普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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始まりの章

13.作戦会議

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「これからオレ達は地球と異世界に繋ぐゲートがあると思われる場所に行く。目的はゲートの異世界起動装置を見つけ出し忍を強制退去させること。途中忍が何か仕掛けてきたら星夜頼む。星歌は星夜が危なくなった時にカマイタチをお見舞いしろ。つよしは星歌の護衛、陽はオレの補佐だ」
「え、太陽も行くの?」

 龍くん主催の作戦会議が始まり全貌を聞いただけで、あまりにも寝耳に水で席を立ち目をまん丸にしつつ意見する。

 太陽は事情を知っていても確実な部外者で、私達のように特別な力はない。
 普通の村人をいきなりラストダンジョンに連れて行く感じじゃないだろうか?

「ああ、ここで留守番するのは危ないからな。太は雑魚モンスターなら倒せる実力はすでに備えてある。なんせオレの唯一の弟子だからな。陽一人ぐらいならオレが護れるよ」
「師匠、サンキュー。オレ期待に応えられるよう頑張るから」
「……龍ノ介さん」

 なのに龍くんは至って真面目で筋の通った考えにそう言う事ならばと納得するも、太の無駄な張り切りように少しばかりの不安も残る。

 あ、だから今朝、太なら良いかって言ったんだ。

 陽はすっかり恋する乙女になっていて、思う存分龍くんに護られて下さいと言いたい。

「太くん、星歌をよろしくと言いたいが、もし命の危険を感じたら先に逃げても良いからな。その後の事はオレがなんとかする」
「パパ、大丈夫だよ。まだ使いこなす自信はないけれど、少なくても自分の身は自分で護れるから」
「……そうだったな」

 確実に私がカマイタチを使うのを快く思っていないようで、最悪の事態には無茶をする気満々のパパだったが、そんな時はパパにとっても最悪の事態。
 また命を落としてでも助けると言いだし嫌な気持ちになるのは目に見えていたため、胸を張って自分の身は自分で護ると言い切る。
 そのために私は習得したんだから、いざと言う時は躊躇わずにばんばん使う。

「星歌、カマイタチは魔王の力で危険な事を忘れるな。そして今日使えるのは後四回が限度だろう」
「え、制限なんてあるの?」

 固い決意をするのも空しく、よく考えなくても当たり前の制限があることを知る。

 魔術初心者が魔王の力を一日六回も使えれば、たいした物なんだろうか?
 しかし後四回。
 意外に少なくって、これでは無闇やたらに使えない。
 せめて一回分だけは残すようにしなければ。

「そりゃぁな。無限に使えたら無敵だろう?」
「龍くんにもあるの?」
「当たり前だろう? ただオレのスキルに魔力貯蓄って言うのがあるから、今日だけなら使い放題だな」
「うわぁ、やっぱ龍くんチートだ」

 自慢げに答えられ、感心してそれしか言えない。

 英雄候補になるとチートスキルは、一人何個ぐらいあるんだろうか?

「師匠、オレも魔術を使いたい」
「残念ながらつよしには魔術の潜在能力はまったくない。剣術一本だ」
「そんな……」
「太あなたって実は相当な中二病だったのね」

 魔術を使えないと分かった太の激しい落ち込みように、太の理解者である陽は冷めた口調で呆れていた。

 私から言わせれば太は中二病と言うより子供だと思う。
 本当にこの人はこれからの事を、ちゃんと理解しているんだろうか?

 ……魔王の孫娘で魔王の力を使える私が怖くないのかな?

