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始まりの章
17.友情
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「龍ノ介さん、見つけました」
「お、陽。良くやった」
それからほどなくして遠くの方から陽の声が聞こえると、龍くんは立ち上がり何かを確認するなり声を弾ませた。
緑色に輝く六芒星型のビー玉より一回り大きい水晶玉。
龍くんの喜びようからして、あれが異世界起動装置。
当初の計画では男を異世界に戻すために使うはずだったけれど、男を倒したからもうそれは必要ないんだろうか?
それとも転生すると言っていたから、計画通り実行されるのだろうか?
「龍くん、これからどうするの?」
「破壊だな。そうすればトゥーランへの道は完全に閉ざされる。その後このダンジョンはこの形状を保てなくなり崩壊。ちなみに地上は忍の結界が解かれているから、すべて元通りに戻っているはずさ」
「良かったな。星歌、これで無事にすべてが終わるぞ」
「それはそうなんだけど、やっぱりパパが目を覚ましてくれるまでは、終わりだとは思えないな」
明るい龍くんの答えに太は特大な笑顔で喜びを私と分かち合おうとするけれど、今もなお深い眠りについているパパの手を握りしめ複雑な心境を語る。
龍くんのおかげで傷は結構癒えたとは思うけれど、私が手を握っていないと眉間にしわを寄せ辛そうだった。
だから私は少なからずまだ不安もある。
パパは丸一日深い眠りに就いているらしい。
これでも戦闘の途中で男を私が放った魔術で倒したから軽傷ですんだ。と言いたそうだったけれど、私と太に冷ややかに睨まれ小さく口をつぐんだ。
人はやっぱりすぐには変われない。……か。
「星ちゃん、おじさん。大丈夫なの?」
「あ、陽。お疲れ様。パパなら力を使い果たしたから、丸一日深い眠りに就いているだけだから大丈夫なんだって。ねぇ龍くん?」
私達と合流した陽は龍くんに異世界起動装置を渡す前に、口と目を大きく開けパパを心配してくれるので、わざと軽々しく大丈夫だと嫌みとばかりに同意を求める。
すると龍くんは、嫌な汗をドッと流し失笑するだけ。
「それって全然駄目なような気がするんだけれど、一体おじさんに何があったの?」
「うん、それがね」
期待通りに首を傾げ眉もひそめながらいきさつを聞くから、すべてを話し陽の意見も聞く事にした。
「……龍ノ介さん、早くこの異世界起動装置を破壊して下さい」
「……ありがとう……」
すべての話を聞き終わると陽は静かな怒りを漂わせながらも異世界起動装置を渡せば、怒りに触れたくない龍くんは怯えながらお礼だけ言って受け取る。
「この件について話したい事があるので、おじさんと時間を作って下さい」
「はい、分かりました」
しかし怒りを表に出さずでも迫力はありまくりの意味深な台詞に、龍くんだけでなく無関係の私と太も恐怖に怯える。
滅多な事で怒らない温厚な陽だけに、こう言う時は末恐ろしい。
絶対に敵に回したくない人。
私の事でここまで怒ってくれるなんてありがたいんだけれど、雷が落ちる程の説教は少しだけ可愛そうだなって思えてくるんだから不思議だ。
龍くんの事を幻滅してもう好きじゃなくなってしまったんだろうか?
それとも好きだから心を鬼にして徹底的説教して、歪な考え方を元に戻そうとしている?
「星ちゃん、辛かったよね? 私と太はいつだって星ちゃんの味方だからね」
私に対してはまったく怒っている様子を見せず優しい表情に変わり、ギュッと抱きしめられ私の心に寄り添おうとしてくれる。
太と同じように危険な目に遭ってもそう言ってくれる嬉しさと同時に、以心伝心は半端じゃない事に驚く。
二人にはお互いの気持ちが手に取るように分かっているから、当然のようにそう言い切れる。
さすが双子だね。
「うん、ありがとう。私も何があっても二人の味方だし、力になるからね」
今の私には言葉でしか言えないけれど、こればかりは有言実行しないといけないよね?
