをよく知って分かりたい。
 
 そんな偽善者が思うような気持ちなんてまったくない。
 話し合って駄目なら、それでもいいと私は思う。
 ただ黒崎は本当にトゥーランを平和にしたいと言う思いは、誰よりも強いって言うのはよく分かったから。

「だったらパパと話し合う前に黒崎と話してみるね」

 龍くんにはちょっと待っててねと言ったけれど、思い立ったら吉日なので気乗りはしなくてもくるりと進行方向を変え玄関に向かった。

 それに陽と龍くんの二人きりの時間を長く作るのも、親友としての役目だしね。
 魔術の弟子入りだって陽一人でした方が二人だけの時間が増えたはずなのに、なんで私と一緒って言ったんだろう?
 私はお邪魔虫になると思ってパパを使って断ろうとした物の、ひょっとしたら恥ずかしいのかなとも思って頷きはした。
 もし私が陽の立場だったら、あんまり長時間つよしと二人だけって言うのは恥ずかしい。何事にも適量と言う物がある。




 外に出ると暑いけれどそよ風が気持ちよく、今まで感じたことがない気候だった。
 見渡す限り草原みたく遠くの方がかすかに明るい。私達は明日あそこに行くのだろう。

 ここは私が産まれた世界トゥーラン。

 そう思えばなぜか懐かしいと思ってしまうから不思議。
  聖女になったら私が住んでいた家……パパにとっては辛い思い出だからそう言うことは言わないようにしよう。
 もちろん龍くんにも。


 門扉を出て少し歩いた所に、黒崎は悲しげに夜空を見上げていた。
 雰囲気からして話しかけるなオーラを身にまとわせ、心配になるよりも怖ろしくなり声をかけるのに躊躇する。

「そこにいるのは誰だ?」

 しかし相手は英雄候補だから気配で気づかれ、今朝並の殺気を向けられ私を捉えるから恐怖を感じ体が強ばってしまう。
 チョピも驚いたのか体を丸くして私の足元に身を寄せた。

 二人で話そうと思った(チョピもいるけれど)私の考えが浅はかだったんだろうか?
 話もまともに出来ない?

「……お前か」
「は、はい私です。ちょっと黒崎と話したいので来たのですが、無理そうなのでやっぱりいいです。あなたはあなたでこの世界を救う努力をして下さい」

 気配が私だって分かった途端殺意は消えても私の恐怖は消えず、彼を逆なでしないよう言葉を改めゆっくり後退するけれど、

「自分もお前とは話したいと思っていたから、脅えなくても逃げなくても良い。もう変なことはしないって約束をする」

 意外にも引き留められる。

 さっきとは違い穏やかな声で、今なら冷静に話が出来るかも知れない。
  しかし台詞の内容がまだちょっと怖いし、魔族の臭いがあるから少し距離を取った。

「だったらまずは私のことを話すね。私は二ヶ月前までお母さんが魔族だってことを知らずにいて、どこにでもいる普通の女の子だと思っていたんだよね? それなのにある日突然蛙男に襲われてお前は魔族だって言われるし、今までひ弱だと思っていたパパが実はめっちゃ強くて蛙男を瞬殺。その時パパが若い頃異世界の英雄になって魔族のお母さんと結ばれ、その後私が産まれたことを教えられただけでそれ以上詳しいことは知らないんだ」

 さすがにお母さんが魔王の娘だとは言えないから、忍と言うラスボスは伏せて後は大まかに事実を語る。
 
 二ヶ月前までの私は何も知らずに、暢気に暮らして……知った今でも私は暢気に暮らしている。
 地球には魔族なんていないしパパもそれを望んでいたから、今日の今日まであんまり気にしていなかった。
 だからこれからも私は変わらず普通……聖女になったら普通じゃないか。

「母親は?」
「私が物心つく前に死んだんだって」
「無神経なことを聞いてすまない」

 流れ的に必然だろう問いに特に思うことはなく答えると、罰の悪そうな表情に変わり謝罪するけどそれは別に謝らなくても良い。

 パパにとっては未だにトラウマになっているお母さんの死だけれど、私にしてみれば物心つく前のことだからどこか人ごと。お母さんとの思い出なんて少しもないから、可哀想な子だとは思われたくはない。

「別に良いよ。私にはパパがいるし、それに龍……館先生がいるからね? それじゃぁ今度は黒崎のことを話して」
「そうだな。少し長くなるが、いいか?」
「うん」

 私の話はこれで終わりだからボールを投げると、最初にそう助言し彼はゆっくりと語り始める。

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