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1章 再び動き始めた運命の歯車
11.娘の恋愛事情
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「……絶対に誰にも言わないでくれ」
「え、陽ちゃんにも隠しているんだ」
直接は答えてくれなかったが、強い口止めは肯定と同じ。
ただ陽ちゃんに隠しごとをしているのは意外だった。てっきり二人の間に隠し事など存在してないと思っていた。
「言えるはずがないだろう? 陽は星歌の親友なんだから、オレなんかより星歌の味方でいて欲しいんだ」
「 太くんは優しいんだね? じゃぁこのことは二人だけの……龍ノ介はもちろん知っているんだよな?」
俺が気づいたぐらいだから、当然龍ノ介にも気づかれたのだろう。
なにせ太くんは龍ノ介の唯一の愛弟子で、太くんも龍ノ介に全信頼を寄せ憧れてもいる。
事実年々龍ノ介に似てい……まさか恋愛感に関してまでは似てないよな?
今は年を取りだいぶ丸くなったとは言え、あいつの女癖の悪さは筋金入り。若い頃は平気で股がけをしていて、数多くの女性を泣かしてきた。
実力者には認められていた多数交際のトゥーランに戻って来た以上、あいつの女癖の悪さは再過熱するかも知れな……いや確実にするだろう。
もしそこまであいつに似ていたらいくら星歌の想いの人であろうと、俺は何が何でも阻止をする。
「おっさん、安心しろ。師匠にはバレているが、オレは師匠みたいな女たらしにだけはなりたくない」
「…………」
不意に思った不安は表情に出現れたらしく、すかさず 太くんは真顔でそうじゃないと否定された。
その表情は軽蔑さえ感じ本心だと分かりホッとするが、同時に龍ノ介の頭の中が本気で心配になり言葉が浮かばない。
……あの馬鹿。いつか教え子に手を出して人生を棒に振るんじゃないだろうか?
そうなっても俺は見放したりはしないが、今よりもっと人として軽蔑はする。星歌には二度と会わせない。
一応釘を刺しとくか?
「おっさん、大丈夫か?」
「ああ、すまん。太くんの熱意はちゃんと伝わったから、俺が教えられることはすべて教えるよ」
今は龍ノ介のことより太くんの方が大切で、ここまでの決意があるのならば拒否することなど出来なかった。
それにいざと言う時は星歌を任せられる。
「ありがとう。オレ絶対強くなっておっさんと師匠と一緒に星歌と陽を護るよ」
「そんなに力まなくても、太くんのペースで良いんだよ。それじゃぁまずはこれを毎日こなして」
必要以上に意気込む太くんにブレーキを掛けつつ、机の引き出しに保管していた古びたノートを差し出す。
ノートを見るなり太くんの表情が青ざめる。
俺も初めて聞かされた時はこうなった。
それは俺と龍ノ介が英雄候補として選ばれトゥーランに来てすぐ、師匠から言われたトレーニングメニューを俺が書いた物だった。
それまで運動など授業以外たまに家族でテニスをしてただけの俺には地獄のメニューに思えてしまい、師匠の言う準備運動としてこなせるようになるまで一ヶ月はかかった。それだって寝る間も惜しんでなんとかこなせていただけで、本当の意味でこなせるようになったのは、二ヶ月後だったと思う。
どれだけ体力がなかったんだよ俺?
でもすでに基礎が身についている太くんなら、一週間もかからずこなせるようになるだろう。龍ノ介はそうだった。
「これが基礎トレーニングなのか?」
「ああ。……無理そうなら諦めた方が良い」
「は、このぐらいで諦めるわけないだろう? 今日からやれば良いんだな?」
呆気に取られている 太くんに厳しくもまだ戻れる甘えがあると言うも、逆に彼の心に火をつけたようでいい目になり堂々と言い返される。
否定されると燃えるタイプだろうか?
だとしたらもしこんご挫折しそうな時があったら、その性格を利用しやる気を変えよう。
それが師匠としての役目だから。
「今夜は出来る範囲で良い。明日は四時に起きて一緒にやろう。朝食を取ったら聖都に出掛ける予定は優先」
「了解。星歌の付き添いが第一条件だもんな」
太くんはあの頃の俺と違って何が一番大切なのか分かっているらしく、当然とばかりにそう答えさっそくトレーニングを開始する。
パパ、太の太刀筋ってすごく格好いいんだよ。
最近夕食時に太くんのことを毎日のように目を輝かせながら聞かされていて、中でもそれが口癖になっていた。
確かに太くんは太刀筋の姿だけではなく、トレーニングする姿も格好良く男の俺でも見とれてしまう。
星歌に見せたらますます恋する女性になり夢中になって、それは嬉しい反面淋しい複雑な気持ちなんだよな。
近い将来星歌の一番を太くんに取られてしまう。
太くんなら星歌を安心して任せられると思うも、正直まだもう少しだけ俺から星歌を奪わないで欲しいと思う自分もいる。
…………。
ひょっとしてこれが年頃の娘を持つ父親の感情なのだろうか?
