普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

文字の大きさ
上 下
25 / 157
1章 再び動き始めた運命の歯車

6.運命的な出会い

しおりを挟む
「私、星歌。あなたうちの子になる?」
「チュピ!!」

 私の問いにまるで“良いよ”と言っているのか元気よく頷く。

「は、飼うって言っても、こいつ明らかに地球外生命体だろう?」

 暴走する私をつよしは圧倒されながらも、冷静に正論を言って私のブレーキを掛ける。

 言われて見れば確かにこの子は地球外生命体だとは思うけれど、ひょっとしたら妖怪が実在するか宇宙人かも知れない。

 …………。
 …………。

「……トゥーランの生き物?」
「あ、きっとそれだな。だとしたら黒崎のペッ……相棒じゃぇねぇの?」
「え、黒崎の……?」

 フッと頭の中に過ぎった憶測を独り言のように呟くと、つよしもそれには同意して新たなる憶測を建てる。
 言われてハッとして辺りを見回せば、この場所は今朝黒崎に襲われた場所だった。

  だとすると太の憶測は正しくてこの子は黒崎の……。

 
「あ、黒崎?」
「え……?」
「チュピ?」

 心の整理が終わる前に太の口から聞きたくない名前を聞くことになり、条件反射のように顔を上げれば黒崎が私達を信じられないと言う様子で見つめていた。
 この子は黒崎をちらりと見るだけで、すぐ私を見上げ不思議そうに首を傾げる。

「黒崎、ちょうどよかった。こいつはお前の相棒か?」

 私を護るように太は私の前に立ち、でも黒崎にはフレンドリーに話しかける。ここは私が話すより太に任せた方が良い。

「……お前はその女のなんだ?」
「オレは星歌の親しいダチだ。お前のことは星歌から聞いているから、本当のことを話しても大丈夫だ」

 太の問いには答えずこれ以上にもなく警戒する黒崎に、なんの迷いもなく太の方から歩み寄ろうとする。
 ごもっと過ぎる答えなのに、ほんの少しだけガッカリして肩を落とす。

 親しいダチ……か。
 それはそうなんだけれどもっと気の利いた……私は太に何を求めているのだろう?
 ……彼氏だって言って欲しかった?
 そこまで私の心は図々しいの?

「……チョピと言うトゥーランの聖霊だと思う。自分は姫様に卵を授かったのだが、学校で消えていることに気づいた。トゥーランを平和に導ける者に出会えた時、孵化しその者に懐くと聞かされている」

 ここでようやくちゃんとした答えが返ってくる。
 
 チョピはそんな大切な使命を持った精霊で、黒崎の口ぶりだとどうやら産まれたばかりらしい。
 だとしたら今朝産まれてけれど、その人を見失ってここで彷徨っていた。
 
「だったら星歌が?」
「え、それはないでしょ? 可能性があるとしたらパパと龍くんじゃないの?」

 私の予想と違いまさかの私発言に、キョトンとしてしまい全否定で私の予想を言い返す。

 なんで私がトゥーランの救世主になるの?
  私なんかよりも、パパと龍くんの方がよっぽど適任だ。

「確かに師匠とおっさんならトゥーランの英雄だからありえるな。でも星歌が絡まない限り英雄には復帰しないだろう?」
「それもそうだね。 黒崎、悪いけど別の人を当たってくれる。……バイバイ」

 つよしの考えもごもっとも過ぎて黒崎にチョピを返し、笑顔を無理矢理作って別れを告げる。

 チョピとの別れは辛いけれど、こればかりは仕方がない。
 パパを裏切ったトゥーランを護る義務はもうないだろうし、お人好しのパパであっても怒って断るに決まっている。
 それに龍くんだって、正義の味方になるのを否定している。

「チュ、チューピ」

 元気いっぱいだったチョピの鳴き声は悲しげな鳴き声に変わり、黒崎から逃げだし私の頭上に飛び移る。

「星歌、すげぇ懐かれてるじゃん」
「え、え? でも私は……」

 そんな姿を見てつよしは笑いながら言うけれど、なんて答えて良いのか分からず言葉をなくす。

 そりゃぁ懐かれるのはすごく嬉しいけれど、それってつまり私がトゥーランの救世主だって意味なんだよね?
 いきなり救世主だって言われても困る。
 それに……。

 この状況を黒崎はどう思っているんだろうと思い恐る恐る黒崎に視線を戻せば、表情は固まって呆然と私を見つめている。

「……信じられない……」

 と言われてしまう。

 そりゃぁそうだよね?
 私はあなたが嫌う魔族で、ましては魔王の孫娘。
 そんな子が救世主に選ばれたって迷惑でしかない。
 私だって私を嫌っている人達のために、命をかける救世主なんてなりたくない。

「うん、そうだよね。でも安心して私トゥーランの救世主になんかならないから」
「え、星歌?」
「チュ、チューピ!!」

 そう思ったらやたらにむかついて強い口調で断り再び黒崎にチョピを返し、私は太の手を掴み無我夢中で我が家まで走る。
 それなのにチョピは私達を追いかけているようで、必死になって呼び止めようと鳴き続けていた。




「どうすんだこいつ?」
「どうしよう?」

 結局我が家までついてきてしまったチョピをどうするか、私とつよしは困りながらこれからを相談する。

 無視をして家に入るのが一番の解決策かも知れないけれど、そしたらチョピはずーと玄関の前で鳴いているかも知れない。
 黒崎の言うことを聞かないだろうから、そんなことをされ続けたらご近所迷惑。そしてやっぱりパパと龍くんに見つかってしまう。

 ……あれ、これは何をしても最後は同じ?

「パパに正直に話すしかないね?」
「それが一番良いだろうな」

 ため息交じりの万丈一致で、門扉に悲しげにショボンとしているチョピを抱き上げる。
 
「チュピ」

 無邪気に笑い尻尾を私の手に絡め、愛らしく鳴く。

 これはチョピの愛情表現なんだろうか?
  黒崎は大嫌いだけれど、チョピは好きだな。

「さっきは冷たくしてごめんね。私は救世主にはならないけど、これから仲良くしようね」
「チュピン」

 私の言っていることを理解したのかしてないのか分からないけれど、チョピは“分かったよ”と頷いているようだった。

「星歌は、やっぱり笑顔が一番似合うよな?」
「え、いきなり何?」
「ただそう思っただけ。早く中に入ろうぜ?」
「うん、そうだね」

 たまにつよしは突然おかしなことを素で言い私の心をもてあそび、そしてすぐに何事もなく先に話を進進ませる。
 だから私は必死に高鳴る鼓動と緩みそうな表情を堪え、何こともないかのように家の鍵を出し鍵を開け扉を開けた。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...