普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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始まりの章

1.事件

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 平凡でも平和な日常が続いていくと当たり前のように思っていたのに、事件はある日突然やってくる。

 終業式後幼馴染みのひなたとショッピングとカラオケを満喫していたらすっかり辺りは暗くなってしまった。
 急いで帰宅していると途中で、私達は背後から嫌な得体の知らない気配に気づく。

「これってひょっとしなくてもヤバいよね?」
「うん。家までまだ距離はあるけれどどうしよう。大通りに向かう?」
「そうだね。お父……龍くんに電話する」

 到底私達に対処出来るはずもなく大通りに向かいつつ応援を呼ぶことに。お父さんに助けを求めようとするも明らかに力不足なため、剣道有段者の龍くんに助けを求めることにした。

 龍くんとは、お父さんの高校からの親友で私にとってはお兄さん的存在。今は高校の担任でもある。
 もし危ない人だったらお父さんじゃ私達を護ってはくれるとは思うけれど、三人仲良くあっけなく殺されるだけ。だったら陽の双子の兄の太の方がまだ頼りになる。

 陽の手を取り歩く速度を速めながら、龍くんに電話をかけた。

―星歌、どうかしたか?
「龍くん、今陽と一緒なんだけど変な人に付けられている気がするの」
―!! 今どこにいる?
「オリンピック通りで駅へ向かっている。GPSアプリを起動しておく」
―了解。星夜と一緒にすぐ向かうから。

 運良く電話繋がり私の言葉を信じてくれて、いつもとは違う低い声でそう言い電話は切れる。
 お父さんと一緒にって事は、多分いつものように我が家にいたんだろう。週三で我が家で夕食をしている。

 でもどうして戦力外のお父さんを連れてくるんだろう?
 単なる運転手動員? 

「すぐ来てくれるって」
「良かった。でも勘違いであって欲しい」
「そうだよね」

 怖いけれどまだ気がする程度で陽もいるから結構冷静でいられたのに、大通りに出た瞬間私達はその景色に唖然となり立ち尽くす。

 空気も今までとは違ってピリピリする。

「何これ、誰もいない?」
「なんかおかしいよ」

 人も交通量も多い大通りのはずなのに、今は人気がまるでない。不気味なほど静かでまるで知らない場所に、迷い込んでしまったような錯覚さえ感じてしまう。
 だけど街灯や建物の明かりはついたままで、背後から感じている不気味な気配はどんどん近づいてくる。

「ととにかく逃げて龍くんと合流しよう」
「合流できるのかな? だって誰もいないんだよ」
「ネガティブ発言禁止。絶対になんとかなる……はず」

 恐怖に怯え泣く一歩手前の陽に、ポジティブ思考で行こうとする私の意見を全否定されてしまう。ここで私までネガティブになったら終わるから、自分に言い聞かせながらおまじないの言葉を口にする。

  絶対、なんとかなる。

 昔、誰かがよく言っていた台詞だった気がする。


 こんな漫画のようなシチュエーションで死んでたまる……ひょっとしてこれは今流行の転生系ラノベの序章なのだろうか?
 私達は得体の知れない人に殺されて、次目覚めた場所は剣と魔法の異世界でチートスキルを持っている。
 もしくは乙女ゲームの悪役令嬢になっていて死亡フラグを必死に回避する人生。

 そういう来世も結構面白い……。
 ……………。
  ううん、やっぱりどっちも私はごめんだ。

「陽、私はこの人生が大好きなの。だからこんなところで絶対に死ぬ訳にはいかない。陽だってそうでしょ? やりたいことまだまだあるよね?」
「……うん、そうだね。私も死にたくない」

 今思った固い決意を強く告げると、陽は分かってくれたのか少し恐怖が消える。
 そして私の手を強く握り返し、嫌な得体の知れない気配から再び逃げだす。

 なんで私達はこんな目にあってるんだろうか?
 私の人生さっきまで平凡だったはず。

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