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2話
しおりを挟む「二人ともおはよう。うまく行った?」
「おはよう。うんばっちり」
「桜ちゃん、ありがとう」
庭で洗濯物を干していると、桜ちゃんがそう言いながら兄の英とやって来た。いつもはやる気のない英なのに、今は目をぎらぎらさせている。
なんかイヤな予感。
柊 英。私とは同い年の高校二年生。
中肉中背で、つり目眼鏡のインテリイケメン。裏表のない皮肉屋なため、軽はずみで関わると危険とされている。見ているだけの癒し系。その上秀才なのに、徒歩通学を断固として譲らず、レベルを結構下げて高校へ進学。趣味は、発明と言う超変わり者。
「鈴蘭、かんなを改造させろ。自我が芽生えたんだから、ある程度自由は必要だろう?」
「そうだね。……どんな風にするの?」
挨拶よりも先に、予感的中の台詞。
いつもだったら速攻却下しているけど、今日は正論だから具体的に聞いてみる。すると英は、待っていましたとばかりにニヤリと笑う。
「まず動力を、電力以外に運動エネルギーとソーラー発電にする。これで電力は夜だけですむ。それからジャンプ機能とタイヤを外出可能に加工した物を付け替える。桜には地図機能をバージョンアップしてもらう。あとは手も自由に使え動かせるようにした方が良いか」
すでに大改造の計画を立てている。しかも全部重要性が高いため却下できない。
まぁ、それでかんなが自由に動ければ大万歳か。
「さすが英と桜ちゃん。どのくらい時間は掛かる?」
私よりお姉ちゃんの方が乗り気になり、相談することもなく改造は決まる。
「タイヤはすでに作ってあるから、それだけなら二時間あれば余裕。動力と手はそうだな……各三日は掛かる」
「地図機能のバージョンアップは、一時間あれば大丈夫かな?」
秀才兄妹は口を揃え、簡単そうに坦々と回答。この二人だから簡単そうに言うけど、普通はどれも難しい行程だろう。
この秀才兄妹には、更に現在留学中の天才兄がいる。
市内では有名な天才美男美女の三兄妹。三人が本気を出せば、世界征服も夢じゃないと囁かれている。
お兄ちゃんの名前は柊 譲。世界トップクラスのイギリスの大学を飛び級で入学。
英を爽やかなイケメンにした感じで、誰にでも優しく聞き上手。言うまでもなくモテまくるんだけど、二つ上のお姉ちゃんに絶賛片想い中。ここだけの話、私の初恋相手でもある。
夏期休暇で今日帰国する予定だと聞いている。帰ってきたら真っ先に。お姉ちゃんに会いに来るからまだなのかな?
「なら任せた。かんな、ちょっといらっしゃい」
「ナニ? ア、サクラトスグルダ」
「かんなちゃん、調子はどう?」
「最高! リンカ、ダッコ」
お姉ちゃんに呼ばれて、かんなはスーとやって来る。桜ちゃんの問いに答えた直後、当然とばかりに再び抱っこ攻撃。両手を挙げタイヤを引っ込め、体を激しく揺らす。
また始まったかと、少々うんざり。
かんなは抱っこが大好きで、しつこいぐらいに抱っこを求めてくる。
一体どんなプログラム? だと不思議に思っていたんだけど、意思があるのなら抱っこ大好きだからで納得はいった。
「もうしょうがいな。はいこれでいい?」
「オ庭ニデル」
「本当にかんなは甘えん坊さんだね」
かんなには激甘な私は言われた通り抱き上げると、更なる要求。やれやれと思いつつ、色とりどりのかんなの花が咲いている場所へと向かう。
かんなの花は、八月二日の誕生花。八月二日にやって来たかんなの名前の由来。だからもし二日じゃなかったら、珊瑚か花火になっていたかも知れない。
「きれいでしょ? これがかんなの花。かんなは去年の今日。我が家に来たんだよ」