「太くん、星歌にはいつ告白する気でいるの?」
「は、いきなりなんだ? 俺は今のままでも充分満足しているから、今のとこはする気はない」
「そうか。うん、気まずくなったら最悪だもんな」
そんなことを考えてたら不安でたまらなくなり思わず聞いてみると、 太くんは再び顔を真っ赤に染まらせ随分可愛らしい答えをしてくれる。
若い頃の俺と同じですでに星歌とは両思いだから助言するのが普通なのだが、俺ときたらわざと不安を煽り告白するのを確実に遠ざけてしまった。
太くんの顔は真っ赤から真っ青に変わり元気もなくす。
これで当分安泰だ。
「え、陽ちゃんにも隠しているんだ」
直接は答えてくれなかったが、強い口止めは肯定と同じ。
ただ陽ちゃんに隠しごとをしているのは意外だった。てっきり二人の間に隠し事など存在してないと思っていた。
「言えるはずがないだろう? 陽は星歌の親友なんだから、オレなんかより星歌の味方でいて欲しいんだ」
「 太くんは優しいんだね? じゃぁこのことは二人だけの……龍ノ介はもちろん知っているんだよな?」
俺が気づいたぐらいだから、当然龍ノ介にも気づかれたのだろう。
なにせ太くんは龍ノ介の唯一の愛弟子で、太くんも龍ノ介に全信頼を寄せ憧れてもいる。
事実年々龍ノ介に似てい……まさか恋愛感に関してまでは似てないよな?
今は年を取りだいぶ丸くなったとは言え、あいつの女癖の悪さは筋金入り。若い頃は平気で股がけをしていて、数多くの女性を泣かしてきた。
実力者には認められていた多数交際のトゥーランに戻って来た以上、あいつの女癖の悪さは再過熱するかも知れな……いや確実にするだろう。
もしそこまであいつに似ていたらいくら星歌の想いの人であろうと、俺は何が何でも阻止をする。
「おっさん、安心しろ。師匠にはバレているが、オレは師匠みたいな女たらしにだけはなりたくない」
「…………」
不意に思った不安は表情に出現れたらしく、すかさず 太くんは真顔でそうじゃないと否定された。
その表情は軽蔑さえ感じ本心だと分かりホッとするが、同時に龍ノ介の頭の中が本気で心配になり言葉が浮かばない。
……あの馬鹿。いつか教え子に手を出して人生を棒に振るんじゃないだろうか?
そうなっても俺は見放したりはしないが、今よりもっと人として軽蔑はする。星歌には二度と会わせない。
一応釘を刺しとくか?
「おっさん、大丈夫か?」
「ああ、すまん。太くんの熱意はちゃんと伝わったから、俺が教えられることはすべて教えるよ」
今は龍ノ介のことより太くんの方が大切で、ここまでの決意があるのならば拒否することなど出来なかった。
それにいざと言う時は星歌を任せられる。
「ありがとう。オレ絶対強くなっておっさんと師匠と一緒に星歌と陽を護るよ」
「そんなに力まなくても、太くんのペースで良いんだよ。それじゃぁまずはこれを毎日こなして」
必要以上に意気込む太くんにブレーキを掛けつつ、机の引き出しに保管していた古びたノートを差し出す。
ノートを見るなり太くんの表情が青ざめる。
俺も初めて聞かされた時はこうなった。
それは俺と龍ノ介が英雄候補として選ばれトゥーランに来てすぐ、師匠から言われたトレーニングメニューを俺が書いた物だった。
それまで運動など授業以外たまに家族でテニスをしてただけの俺には地獄のメニューに思えてしまい、師匠の言う準備運動としてこなせるようになるまで一ヶ月はかかった。それだって寝る間も惜しんでなんとかこなせていただけで、本当の意味でこなせるようになったのは、二ヶ月後だったと思う。
どれだけ体力がなかったんだよ俺?
でもすでに基礎が身についている太くんなら、一週間もかからずこなせるようになるだろう。龍ノ介はそうだった。
「これが基礎トレーニングなのか?」
「ああ。……無理そうなら諦めた方が良い」
「は、このぐらいで諦めるわけないだろう? 今日からやれば良いんだな?」
呆気に取られている 太くんに厳しくもまだ戻れる甘えがあると言うも、逆に彼の心に火をつけたようでいい目になり堂々と言い返される。
否定されると燃えるタイプだろうか?
だとしたらもしこんご挫折しそうな時があったら、その性格を利用しやる気を変えよう。
それが師匠としての役目だから。
「今夜は出来る範囲で良い。明日は四時に起きて一緒にやろう。朝食を取ったら聖都に出掛ける予定は優先」
「了解。星歌の付き添いが第一条件だもんな」
太くんはあの頃の俺と違って何が一番大切なのか分かっているらしく、当然とばかりにそう答えさっそくトレーニングを開始する。
パパ、太の太刀筋ってすごく格好いいんだよ。
最近夕食時に太くんのことを毎日のように目を輝かせながら聞かされていて、中でもそれが口癖になっていた。
確かに太くんは太刀筋の姿だけではなく、トレーニングする姿も格好良く男の俺でも見とれてしまう。
星歌に見せたらますます恋する女性になり夢中になって、それは嬉しい反面淋しい複雑な気持ちなんだよな。
近い将来星歌の一番を太くんに取られてしまう。
太くんなら星歌を安心して任せられると思うも、正直まだもう少しだけ俺から星歌を奪わないで欲しいと思う自分もいる。
…………。
ひょっとしてこれが年頃の娘を持つ父親の感情なのだろうか?
「太くん、星歌にはいつ告白する気でいるの?」
「は、いきなりなんだ? 俺は今のままでも充分満足しているから、今のとこはする気はない」
「そうか。うん、気まずくなったら最悪だもんな」
そんなことを考えてたら不安でたまらなくなり思わず聞いてみると、 太くんは再び顔を真っ赤に染まらせ随分可愛らしい答えをしてくれる。
若い頃の俺と同じですでに星歌とは両思いだから助言するのが普通なのだが、俺ときたらわざと不安を煽り告白するのを確実に遠ざけてしまった。
太くんの顔は真っ赤から真っ青に変わり元気もなくす。
これで当分安泰だ。
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