「まったく太は。この剣を貸してやるから元気出せ。真剣だが竹刀と重さは同じだから、すぐ実践でも問題ないだろう」
「!! 少し素振りして感触をつかんできます」

 どこからともなく日本刀を取り出した龍くんが哀れむかのようにそう言い落ち込む太に差し出せば、一瞬で立ち直り目をキラキラ輝かせ日本刀を受け取りルンルンで庭へと飛び出す。

 単純なのか、剣に一途なのか。

「本当に剣術に対する姿勢は純真で教えた以上の事をスポンジのように吸収してしまう。生まれる世界を間違えた剣豪の天才だよな」
「龍くんって結構太の事買っているんだね? そのうち師匠を超えちゃうとか?」
「馬鹿言え。こっちは生死を賭けた実戦を何度も積んでいるんだ。老いぼれ爺になっても負ける気はしねぇよ」

 本人の目の前では絶対言わなさそうな太の高評価をする龍くんに、ちょっと意地悪な問いをすれば鼻で笑われ軽くあしらわれてしまう。
 すごい自信である。
 でもそれってつまり自分の方が剣豪の天才で、あ、そうしたら龍くんに勝ち続けているパパもそうなるんだ。
 私も小六まで龍くんの実家である剣道教室に通っていたけれど、パパが剣道をしている所を見た事がない。

「パパってすごいんだね。今度太と勝負してよ」
「え?」

 パパが剣道をする姿が見たくなりいきなり話題を振ると、まさかそんな展開になるなど思ってもなかったんだろう目を見開き私を見つめる。

「この流れでどうして星夜が出てくる? すごいのはオレだろう? 魔術と剣術の二刀流なんだぞ?」
「それはそうだけれど、自画自讃する時点でマイナスじゃない?」
「うっ……」
「私は龍ノ介さんがすごいと思いますよ。剣術に魔術なんて無敵ですよね」
「……陽だけはオレにいつだって優しいよな? ありがとう……」

 傲慢な龍くんをスルーしている私が気に入らないのか更なるアピールに、冷ややかにダサいと教えると口ごもって肩を落とす。
 一部始終を聞いていた龍くん派の陽は慌てて龍くんを持ち上げようと褒め称えるも、なんだか無理に言わせられている感バリバリであった。
 これでも陽は本気で心配して本心を言っている。
 ただ私と太みたく中二病っ気がまったくないのに今の状況を受け止めたから、どこか言わされているような言い方になってしまう。
 私の事もちゃんと受け入れてくれた優しい子だ。

「話はもう良いか? 少し一人にさせてくれ」
「ああ、なら二時間後呼びに行く」
「そうしてくれ」
「え、パパどうしちゃったの?」
「星夜なら大丈夫だよ。精神統一して気を高めるだけだから、そっとしておけ」

 いきなり深刻そうな雰囲気を醸し出したパパは席を立ちそう言ってリビングを後にするから、びっくりした私は後を追いかけようとするも龍くんに止められる。

 この作戦はそれだけ危険なんだ。






 龍くんは陽と細かい作戦を立てると言って私だけ暇になり、それなら太とちゃんと話そうと思い栄養ドリンクとタオルを持って庭に出ると真剣なまなざしで素振りの最中だった。
 風を切るようなきれいな太刀筋で汗だくになっても一切気にしていなくって、本当に剣道が好きなんだなって思える。
   普段の太を知らない女性だったら好きになるのも当然だと思えて、私も剣道をしている太を見るのは好きだったりする。

「星歌、何か用か?」
「え、あうん。でも休憩まで待っているよ」
「そうか。なら少し待っててくれ」

 私の気配に気づかれ素振りを続けたまま聞かれるけれど、邪魔をしたら悪いと思ってそう言いデッキに腰掛ける。
 この真剣な取り組みを剣道以外にも生かせれば、もっともモテると思うのにもったいない。

 太くんなんて、どうだ?

 パパの台詞がふいに頭を横切る。
 太なんて問題外と答えて否定をし続けていたけれど、心の整理をして考えてみよう。

 太の武士道は立派で尊敬に値する。
 それ以外は少し褒めるだけですぐ調子に乗って、やることなすこと餓鬼でしかない。
 事実そのギャップが激しくて、女性達は幻滅して寄っては来ない。
 でも私は両方の太を良く知っているから、幻滅もするけれどそれが太なんだからと思える。
 それってつまり?

