普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

文字の大きさ
上 下
9 / 157
始まりの章

9.覚悟

しおりを挟む
 意識が戻り目を覚まし飛び起きて辺りを見回せばそこは冷房が効いたパパの部屋で、隣ベッドにはパパの胸に龍くんが手を当て賢明に治療をしている?
 真っ白のシーツはぐっしょり濡れていた。

 そう言えば龍くんは異世界だと剣より魔術の方が優れていて、すべての魔術を習得したとか。
 それでも剣士であり続けたかったから剣の道を究めたらしい。

「星歌、目が覚めたんだな。体調はどうだ?」
「私は大丈夫だけど、パパは?」
「胸の治療に苦戦中だ。それ以外はなんとか出来たが、相当精神的苦痛を負ってるらしく、未だに昏睡状態でたまに魘されてる」

 深刻な顔で最悪であることを告げられ、パパを見れば身体中の傷はかなり癒えていても辛そうに見える。

 精神的苦痛。
 男にあれだけ酷いことを言われ続けたら、どんなに強靱な精神を持っていたとしても折れてしまう。

「手を握っても良いかな?」
「握ってやれと言いたいとこだが、もう少し胸の修復をさせてからな。女性が見られる傷じゃない」
「私ずーと見ていたから平気だよ」

 親切心で言われても聞く耳を持たず、龍くんの隣に行きパパの手を取り強く握りしめる。
 本当に胸の傷は血が止まっているせいか、ぐちゃぐちゃで奥の方で何かが動いているのがよく分かる。男に握りつぶされそうになった心臓。
 傷が癒えていても身体中の傷跡は痛々しいほど残っている。

 昔からパパの身体は古傷跡だらけで理由を聞いたら、昔事故に巻き込まれた時とお母さんを助けようとした時に負った傷と言っていたけれど、本当は異世界で敵と戦い負った名誉と言える傷跡だったんだね。

 そんなパパを私は尊敬する。

 でも男よりパパは弱い。
 後のことは龍くんにすべて任せて、男がいなくなるまで大人しくしてもらおう。
 私が捕まらなければ、パパだってもう無茶はしない。

「辛かったな。でも誤解するなよ。星夜は最強の格闘家だ。次はオレもいるから忍を確実に倒す」
「冗談言わないで。パパはあの男にまるで歯が立たなかったんだよ」

 私に同情してくれ優しい言葉を掛けてくれるのにパパに対しては鬼畜で、聞くだけで苛立つ私はけんか腰で却下する。

 龍くんは何も知らないからそんなことを言えてしまう。
 パパを過剰評価しすぎるのも、こう言う時に問題だ。

「は、まるで歯が立たなかったってどう言うことだ? あの腕は星夜がやったんじゃ無いのか?」
「違う。あれは私。よく分からないけど覚醒間近って言われた」
「……。何があったのか詳しく話してみろ」

 信じられないと言わんばかりの驚きの表情で詳しい話を求められ、話せばパパを解放してくれると思い力強く頷く。

 あの恐怖を話すのは怖いけれど、それでパパを護れるのなら喜んで話をする。
 だって私はただ見ていただけだから、パパの苦しみに比べたら全然平気。





「事情はよく分かった。昨夜の毒がまだ解毒しきれてない所にあの結界の中とくれば、半分の実力も出せなかったんだろうな?」
「え、パパ。毒に犯されていたの? それに結界って魔力結界じゃないの?」
「そう。星夜は大丈夫と言って治療を拒んでいたが、あいつ自身の能力だと解毒するのに一日は掛かるんだ。魔力結界でも今回は人の能力を低下させて、魔族の能力を増幅させる結界が張ってあった。だからオレは入れなかった」

 すべてを話し返ってきた答えは、パパの体力は最初から全快ではなかったことと、結界の秘密だった。
 だからパパは本来の力が発揮できないままあそこまで無様にやられただけだったから、龍くんとなら男を倒せるってこと?
なんか信じられない。

「でもまた結界を張られたら?」
「オレだったら結界内部に入れば余裕で壊せる」

 自信たっぷりな答えに、これは納得できる。

「そうなんだ。なら再戦はパパが全快したら挑みに行くんだね」
「そうしたいのは山々なんだが、相手はネクロマンサー。出来ることなら日暮れ前まではケリを付けたい」
「え、全快ってそんなに掛かるの?」
「あいにく魔術は万能じゃないんだ。星夜であっても丸一日は掛かるだろうな。もちろん精神的な部分は本人しか治せないがな」

