AIロボットかんなちゃん ~意思が芽生えたら、天使か悪魔か?~

桜井吏南

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3話

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「カンナ、階段一人デデキル」
「凄いね。かんな」

 階段をぴょんぴょんと往復し、無邪気に喜ぶかんな。私まで嬉しくなり、かんなの頭をくちゃくちゃになぜた。
 改造? が終わり起動させると、最初はちょっぴりご機嫌斜めだった。でも英からレクチャーを受けると、機嫌は直り今に至った訳。

「起動動作は、問題なしだな。よし次は外出だ」

 こちらも表情が和らぎ、好奇心の眼差しをかんなに向けている。

 そんな英を見ていると呆れると同時に、ワクワクしてしまう。
 発明品はガラクタが多いけど、たまにすごい物を作って楽しませてくれる。
 さすがにタイムマシンや宇宙船まではいかないけど、少し宙に浮くスニーカー。ぬいぐるみをロボットに改造。変声器。自動翻訳眼鏡。があった。

「英兄、外は庭だけにするか、夜が良いと思うよ」
「なんでだ?」

 悲しげに桜ちゃんが口をはさむ。

 さっきはあんなに乗り気だったのに、そう言えば少し前から様子がおかしかった。
 何か、それもヤバイことでもあった?

「さっき自我を持ったAIの事例が他にもあるかなと思って調べたんだけど、どうやら危険分子と見なされて破壊されるみたい。そう言う団体があるらしい」
『…………』
 
 思ってる以上にヤバイことで、一同顔を見合せ青ざめる。

 危険分子と見なされて破壊……。

「破壊、イヤダ~」

 かんなが一番ショックを受け声を張り上げ、私にしがみつく。泣く機能があったら大泣きしてただろう。
 当たり前だ。

「大丈夫、かんなは私達みんなで護るからね」
「そうよ。桜ちゃん、どうして危険分子なの?」
「最初に発見されたのは人工知能対話システム。発見されてすぐ施設に隔離されて、様々な実験をされたみたいよ。相当酷い扱いをされ続けてたんだろうね。ある日暴走し手に負えなくなったため、その施設ごと大爆発し証拠隠滅」
「それはその子も辛かったんだね」

 事情を知ったお姉ちゃんは悲しげに呟き、かんなの頭を優しくなぜる。私も悲しくなりなんて言って良いか分からなくなった。

「それはいつ・どこでの出来事か?」
「四十年前・ロシアで」
「……一時間だけ猶予をくれ」

 難しい表情を浮かべたお兄ちゃんはそう言い残し、自分の部屋に戻っていく。

「何あの捨て台詞? そう言えば譲って、脳科学専攻してたわよね。今すぐ乗り込んで吐かせる?」
「いいや。本人が一時間猶予をくれって言ってるんだ。やろうぜ? 一時間過ぎた瞬間、殴り込めばいい」
「英は意外に優しいのね」
「まぁな」

 完全に英とお姉ちゃんは悪人の顔になっていた。

  一見英は兄思いの優しい弟に思えるけど、実はそうじゃないんだよね? 少しでも約束を破れば、それで一生揺する魂胆だ。

「私は、もっと詳しく調べてみるね」
「桜ちゃん、手伝うよ」

こういう時の二人はほっとくに限るから、かんなを連れ桜ちゃんの後をついていく。




「ねぇ鈴姉。お兄ちゃんは裏切らないよね?」
「え、お兄ちゃんが? 何か気になることでもあるの?」

 ノートパソコンとにらめっこしている桜ちゃんは視線を変えず呟かれ、ハッとなるもワザと惚けて問い返す。

 惚れている弱味以上にお姉ちゃんを敵に回すと、死より恐ろしいことが待ち受けている。般若になったお姉ちゃんは誰にも止められない。
 なんて言ったら、お姉ちゃんの信頼が落ちるだけだから言わぬが花。
 それにしてもどうしてお兄ちゃんが裏切るなんて思ってるんだろう?

「お兄ちゃんのゼミの教授は、AIに自我を持たせることには反対なんだって。だから……」
「そうなの? でもかんなに対するお兄ちゃんはいつもと同じだったよ。偽っているとは思えなかったけどな」
「それはあたしも思った。お兄ちゃんは嘘がつくのが下手だもん」

 理由が分かっても考えられないから軽く言葉を返すと、桜ちゃんの表情が和らぎクスッと笑う。それははちょっと情けないかもだけど、桜ちゃんはお兄ちゃんが大好きで慕っているから問題はない……と思う。

「でしょ? だからお兄ちゃんを信じようよ」
「うん、そうだね。あたしはあたしが出来ることをやる。悪い奴らよりも先に自我を持ったAIを見つけて助ける」
「私もかんなに愛情と道徳を教えて、立派なペットロボットに育てる」

 桜ちゃんの意気込みは立派だった。何も出来ない私は、これが精一杯。
 かんなを絶対に見捨てない。危険が迫ったら必ず助ける。そのために道徳を教えれば、人間社会に溶け込めるはず。

「カンナハ、何ヲスルノ?」
「かんなにはこれからお勉強するの。立ち入り禁止エリアは絶対に入らない。距離感の取り方」

 かんなの立ち入り禁止エリアはキッチンと洗面所。ちょっと油断するとすぐに入ってくる。
 距離感は微妙に距離を取り抱っこを求めたり、かと思えば至近距離まで詰めてくる。振り向けば金魚のうんち化し、感極まると突進してきて足を引く始末。
もう愛嬌ではすまされない。

「イヤダ。禁止エリア面白イ」
「お、面白いって、何が?」

 まさかの面白いから断固拒否。意味不明すぎて、問い返す。

「ツルツル、ガタガタ。スグダッコシテクレル」
「あ、そうなんだ。でもガタガタは壊れて、英に改造だよ」
「!!」

 ツルツルは洗面所で、ガタガタはお風呂場の床。
 最初は楽しそうでいいやと放置してたんだけど、ホールがボロボロになっていることに気付き辞めさせた。障子の縁も好きなんだよね?
 キッチンは危ないから、速攻抱っこして退場させてたら、それが裏目に出てたらしい。
 英が改造すると言えば、言うこと聞かせられるのか。

「とにかく禁止エリアに入ったら、英に改造してもらうから」
「イヤダ。イジワルリンカハ、ダイキライ!!」
「え、ちょっとかんな?」

 調子にのって無理矢理言い聞かせようとすると、かんなはぶちギレ部屋から飛び出していく。
 驚き我に返った後、ショックの波が押し寄せる。

 かんなに嫌われた?

「鈴姉、大丈夫? 訳をちゃんと話せば分かってくれるよ」

 今度は私が桜ちゃんに励まされることになる。

 桜ちゃんの言う通りちゃんと話せば理解してくれるよね? かんなのためだもん。
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