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「姉さん、連れてきました」
「生きてるわよね?」
「もちろんです。気を失ってるだけですよ」

 レオ達に事情を説明してすぐに戻って来たヘンゼル。す巻きにされピクリとも動かないシャーロットをそっと覗き込み、恐る恐るヘンゼルに生死を問う。
 当たり前のように答えるヘンゼルにムッとなった。

「そう言う問題じゃないでしょ? この馬鹿弟!!」

 私じゃなくグレーテルが一瞬表に出て来て、ヘンゼルに突っ込みとグーパンを食らわせ壁に撃沈。
 修羅場の前兆。

「エミリー、一体どうしたんだ?」

 平手打ちではなくグーパンのほぼ暴力だろう状況に、レオは目を疑い信じられないと言わんばかりの問い。双子達も呆然としている。

 グレーテルが復活したけど害はない。とだけ教えている。
 まさか気軽に入れ替わり出来るとは思ってないだろう。

「今のはグレーテルです。私達は入れ替わりが出来るのです」
「そそうなんだな。びっくりした」
「まったくです。驚かせないでください」

 誤解されたままはイヤだから、速攻ネタ晴らし。ホッとするレオ達に私もホッとする。

“すみません。弟が馬鹿すぎる行動に頭が来てしまって、つい……”

 深く反省するグレーテルの気持ちは良く分かる。私もヘンゼルに恐怖心がなく、エミリーじゃなかったら、どついていたかも知れない。

 シャーロット同様、彼にもとことんムカついている。
  人間嫌いならシャーロットの言葉なんか鵜呑みにしないで、私の前に現れて欲しくなかった。

「紛らわしくてごめんなさい。シャーロットを早く開放しましょう?」
「そうですね。そう言うことなら私達に任せてください」
「捕虜の扱い方の正しい指導はちゃんと受けております」

 いくらなんでもす巻きのままにしとくのは可哀そうなだからそう言えば、双子が出て来て慣れた様子です巻きを外していく。すぐに椅子へと縛り付ける。
 何をするか分からない以上拘束するのは当たり前なんだけれど、ケイトの台詞が怖かった。

 捕虜の正しい扱い方って一体? 
 だとするとヘンゼルも?

「フランダー教授、魔族の知識はありますか?」
「それなりにな。生き残りがいて、彼らと交流を持っている」
「そんなに? ではヘンゼルを任せてもいいですか?」

 知識が少しだけでもあれば任せようとしたら、まさかの交流までのガチだった。これは期待していいレベルだ。声を弾ませ頼む。

「ああ。二人で腹を割って話してみよう。隣の部屋借りる」
「はい。助かります」
「何かあるといけないので、俺も一緒に行きます」

 二つ返事で了承してくれたし、峰岸さんは進んで護衛役を出てくれる。ヘンゼルを担ぎ隣の部屋へ。
 これでシャーロットが起きて癇癪を起したとしても、ヘンゼルと契約を交わしラストバトル突入することはない。

「──。俺が二人だけで話し合ってもいいか? シャーロットに好きと伝えておきながら、俺は自分の気持ちばかり押しつけていた。エミリーとの婚約破棄をすると言いながら、やっぱりなしにして重婚するとか調子が良すぎる」
「今さらそれに気づくか? しかしもしシャーロットを選べば、皇太子様は平民になるってことも理解しといた方が良い」
「あ……。そうだよな。そこまで考えていなかった」
『…………』

 真剣にシャーロットと向き合おうとするレオはすごいと思ったけれど、リーダーに対しての反応には情けなさ過ぎて言葉が出なかった。
 
 考えてなかったの? こんな大事なことなのに?
 この人は阿呆?

「皇太子殿は阿呆なのか?」

 勇気ある友太先輩の思うだけで声にしてはいけない呟き。

「友太さん、それはいくらなんでも暴言です」
「大丈夫だ。本当だよな? いくら身分など関係ないと俺が言っても、頑固な議員達が許すはずない」
 
 幸いレオは心底悩んでいたためお咎めはなく、顔を真っ青にしシャーロットを選んだ未来をぼやき頭を抱える。
 それを見て心底情けない奴だと思い、フランダー教授同様呆れてしまう。

 こんな情けない奴ばかりなのか?

“朋子さん、ちょっと交代してくれませんか?”
“え、エミリーひょっとして怒ってる?”
“はい。レオに一言いいたいの”

 私の知らないエミリーがそこにはいた。
 今まで感じたことのないただならぬオーラを発している。気品あふれる令嬢。

 これが本来のエミリー・サウザンド。

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