 私が知る回復魔法は即効性なんだと思い込んでいただけに、内心がっかりしたのは心の底にそっとしまっておこう。

 だけどそれだったらやっぱりパパを行かせるのは反対。
 もし全快してもパパの心はズタボロにされたまま。
 力で互角になったとしても精神的苦痛をまた与えられたら、精神は崩壊して立ち直れなくなってしまう。

 ううん、弄ばれて殺される。

「ねぇ龍くんは男がパパを憎んでいる理由を知っている?」
「忍は天性の天才肌。十のうち一教えれば完璧にこなしてしまう。対して星夜は超努力型の天才。十のうち十一教えて毎日睡眠時間を削ってまで人の倍以上努力を続けてようやく完璧にこなせる。忍にしてみたら何もかもが気に食わなかったんだろう。最初から目の敵にされていて、月一度の練習試合は毎回瀕死になるまでボコされてたからな。まぁ一番の原因は魔王が決めた婚約者を、見下していた星夜に奪われたことなんだろう。転生してもまだ根に持ち続けてるとは、超こわー」

 絵に描いたような因縁と良くある一番根深い恋愛系が理由だった。
 龍くんは最後他人事のようにまとめたけれど、女子高校生も取った取られたで敬遠状態になって最悪いじめに発展するのは良くある。

「だったらやっぱり全力で引き留めるからね」

 理由が分かった上で余計行かせたくない気持ちが高まり、自分の意見を押し通す。


「イヤ、俺は行くよ」
「星夜、気がついたのか?」
「パパ?」

 目を覚ましたパパは何を思ったのか迷いのない口調で言うけれど、顔色はまだ悪く息も少し荒い。
身体を自力で起こすものの、眉間にしわ寄せ歯を食いしばり胸を強く掴む。

「オレなら大丈夫。後三時間で体調を整えるから」

 全然大丈夫じゃないのに、またその言葉。
 パパの大丈夫は信用できない。

「は、そんな短時間でどうやって? 自分がどんな状態なのか理解出来ているのか?」
「そうだな。正直体調も精神的にも最悪だな。でもお前が異世界起動装置を見つけて起動させる時間ぐらいなら囮になれるはずだ」

 ようやく龍くんも私と同じ反対側に回ってくれ加勢してくれるも、パパはそれを認めた上である計画を持ち掛ける。
 何をどうやったらそんな考えに辿りついたのか不思議でたまらない上、異世界起動装置がよく分からないけれど私には到底無理だと思う。
 あんなボコボコにされて体調が万全ではないのに、それでも囮になるって死を急いでいる馬鹿な考え。

「そんなの駄目だよ。そしたら今度こそパパ死んじゃうんだよ」
「それでもいいさ。星歌が無事なら……」

 さっきと同じで大丈夫だと言っている癖に、やっぱり死を覚悟していた。

「よくない。大体さっきのでよく分かったでしょ? パパはあの男の足下にも及ばないんだから、囮にもならないよ。また胸を切り裂かれてえぐられて、心臓を弄ばれたい訳?」
「……時間稼ぎにはそれが一番効果的か。あいつは俺を簡単には殺さないから」

 普通だったらトラウマになって二度と同じ目に会いたくないはずなのに、恐怖を一切感じさせず覚悟する。
 私のことが大切で護りたいって言っている割には、私の気持ちなんてちっとも考えていない。
 ただパパはそうすることで、自分が報われたいだけ。

「ねぇパパ。そんなグロテクスなシーンを二度も見せられた上、死んでいく父親の姿を見せられて娘は平気でいられると思っているの?」
「え?」
「トラウマになって、もう二度と笑えなくなる。自殺するかも知れないんだよ。だからパパはヨボヨボのおじいちゃんになるまで生き続けないと駄目なの!!」
「…………」

 分からず屋のパパに私は怒りながら言葉でちゃんと自分の思いを伝えたのに、それでも何か反論したそうなパパに抱きつき声に出して泣く。
 卑怯だと思われてもパパは強情だから、こうでもしないと伝わらない。

「二人でよく話すんだな。下で太陽と待ってるから、答えが出たら降りて来るんだな」

 龍くんには私の気持ちが伝わったらしく、空気を読んでそう言い部屋から出て行った。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...