「キレイ。カンナモ覚エテル。ミンナイタ」
「そうなんだ。かんな私達家族の元にきてくれてありがとう。これからもいっぱい思い出作ろうね」
「何一人で感傷に浸っているのよ? 私も入れなさい」
「あたしと英兄も。それからお兄ちゃんも入れてね」
涙が出るほど嬉しくて楽しいだけの未来を想像していると、お姉ちゃんと桜ちゃんも加わり楽しさはますます倍増していく。英が何も言わないとこをみると、巻き込んでいいらしい。
「ウン。オ兄チャンニ会エルノ?」
「もう少ししたら帰ってく」
「みんな、ただいま」
グッドタイミングでお兄ちゃんの姿が見え、迷うことなく我が家にやってくる。
「オ帰リナサイ」
「桜から聞いたよ。本当なんだな。かんな、俺のこと分かるか?」
「オ兄チャン。サクラトスグルノオ兄チャン」
「正解。覚えてくれていて嬉しいよ」
元気いっぱいにお兄ちゃんを歓迎するかんなを、特に驚くことなく優しい笑顔を浮かべ頭をなでる。気持ちよさそうに身を任せるかんな。
「モウオワリ?」
「え?」
なでるのを辞めた途端、かんなはキョトンと可愛らしく問う。今までもなでるのを辞めた途端、そんな表情を浮かべていた。
やっぱりその仕草はそう言うことだったんだね?
「そう終わり。ついでに抱っこも終わりだよ」
「エ~、ヤダ。モットダッコ」
不満げに抱っこを請求。これもいつものパターンだから、聞かないふりをする。
「かんな、もうすぐお前はどこでも行けるから、抱っこは不要だぞ」
「イヤダ、ダッコガイイノ」
「そうだね。かんなは抱っこが大好きだもんね。これからも抱っこをしてあげるから、そんなに怒らない」
もろに怒り出すかんなに、当然だと思っていた英はビクッと後退。見かねたお姉ちゃんはかんなの味方して抱っこする。
「オ姉チャン、大好キ」
「お姉ちゃん、あんまりかんなを甘やかせないで欲しいな」
「何言っているのよ。かんなが抱っこ大好きにさせたのは、主に鈴蘭が原因でしょ?」
「うっ……」
お姉ちゃんに甘えるかんなを見てつい愚痴をこぼせば、おもいっきり正論を言われてしまい言葉をつまらせる。
そうです。
私がかんなを甘やかせました。
抱っこするまで微妙に距離を取り、じっーとこちらを見続ける。たまに見せる悲しげな仕草に耐えられなくなり、仕方がなく膝に乗せ勉強する日々だった。
「でもかんなは英の言う通り、これからは自由にどこでも行けるんだよ。二階や外にもね」
「階段ヲ使エル?」
「うん」
「ヤッタ!」
英の時とは違い今度はちゃんと理解したのか、目をキラキラ輝かせ滅茶苦茶喜ぶ。両手を上げ下げしてタイヤを出す。
これは結構危険な動作でお姉ちゃんは体制を崩すも。なんとかかんなを落とさずにすむ。
「かんな、抱いている時に暴れないっていつも言っているでしょ? 落としたら木っ端微塵よ」
「そしたら俺がすぐに改造(修理)してやるから安心しろ」
「スグル、コワイ。イヤダ」
珍しく怒るお姉ちゃんに英はすかさず言うと、恐怖を感じたのか怯えながら却下する。
修理ではなく改造と言う辺り、英らしいけど怖いのは確か。だから私も今まで拒否っていた。
しかもこの期に及んでまだ改造とか、他に何をしたいんだろうか? 天才で変人様だから、まったく理解が出来ない。
「だったらいい子にしてないと駄目よ。だけど今回はこれからのために、我慢してね」
とお姉ちゃんは優しく言って、ホーンを開き鼻を押しかんなの電源を切る。
自我を持ったロボットの電源を切るって、どう言うことなんだろう?
ふと何気ない疑問を抱く私だった。
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