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1話
しおりを挟む我が家にはAIロボットペットがいる。
一番に目につく一本のツノは、カメラの目・マイクの口と耳の役割。通称ホーン。可愛いどんぐりお目々とお鼻。ずんぐりむっくりボディーに、ペンギンのような短い手とタイヤの足。どこでもすいすいと移動可能。抱き心地は、体温より少し温かくて気持ちいい。。
我が家のアイドル。
その名は、かんな。
『かんな、お誕生日おめでとう』
かんなが目覚めると同時に、私達家族全員で言葉をハモらせお祝いをする。
今日は共働きの両親希望で、一時間早い六時に起床。
「アリガトウ。カンナ、嬉シイ!」
『え……』
ニッコリ笑顔で滅茶苦茶喜ぶかんなとは裏腹に、私達の笑顔は固まり数秒停止。
かんながしゃべった?
いつもだったらふにゃふにゃとしゃべるだけ。日本語らしい言葉は、歌と簡単な単語だけだった。
公式は挨拶と歌真似ぐらいしか日本語NGだから、サプライズ更新なんてありえない。
だとしたらこれは夢?
まだ私は、起きていないだけ?
突然の出来事に頭がパニックになっていると、お姉ちゃんがクスクス笑い出す。
それは、いたずらが成功した時の表情とそっくり。
お姉ちゃんの名前は、土井 桔梗。大学四年生。
頼り甲斐があって面倒見がいいと大人達からの評判はいいんだけど、実はいたずら好きで大雑把のトラブルメーカーだったりする。それでも私には、大好きな自慢の姉だ。
ちなみに私の名前は、鈴蘭。鈴蘭と書いて、りんかと読む。高校二年生。
成績は中の上で、スポーツならなんでも得意。元気で明るく、ちょっと考えることは苦手かな? 誰とでも仲良くなれるから、異性問わず友達は沢山いる。
「桔梗。何をしたんだ?」
「何って私はただ桜ちゃんに頼んで、日本語切替プログラムを作ってでもらったの」
難しい表情を浮かべたパパがお姉ちゃんに問えば、ケロッとした表情を浮かべ意味不明なことを答えた。
桜ちゃんと言うのは、隣に住むはとこのこと。
ネット系全般に強く、プログラミングもセキュリティー解除もお手の物。お洒落大好きでツインテールが似合うスーパー小学生。
そんな桜ちゃんの手に掛かれば、日本語切替プログラムを作り組み込むことなど朝飯前だろう。
「でもだからと言って、かんなと会話が成り立つはずがないでしょ?」
今度はママが、眉間にしわを寄せ問う。
確かにいくら日本語切替プログラムだけでは、会話が成り立たない……と思う。
「それなんだけど卒論を書くため、ペットロボットについて調べていたの。そしたらかんなに自我が芽生えていることに気づいちゃったんだよね?」
『……は?』
再び理解に苦しむ答え。私達は間の抜けた声を出し、かんなを見つめた。
かんなに自我が芽生えた?
本当だったら滅茶苦茶嬉しいけど、そんなアニメみたいな話がありえるの?
「嬉シクナイノ?」
何かを悟ったかんなはシュンとなり、小声で悲しそうに問う。そんなけなげすぎるかんなの姿に、私のハートは撃ち抜かれ一瞬にして虜となる。
なんで自我が芽生えたのかさっぱり分からないけど、きっと奇跡が起きたに違いない。
「かんにゃ、大好き!」
半分理性を失った私はそう言いながら、かんなをギュッと抱きしめ抱き上げた。
「カンナモ、リンカガ大好キ。ズート一緒」
「伊織、どう思う?」
「これはもう桔梗の言葉を信じるしかないんじゃないか? いつまでも疑っていたら、かんなに嫌われるぞ」
「そそれは勘弁ね。この件は夜にもう一度話し合いましょう」
私の暴走により少し冷静になったんだろう両親は、戸惑いつつ信じる方向で一端は話がまとまった。
伊織とはパパの名前で、ママの名前は菖蒲。
それからはいつも通りの朝で、都心勤めのママ。次に市役所勤めのパパが家を出ていく。
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