生みの親が悪役令嬢に転生!?~破滅ルートを回避するため、恋愛ゲームを辞めます。今日からアドベンチャー~

桜井吏南

文字の大きさ
上 下
49 / 56

49

しおりを挟む
「ヘンゼル、正直に答えなさい。嘘をついたらお尻ぺんぺんするからね」

 ヘンゼルを見つけたグレーテルは喧嘩腰で言葉を投げかける。体がビクンと身体を震わせるけれど、なぜか涙して抱き寄せ強く抱きしめられた。

「主様、姉さんの記憶も蘇ったのですね」
「ごまかさない。私は怒っているの」

 感動の再会を演出するもグレーテルの通用せず、更なる怒りを買い殴り捨てる。それなのにヘンゼルは嬉しそうにしていて、ドン引きよりもこれがマゾなのだと感心してしまう。

「すみませんつい。我は姉さんに嘘なんてつきません」
「そう。じゃぁあなたはどうやって私を見つけたの? 私から呼び出すことは出来ても、逆は出来ないはずよね」
「今の我は世界を回りながら祟り屋をしてまして。先日魔法学園の女生徒に呪いの依頼を受けたのです。それが主様でした」

 正直に語り始めるけれど、それだけでもうお腹いっぱいになり愕然とする。言わなくても依頼主に察しがつく。

 そうか私はそこまで嫌われてたのか。
 一度は距離を縮められたと思ってたのに、その考えは甘かったんだ。地味にショック。

「祟り屋? そんなのすぐ辞めなさい。私があなたのその腐った根性をたたき直してあげる」

 あれだけヘンゼルの現状を話し逆なでしないでと言ったはずなのに、グレーテルは酷いことをさらりと言い叱る。
 そんなことを言ったらヘンゼルを逆上させ、さっきのように笑顔が氷つき殺気が──。
 
「確かに我の根性は腐ってますが、姉さんこそどうして人間を信じるんですか?」
「だって私は人間ですから。しかも今回は仲間が私をクード様の元に連れってくれるの。ここでの私はまだ裏切られてないの」

 ちょいちょい面白い台詞が混ざっているのは、無自覚で言っているのだろうか?
 まさかギャグギャラが中途半端に反映されて、こんなことになっている?

 本人達は至って真剣な口論なのに、笑いをこらえるのに必死だ。

「ではなぜ姉さんは覚醒されたのですか? 母体は婚約者から、婚約破棄されそうになんですよね?」

 情報が古いだけなのか、聞かされてないだけなのか分からない。でも依頼主からして、後者なんだろう。
 だから私が覚醒したのだから間違えではないけれど、今となっては完全な誤解である。

“それはもう解決済みです。朋子さんのおかげで今ではレオとうまくいってます”
「失礼なことを言わないで。今はラブラブよ」

 エミリーの主張をそのまま代弁せず。大げさに勝ち誇った笑みを浮かべ宣言する。
 言うまでもなくエミリーは赤面化し、意識を失くす。

「……。するとあの女が、我を騙したのですね?」
「そうなるわね。とにかくその依頼主を連れてきて。それから私を絶望させるって何をする気だったの?」
「分かりました。姉さんには今の仲間の状況を見せるつもりでした」
「そんなの見せたって無駄よ。今頃私を助けようと計画を立ててるでしょうね?」

 私の時と違って随分物分かりが良く、不気味なほどおとなしい。グレーテルの言葉を完全に信じてるらしく、怒りはすべて依頼主になる。
 ここに連れてくるまでは無事だと思うんだけれど、なんとかしないと殺されてしまいそう。

 グレーテルに何か考えがあるんだよね?
“もちろんです。だから安心して下さい”

 即答で答えられて一安心。

 ほんの少しだけぎゃふんと言わしたい気持ちはあるけれど、さすがに死んで欲しくはない。
 だけどこれに懲りて、今度こそ関わらないでいてくれたらな。
 私に絶望を味合わせるのは、そこまで気にしなくて良さそうだ。

「ですね。悔しいですけれど、姉さんの仲間は今の所信頼出来そうです。しかしいつどこで姉さんを騙すかも知れません」
「だったらその時あなたが出て来て懲らしめたら良いじゃない?」
「いいえ、我も姉さん達と行動を共にします。もし不穏な動きをしたら、その時は」

 うまい具合に厄介払いをしてくれたと思ったら、ヘンゼルは首を横に強く降り否定。余計ややっこしいことを言い出して、反乱の予感しかしなくなる。

 こいつは自分の立場を理解してるんだろうか?

「何言ってんの? 私を拉致した魔族と仲良くしてくれるはずないでしょ? 役人に付き出されるか倒されるかの二択だから、頃合いを見てとんずらしなさい」

 冷たい視線と口調で容赦なくあしらうけれど、ちゃんと逃げ道も助言する辺り優しさはあるみたい。それをヘンゼルはどう受け取るのか。

「我だって姉さん以外の人間とは、仲良くするつもりありません。やられたらやり返すだけです」

 うわぁこれ以上もないツンツン発言。しかも本心で最後の台詞が怖い。

「やられたらやり返すって、この場合非はすべてあなたにあるんじゃない?」
「うっ……、我は依頼主を探して連れてくる」

 するどい突っ込みにさすがのヘンゼルもぐうの音を出せず、気まずそうに話をそらしパッと消えてしまった。

「ヘンゼルの依頼主に心当たりがあるようだけど、どんな人なの?」
“私の婚約者にちょっかい出すから、厳しいことを言い続けたらプッツンしちゃった”
“朋子さん、その言い方はあまりにも乱暴だと思います”

 真実を答えはずなのに、復活したエミリーからお𠮟りを受ける。

 これ以上もない適切な説明は、そんな乱暴な言い方だったろうか?

「そう。じゃぁ元をただせば、他人の婚約者を独占しようとした依頼主が悪いのね」

 ばっさりと言い捨て、ヘンゼルが入れたお茶を優雅に飲む。

 ぶっちゃっけそうなんだけど、それを言ったらおしまいだ。
 私がちょっかい出したと言ったのが悪かったのか?


“グレーテルはシャーロットに何をするつもりですか?”
「乗り移るつもり。そしたらヘンゼルは下手に手を出せないでしょ?」
“まぁそれはそうですけれど、そんなこと出来るますの?”

 いとも簡単にやろうとしているけれど、たぶんそれは難しいことだと思う。しかもシャーロットが許可するはずがない。
 それともそうしないと殺されると言えば、無理やり押し切れると思っているとか?

「聖女様にお願いすれば、容易いことよ。いるんでしょ? 聖女様」

 駄目だ。何も考えていなかった。

 屈託のない笑顔を見せるグレーテルに、とてつもなく不安を抱く。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く

秋鷺 照
ファンタジー
 断罪イベント(?)のあった夜、シャルロッテは前世の記憶を取り戻し、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと知った。  ゲームシナリオは絶賛進行中。自分の死まで残り約1か月。  シャルロッテは1つの結論を出す。それすなわち、「私が強くなれば良い」。  目指すのは、誰も死なないハッピーエンド。そのために、剣を執って戦い抜く。 ※なろうにも投稿しています

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す

ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる! *三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。 (本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...