「なぁ師匠。オレ今回の件でいろいろ学んだよ。オレには異世界の英雄なんて向いてないんだなって。護るべき理由がなければ、覚悟なんて出来ない」
「太にしてはまともな決断だろう。異世界の英雄なんてなるだけ損だよ。……いろんな物を失うだけだ」
あんなにヒーローに憧れていた太が何を思ったのかふとそんな事を呟くと、龍くんは深く頷き遠い目をして重々しく語った。
今日みたいな命がけが日常茶飯事で、辛い体験をきっと沢山してきたんだろう。
だから理解したくないけれど、
命を落とさない怪我はたいしたことがない。
心がどうなろうとも、力を使い果たすまで戦うのは、英雄なんだから当然。
歪で異常な考えが普通になってしまった。
こうして考えると異世界を救う英雄は、偽善者にしかつとまらない。
私も太と同じで覚悟なんてないから、英雄には向いてないだろうな。
例えそれが私の産まれ育った異世界であったとしても、護る覚悟なんてないから辞退する。
そもそも魔王の孫娘の私が英雄候補に選ばれるはずがないだろう。
あるとしたら今日みたいに、魔王の器として狙われる。
そんなの今日だけで、もう二度と襲われたくない。
「龍くん、異世界起動装置はそれだけなの?」
「残念ながらオレが知ってる限り残りは三つ。それなら破壊は辞めてゲートが開かないように封印を何重にも掛けた上で、オレが肌身離さず保管しとくから安心しろ」
「ありがとう。ならもう安心して元の生活に戻れるね」
深刻だと思われた不吉な予感は、龍くんお墨付きの対応策ですぐに打ち消される。
ここまで自信たっぷりに言われたら、龍くんだから疑う余地がない。
これでようやくすべてが終わる。
パパが目を覚ませば何もかもが元通り。
ハッピーエンドまでもう少し。
「そうだな。そんじゃぁささっと封印の儀式をやってくるから、ここで待っててくれ」
「うん、よろしくお願いします」
そう龍くんは気合い充分に言って、私達の元から離れクレーターの中へ。
そこは男がいる所で危ないと思ったものの、思えば男が異世界起動装置を使った張本人。
もしかしなくても封印の儀式には、男が必要なのかも知れない。
一体封印の儀式とはどんな事をやるのか気になるけれど、きっと私達は邪魔だから置いていった。
心配なんか私にされても迷惑でしかないから、大人しくここで待っていよう。
太陽もそう思ったのか、何も言わずにいた。
「明日の晩はパッと打ち上げだな」
「太! ちょっと浮かれすぎ。まだ全部が終わったんじゃないんだから」
「んなこと知ってる。だからおっさんが目覚めた明日の晩って言ってんだろう?」
「それならおじさんが目覚めてから、打ち上げを考えるべきでしょ?」
そして完全に気を緩ませ明日の晩に心弾ませるお気楽な太の一言に、陽には信じられないとばかりに冷たく指摘。
しかし太なりの優しさがあって口をとがらせ猛反発するも、陽の意見とは異なっているようで更に言い返す。
「は、力を使い果たして丸一日寝てたら、空腹も底に尽きているはずだから、すぐに食えるようご馳走を用意しとくべきだろう?」
「確かに食事の用意は必要だけど、打ち上げの準備って浮かれながらやるんでしょ? 星ちゃんの気持ちを少しは考えなさいよ。おじさんが目を覚ますまでたまらなく不安な気持ちなのに、別の部屋であんたが馬鹿のように浮かれていたらどんな思いをする?」
「………」
口論は激しくなりかと思いきや、今を誰よりも深刻に状況を捉えていた陽の言葉に、太はハッとなり言葉をなくし表情が凍り付く。
私自身も心配はあるだけでそこまで不安ではなく、……考えないようにしていただけかも?
