普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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1章 再び動き始めた運命の歯車

1.新たなる不穏分子

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 それはある秋晴れの朝の登校中のことだった。


「なんでお前のような魔族が女子高生に化けている?」

 知らない男性にいきなり私の腕を強く掴み嫌な方の壁ドンをされ、ドスの聞いた声で耳元で問われる。
 突然の出来ことで何が何だか分からなく言葉の意味を理解する前に、背後の男性の顔をとっさに見つめた。
 恐怖よりも今の状況を整理したかった。

 ごつくて大柄でぱっと見大学生にも見えるけれど、私と同じ高校の制服で赤いネクタイだからタメ。
 タメだったら顔ぐらい見覚えがあっても良い物の、男の顔はまったく見覚えがない。
 それでも制服を着ているからトゥーラン人と言う可能性は低いと思うけれど、そしたらどうして私が魔族だって知っているのだろうか?
 私が魔族だって知っているのは、パパと龍くんそれから太陽だけ。情報が漏れると言うこともない。

 などと考えながら彼を観察していると、穏やかだった空気が殺意ある張り詰めた空気へと変わる。ここでようやく恐怖が産まれるけれど、すでに遅し。
 
「おい、黙ってないでさっさと答えろ。さもないと殺すぞ?」
「いやー」

 彼の苛立ちはすでにマックスで、更に強く掴まれ腕がミシミシと鳴り激痛が走る。悲鳴をあげても効果はない。
 ようやく命の危機に直面していることを自覚し、誰かに助けを求めようと辺りを見回すも、さっきまでちらほらいたはずの通勤中の人は誰一人としていなくなっていた。

「わ私は魔族なんかじゃない」

 それでも私は魔族じゃないと言い張る。

 魔族がそんなにいけない者だとは思いたくないけれど、パパが私は人間として育ててくれたのだから私は人間。
 誰がなんと言おうと私は人間なんだ。

「嘘をつくんじゃない。お前からは魔族特有な異臭が漂い、外見もよく見れば人に化けた醜い魔族の姿じゃないか?」
「……私の姿はそんなに醜い?」 
「ああ。うまく化けているつもりだが、魔族を知っている人間ならばすぐに分かる」

 なのに彼は声を荒げて全否定する上、耳を疑いたくなるような真実を知る。
 頭を鈍器で殴られた衝撃を受け信じられず呆然と問い返すも、返ってきた答えは更なるショックする内容だった。
 
 魔族特有の匂いがするのは蛙男が言ってたから知っていたけれど、それが異臭だなんてまったく知らなかった。
 そして私の姿は普通だと思っていたのに醜いなんて言われたら、流石にショックでしかない。
 唯一の救いは地球だったら魔族の存在を知らな……あれ、太陽はこの前のこと件で魔族を知っているんだっけぇ?
 だったら太陽にも私から魔族の異臭に醜い姿だって気づいているけれど、二人は優しいから何も言わないだけ?

 脳内には警告のするかのように、言葉に出来ない文字が沸き上がる。
 確かにカマイタチを発動させればこの危機から逃れられるけれど、それは最後の最後までとっておきたい。
 彼は多分敵ではないから話し合いが出来れば、なんとかなる……と思う。

「あなたは何か誤解をしている。冷静になって話し合おう」
「は、誤解? お前は魔王の器になる魔王の血縁者を探してるんだろう?」
「……だったらどうするの?」
「お前も魔王の血縁者も自分が殺す。トゥーランの平和を護れなかったせめてもの償いだ」

 とにかく私が冷静になって話す合おうと言った物の、彼は聞く耳持たずで恐れていた最悪の言葉を恨む辛みを述べられる。
 その表情は怒りの中にかすかな苦しみが混ざっていて、私を殺すことなど何も迷いがなく首に手を掛けられ締め付けられる。
 一瞬で呼吸が出来なくなり藻掻き苦しむも、彼の力は強く何もダメージが与えられない。

 もう生きるためには、カマイタチを発動させるしかない?
  
 そんな時だった。

「俺の娘に手を出すな」

 パパの怒り狂った声がしたかと思えば、彼は宙に浮き私から離れ向かいの壁に吹き飛ばされ気を失う。
 苦しみから解放され呼吸も出来るようになり呼吸を整えながら、視線を向けるとやっぱりパパとそれから龍くんもいる。

「……パパ、龍くん……」
「星歌、もう大丈夫だから」

 私に対してはいつもの優しいパパで、私をギュッと抱きしめられる。
 大好きな温もりに安心したら、悲しくて悔しくて大粒の涙があふれ出す。

 なんで私がこんな目に合わないといけないの?
 私は何も悪いことなんてしてない。

「一体何があったんだ?」
「分からないけど、私が魔族だって知ってた。……魔族特有の異臭がするって。醜い姿だって。それで殺すって」

 龍くんも私を心配してくれてこと情を聞かれるけれど、頭の中がごちゃごちゃでうまく説明が出来ない。
 私はこれからどうすれば良いの?

「星歌、すまない。これはすべて俺の責任だから、恨むなら父さんだけを恨みなさい。それでも父さんは世界で一番星歌を愛してる。星歌のためならなんだってする」

 相変わらずの重すぎる私への愛情。
 パパの方が心に闇を抱えていて私に嫌われたらどうなるか分からない癖に、それでも私を第一に考え一人で背負う覚悟がある。
 そんなパパの背中は格好いいとは思うけれど、どうせなら一人で背負うじゃなくって一緒に背負うって言って欲しい。
 私はもう幼い子供じゃないんだから、無闇に全責任をパパに押しつけたりはしない。
 そりゃぁこの真実は怖いけれど、一人じゃなければ大丈夫。
 
「パパ、ありがとう。でも私はパパが大好きだから恨んだりしないよ」

 ゆっくり顔を上げ涙を拭き笑顔を浮かべそう言うと、パパは嬉しそうな表情を浮かべるけれも、すぐに歯を食いしばり悔しそうな表情に変わった。

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