「お前、怖くないのか?」
「へ、なんで?」

 考えがまとまる前に話しかけられ、私が聞くはずの問いに目を丸くする。

「だってお前いきなり魔王の孫娘だとか言われて、命を狙われてんだぞ?」
「そりゃぁ怖いしいろいろ悩みどこだけれど、パパと龍くんが何も変わらないって言うから大丈夫。それよりパパが私を護るためにズタボロにされて殺されていく姿は見たくない」

 太にしては珍しく私の事を本気で心配してくれているから、軽い口調でも本音を漏らすと素振りを止め私の隣に座る。

 なんだか口にするだけで辛くなって涙が出そう。

「辛かったんだな。だったら今度はオレが少しでもおっさんの負担を減らせるよう頑張るよ」
「それなんだけど、つよし、今の状況ちゃんと理解している?」

 頭をポンポンとなぜられ頼もしい台詞に心強さを感じるも、素直に甘えられなくてつい突っぱねるような問いをしてしまった。

 龍くんはパパと同じでチートで私の父ちゃんだからまだしも、太は本当の本当に無関係で剣豪の天才と言われていても実践はないほぼ素人。
 いくら雑魚が相手でも大怪我する可能性は大。
 そう言うのが分かっていなくってゲーム感覚で言っているんなら、現実を理解させる必要がある。

「これは遊びじゃない事ぐらい分かってるさ。でもお前は陽の親友で俺の大切なダチなんだから、協力出来る事がある以上協力するのは当然だろう? もし逆の立場だったら、お前ならどうする?」

 なのに理解しているかは別として、最早卑怯でしかない事を当然とばかりに言う。
   それを言われたら私だって協力できる事があるのならば、状況を理解していなくても迷わず手を差し伸べる。
 だからこれ以上聞いても無駄だね。

 私は太の大切ダチなんだ。
 それなら私も太とは今の関係を崩したくないから、考えるのはもうやめにしよう。

「そうだよね。でも絶対に無理しないでよね?」
「大丈夫だって。いざとなったら師匠がなんとかしてくれるだろう?」

 せっかくのイケメンが台無しの考えなさに幻滅するよりらしいと思え苦笑してしまい、なんとなく栄養ドリンクを太のほほに当ててみる。

「冷てぇ!!」
「それ頑張っているから差し入れ。それに汗だくだからそのタオルで拭くと良いよ」
「サンキュー。気が利くじゃん。後少しで感覚が掴めそうだから、もう少し続ける」
「じゃぁ、着替え用意しとくから、頑張ってね」

 一度やってみたかった青春漫画のやり取りが出来た事に満足し、私もそろそろ準備しようと家の中に入ろうとすると、

「なぁ星歌、お前に魔王の孫娘で魔王の力があったとしても、師匠とおっさんと同じでオレと陽にも関係ないんだから、んなくだらない事で悩むんじゃねぇぞ」

 なぜ今聞いていないけれど、欲しかった答えをさらりと言う?
 あまりにも不意打ちでたった今友達のままでいいやと思ったはずなのに、心の奥が暖かくなりざわつき始める。
 太に友達以上の感情が生まれそうになった。
 でも太の事だから本心でも、友達に対する言葉でしかない。
 期待なんてしたら、駄目なんだ。

「太もたまには優しい言葉をくれるんだね。だけどまぁありがとう」
「は、オレがせっかく良い言葉を言ってやったのに、なんだよその可愛くない反応。お前ひょっとしてツンデレか?」
「太に可愛くしたって、私に何一つ得がないからね」

 この気持ちを悟られないよう普段通りの憎たらしい言葉を返し、元の残念な太くんに戻ってもらい最後はあかんべーをして家の中へと入っていく。

 私と太は、友達以上恋人未満。
 それでいいじゃない?


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