普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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1章 再び動き始めた運命の歯車

2.狙われた理由

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 ガン

 パパらしくなく怒りは収まらないようで壁にぶつけるかのように殴ると、壁に大きな日々が入った。

「星夜、落ち着け」
「落ち着ける訳がないだろう? 俺はただ星歌と平穏な生活を送りたいのになぜ邪魔をする? 異世界起動装置はお前が二度とゲートが開かないよう封印したはずだろう?」
「そのはずなんだが、どうやら異世界起動装置を使わない方法があるらしい」

 興奮したまま珍しく龍くんを攻め怒鳴り散らすパパに、龍くんは頭をかきながら自信なく仮説を立てた。
 考えられなくはないけれどもしそれが本当ならば、トゥーランがある限り私は命を狙われ続ける……。
 魔王の血縁者の狙われた運命……。

「どう言うことだ?」
「詳しくはこの生徒。黒崎大地に聞いてみないと分からないが、彼はおそらくオレらと同じ英雄候補としてトゥーランに召還されている」
「やっぱりそうなんだ」

 教師である龍くんが彼を知っているのは必然で、英雄候補だと言うわれても驚きはなかった。

 トゥーランの平和を護れなかったせめてもの償い。
 と言っていたから。
 トゥーランの時間の流れはどうなっているのか分からないけれど、せっかくパパと龍くんが魔王を倒して平和にしたのにまた世界の危機が訪れた。しかも英雄候補が敵に負けて、今も人々は苦しんでいる。
 
「英雄候補がなぜ魔族と言うだけで命を狙うんだ? 確かに魔族の偏見は多少なりともあったが、共存していたはずだろう?」
「それはオレ達がいた頃であって、今がどうなっているかは分からない。とにかく黒崎を起こして、こと情を聞いてみるか」

 冷静に状況をするべく龍くんは気を失っている黒崎の元にかけより、黒崎の頬を強めに往復びんたで強引に起こそうとする。
 
「お~い、黒崎。転校初日なのに遅刻するぞ?」

 優しく呼びかける。

 転校初日!?
 だから私は黒崎をまったく知らなかったんだ。

「!! 館先生? なぜ先生がここに? ……確か人払いの結界をしていたはず……」

 黒崎は目を覚まし龍くんがいることに驚き、小声でそんなことを呟く。

 だから登校時間にも関わらず人通りがまったなかったのか。
 魔術で結界を張られていたから、パパと龍くんは異変に気づき駆けつけてくれた。
 不幸中の幸い。

「あんなしょぼい結界を破るなんて、オレにとっては朝飯前だよ。黒崎、お前は英雄候補か?」
「……なぜそれを? 先生は一体?」
「オレはかって魔王を倒した英雄の一人だ。なぜお前はオレの娘見たいな大切な存在を殺そうとした?」

 最初は普通の会話だったのに静かに怒りを爆発させる龍くんは、黒崎の胸ぐらを掴み壁に押しやりこれではどっちが悪人だか分からない。
 一気に形勢逆転。

「あの魔族の娘が大切な存在? ……魔族は人類の敵。トゥーランは今や魔族に支配されてしまい、完全なる世界征服のため魔王復活を企んでいるんです」
「だからなんだ? 星歌は俺の大切な娘。トゥーランの魔族はそうであっても、俺達には関係ない。それ以上言ったら俺がお前を殺す」
「だから星夜は落ち着け。お前はそんなキャラじゃなかっただろう?」

 それでも黒崎は魔族を許せないようで憎しみを持って訴えるけれど、パパには何も伝わらず余計な怒りを買うだけでとんでもない殺意を黒崎に向ける。
 龍くんが間一髪でパパを抑えなければ、確実に黒崎は殺されていただろう。
 確かに誰にでも優しいいつものパパらしくないけれど、これも私のためだから感謝するしかない。

 私はパパと龍くんに、いつだって護られている。
 二人のたくさんの愛情と優しさが私を強くしてくれて、今だってまだ怖いけれど立ち向かえる勇気をもらった。
 だから

「私は確かにあなたが言うように半分は魔族の血が流れているけれど、父は人間なので人間でもあります。トゥーランに行くことなんて絶対にないので、私のことはほっといて下さい」

 黒崎の目を見つめ、自分の言葉で意志をはっきりと告げる。

 私はトゥーランの人達に振り回されない。
 これからも地球で幸せに暮らす。
 邪魔させない。

「黒崎、詳しくは学校で話そう」
「しかし……」
「良いから黙って言うこと聞け」

 それでも私を睨み何を言おうとする黒崎を、龍くんはそれを許さず一発殴り連行していく。


「今日は学校を休みなさい」
「ううん、行くよ。だってもう黒崎は私を襲って来ないだろうし、こんなことで負けたくないもん」

 平常心を取り戻したパパは私のためを思って優しい口調で言ってくれるけれど、私は強く首を横に振り提案を拒否する。
 辛そうなパパはきっと私よりも傷ついているんだろうだから、私はいつもと変わらず元気よく学校に行く。
 それに言葉通り特に黒崎には負けたくない。
  
「……星歌は、強いな。だったら父さんはとびっきり美味しい夕飯を作って、星歌の帰りを待っているからな。いってらっしゃい」

 少しの沈黙の後切なげに微笑みを浮かべ、それだけ言って私の頭をなぜてくれる。

 私のやりたいことを好きなだけやらせてくれ、どんな結果になったとしてもパパは温かく見守ってくれていた。
 それで失敗したらどうして失敗したのか一緒に考えてくれて、その結果を踏まえた上での再挑戦を見守ってくれる。絶対に強制はしたりしない。
 今だって本当に行かせたくないけれど、私の考えを尊重してくれている。
 だから私は恐れず前に進める。

「だって私はパパの娘だもん。いってきます」

 いつの間にか人通りがあるいつもの朝の風景に戻っていて、私は少しだけ得意げにそう言って駆け足で学校へ向かった。

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