龍くんが丸一日と言っていただけで、保証は何もない。
「パパ、目覚めてくれるよね?」
更に手を強く握りしめ尋ねるけれど、表情は険しいままだった。
「お、陽。良くやった」
それからほどなくして遠くの方から陽の声が聞こえると、龍くんは立ち上がり何かを確認するなり声を弾ませた。
緑色に輝く六芒星型のビー玉より一回り大きい水晶玉。
龍くんの喜びようからして、あれが異世界起動装置。
当初の計画では男を異世界に戻すために使うはずだったけれど、男を倒したからもうそれは必要ないんだろうか?
それとも転生すると言っていたから、計画通り実行されるのだろうか?
「龍くん、これからどうするの?」
「破壊だな。そうすればトゥーランへの道は完全に閉ざされる。その後このダンジョンはこの形状を保てなくなり崩壊。ちなみに地上は忍の結界が解かれているから、すべて元通りに戻っているはずさ」
「良かったな。星歌、これで無事にすべてが終わるぞ」
「それはそうなんだけど、やっぱりパパが目を覚ましてくれるまでは、終わりだとは思えないな」
明るい龍くんの答えに太は特大な笑顔で喜びを私と分かち合おうとするけれど、今もなお深い眠りについているパパの手を握りしめ複雑な心境を語る。
龍くんのおかげで傷は結構癒えたとは思うけれど、私が手を握っていないと眉間にしわを寄せ辛そうだった。
だから私は少なからずまだ不安もある。
パパは丸一日深い眠りに就いているらしい。
これでも戦闘の途中で男を私が放った魔術で倒したから軽傷ですんだ。と言いたそうだったけれど、私と太に冷ややかに睨まれ小さく口をつぐんだ。
人はやっぱりすぐには変われない。……か。
「星ちゃん、おじさん。大丈夫なの?」
「あ、陽。お疲れ様。パパなら力を使い果たしたから、丸一日深い眠りに就いているだけだから大丈夫なんだって。ねぇ龍くん?」
私達と合流した陽は龍くんに異世界起動装置を渡す前に、口と目を大きく開けパパを心配してくれるので、わざと軽々しく大丈夫だと嫌みとばかりに同意を求める。
すると龍くんは、嫌な汗をドッと流し失笑するだけ。
「それって全然駄目なような気がするんだけれど、一体おじさんに何があったの?」
「うん、それがね」
期待通りに首を傾げ眉もひそめながらいきさつを聞くから、すべてを話し陽の意見も聞く事にした。
「……龍ノ介さん、早くこの異世界起動装置を破壊して下さい」
「……ありがとう……」
すべての話を聞き終わると陽は静かな怒りを漂わせながらも異世界起動装置を渡せば、怒りに触れたくない龍くんは怯えながらお礼だけ言って受け取る。
「この件について話したい事があるので、おじさんと時間を作って下さい」
「はい、分かりました」
しかし怒りを表に出さずでも迫力はありまくりの意味深な台詞に、龍くんだけでなく無関係の私と太も恐怖に怯える。
滅多な事で怒らない温厚な陽だけに、こう言う時は末恐ろしい。
絶対に敵に回したくない人。
私の事でここまで怒ってくれるなんてありがたいんだけれど、雷が落ちる程の説教は少しだけ可愛そうだなって思えてくるんだから不思議だ。
龍くんの事を幻滅してもう好きじゃなくなってしまったんだろうか?
それとも好きだから心を鬼にして徹底的説教して、歪な考え方を元に戻そうとしている?
「星ちゃん、辛かったよね? 私と太はいつだって星ちゃんの味方だからね」
私に対してはまったく怒っている様子を見せず優しい表情に変わり、ギュッと抱きしめられ私の心に寄り添おうとしてくれる。
太と同じように危険な目に遭ってもそう言ってくれる嬉しさと同時に、以心伝心は半端じゃない事に驚く。
二人にはお互いの気持ちが手に取るように分かっているから、当然のようにそう言い切れる。
さすが双子だね。
「うん、ありがとう。私も何があっても二人の味方だし、力になるからね」
今の私には言葉でしか言えないけれど、こればかりは有言実行しないといけないよね?
