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1章 再び動き始めた運命の歯車

5.乙女心と秋の空

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「星歌、どうしたんだよ?」
「別に……」

 我が家への帰り道。
 さっきから無言でいる私を心配するつよしだけど、私は素っ気なく答え歩く速度を速め太との距離を更に取る。
 このどうしようもない気持ちは私自身の問題で言ったとしても、太はきっと理解出来ず面倒くさい女だと思われてしまう。
 かと言って理解されたらされたで、最悪私の気持ちに気づかれその時点でジ・エンド。だから私は何も言わない。

 でも私がこんな思いになったのは、太が原因だった……。


 陽がせっかく根回しして用意してくれた放課後デート(仮)をあの時間からすごく楽しみにしていたのに、太と来たら昼休み後いきなり部活仲間と一緒にボーリングにしようと言い出したんだ。
 まさか“二人が良い”なんて死んでも言えない私は無理に笑顔を作り“良いよ”と言ってしまい放課後合流したら、その中には太と特に仲が良い女子剣道部部長の花崎先輩がいたんだよね?
 花崎先輩は見た目からしてスポーツ万能少女で、サバサバしていて太と似ているタイプ。
 だからなのか二人は気があって仲が良い。つよしを好きになる前はなんとも思わないどころか二人が付き逢えば良いとも思ってた。
 だから嫌な予感はしたけれどやっぱり何も言えずにいたら、チーム決めでは太とは別のチームになり花崎先輩と太が同じチーム。
 別のチームだから当然席は離れてしまい、ゲーム中はほとんど会話をしなかった。
 その間ずーと二人は楽しそうに会話が弾んでいて、そんな二人を剣道部の人達は温かく見守っていて……。
 二人は両思いじゃないかって噂されているらしい。
 それを聞いた瞬間頭の中が真っ白になってしまい、今現在も気持ちは沈み凹んだまま。

 つよしは花崎先輩のことをどう思っているのかな?
 花崎先輩は多分太に好意は抱いているとは思うんだ。
 もし二人が両思いで付き逢いだしたら……すごくイヤだ。
 だったらその前に告白する……勇気がない。
 告白して振られて友達でさえもいられなくなったら、そっちの方がもっと辛い。
 ……………。
 でもでも……。

「もしかしてゲーセンに行けなかったから拗ねてんのか?」
「は?」

 頭の中がごっちゃになっているとなんでそうなるのか分からない見当違いなことを問われ、私は足を止め振り向き太の顔をマジマジ見つめた。
 真顔で私を見つめ、私にあゆみ寄る。

「だったら初めからそう言えば良かったじゃん。そしたら誘いを断ってゲーセンに行ったのに」
「え、断って良かったの?」
「ああ。だって星歌のモヤモヤを晴らすのが目的だっただろう? ボーリングの方が良いと思ったんだが、そうじゃなかったんだな」

 清々しい笑顔で意図簡単に言われてキョトンとする私に、さぞ当然とばかりにそう言い返される。
 初めて知った真相に、沈んだ気持ちが一気に浮上し笑顔がこぼれた。
 
 太はちゃんと私のことを考えてくれていた。
 だったらそれを先に言ってと言いたいところだけれど、今はそんなのどうでも良く思えて、その気持ちがあっただけで私は満足。
 だから今は花崎先輩との関係をこれ以上考えるのは辞めておこう。

「そうだったんだね。うん、太のおかげですごく元気がでたよ」
「そんな風には見えな……は、なんで今そんな晴天の笑顔をしてるんだよ?」
「太が私のことをちゃんと考えてくれてたって分かったからね?」
「!! そそんなの当たり前だろう?」

 今泣いたカラスがもう笑った状態の私に戸惑う太に分かるように答えると、それは不意打ちだったらしく言葉を漏らせそう早口で言って慌ててそっぽを向く。耳まで赤く染まっている。
 太がここまで照れるなんて珍しい。

「うん。だからありがとう」
「……日が暮れる前にさっさと帰るぞ?」
「そうだね。早く帰らないとパパが心配しちゃう」

 いつもだったら絶対に出来ないのに今日はなぜか自然と太の手を繋ぎ、我が家へ向かい歩き出す。

「ゲーセンはまた今度行こう」
「そうだな。今日のおわびになんでも取ってやるよ」
「本当に? やった!!」

 私の手を強く握り返してくれたことでますます気分がよくなり、本当はどうでも良いゲーセンの約束をする。
 するとつよしは二つ返ことで了解してくれ、更に嬉しい約束をしてくれた。

 西の空はいつの間にか綺麗すぎる茜空に染まっていて、まるで今の私の心を写しているみたい。



「チュピン、チュピン」
『え?』

 聞いたことがない鳴き声が背後から聞こえた。やけに愛らしくって母性本能をくすぐってしまう声。
 気になったのは私だけではなく太もで声をハモらせ鳴き声の方に視線を向けると、電信柱に身を潜め警戒しながら私達を見ている。
 琥珀色のまん丸フォルムに耳と尻尾が三本あって、一見可愛いぬいぐるにも見えるんだけれど動いている。

「ねぇあれ何に見える?」
「AIペットロボットじゃぇねぇの?」
「なるほど。だったら交番に届けた方が良いね」

 太の答えに納得した私はそれに近づき、ためらいもなく抱き上げる。
 ソフトボールより一回りぐらい大きく温かく、モフモフな毛並みに抱き心地はビーズクッション。

「チュピ」

 大きなつぶらな瞳で私を見つめ、愛らしく私に甘え尻尾が腕に絡みつく。
 その瞬間、稲妻が走り私のハートを打ち抜かれたような衝撃を受け、この子が天使に見えてしまった。あまりの感動に手が震える。

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