「なぁ師匠。オレ今回の件でいろいろ学んだよ。オレには異世界の英雄なんて向いてないんだなって。護るべき理由がなければ、覚悟なんて出来ない」
「太にしてはまともな決断だろう。異世界の英雄なんてなるだけ損だよ。……いろんな物を失うだけだ」
あんなにヒーローに憧れていた太が何を思ったのかふとそんな事を呟くと、龍くんは深く頷き遠い目をして重々しく語った。
今日みたいな命がけが日常茶飯事で、辛い体験をきっと沢山してきたんだろう。
だから理解したくないけれど、
命を落とさない怪我はたいしたことがない。
心がどうなろうとも、力を使い果たすまで戦うのは、英雄なんだから当然。
歪で異常な考えが普通になってしまった。
こうして考えると異世界を救う英雄は、偽善者にしかつとまらない。
私も太と同じで覚悟なんてないから、英雄には向いてないだろうな。
例えそれが私の産まれ育った異世界であったとしても、護る覚悟なんてないから辞退する。
そもそも魔王の孫娘の私が英雄候補に選ばれるはずがないだろう。
あるとしたら今日みたいに、魔王の器として狙われる。
そんなの今日だけで、もう二度と襲われたくない。
「龍くん、異世界起動装置はそれだけなの?」
「残念ながらオレが知ってる限り残りは三つ。それなら破壊は辞めてゲートが開かないように封印を何重にも掛けた上で、オレが肌身離さず保管しとくから安心しろ」
「ありがとう。ならもう安心して元の生活に戻れるね」
深刻だと思われた不吉な予感は、龍くんお墨付きの対応策ですぐに打ち消される。
ここまで自信たっぷりに言われたら、龍くんだから疑う余地がない。
これでようやくすべてが終わる。
パパが目を覚ませば何もかもが元通り。
ハッピーエンドまでもう少し。
「そうだな。そんじゃぁささっと封印の儀式をやってくるから、ここで待っててくれ」
「うん、よろしくお願いします」
そう龍くんは気合い充分に言って、私達の元から離れクレーターの中へ。
そこは男がいる所で危ないと思ったものの、思えば男が異世界起動装置を使った張本人。
もしかしなくても封印の儀式には、男が必要なのかも知れない。
一体封印の儀式とはどんな事をやるのか気になるけれど、きっと私達は邪魔だから置いていった。
心配なんか私にされても迷惑でしかないから、大人しくここで待っていよう。
太陽もそう思ったのか、何も言わずにいた。
「明日の晩はパッと打ち上げだな」
「太! ちょっと浮かれすぎ。まだ全部が終わったんじゃないんだから」
「んなこと知ってる。だからおっさんが目覚めた明日の晩って言ってんだろう?」
「それならおじさんが目覚めてから、打ち上げを考えるべきでしょ?」
そして完全に気を緩ませ明日の晩に心弾ませるお気楽な太の一言に、陽には信じられないとばかりに冷たく指摘。
しかし太なりの優しさがあって口をとがらせ猛反発するも、陽の意見とは異なっているようで更に言い返す。
「は、力を使い果たして丸一日寝てたら、空腹も底に尽きているはずだから、すぐに食えるようご馳走を用意しとくべきだろう?」
「確かに食事の用意は必要だけど、打ち上げの準備って浮かれながらやるんでしょ? 星ちゃんの気持ちを少しは考えなさいよ。おじさんが目を覚ますまでたまらなく不安な気持ちなのに、別の部屋であんたが馬鹿のように浮かれていたらどんな思いをする?」
「………」
口論は激しくなりかと思いきや、今を誰よりも深刻に状況を捉えていた陽の言葉に、太はハッとなり言葉をなくし表情が凍り付く。
私自身も心配はあるだけでそこまで不安ではなく、……考えないようにしていただけかも?
龍くんが丸一日と言っていただけで、保証は何もない。
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更に手を強く握りしめ尋ねるけれど、表情は険しいままだった。
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