生みの親が悪役令嬢に転生!?~破滅ルートを回避するため、恋愛ゲームを辞めます。今日からアドベンチャー~

桜井吏南

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「ヘンゼル、正直に答えなさい。嘘をついたらお尻ぺんぺんするからね」

 ヘンゼルを見つけたグレーテルは喧嘩腰で言葉を投げかける。体がビクンと身体を震わせるけれど、なぜか涙して抱き寄せ強く抱きしめられた。

「主様、姉さんの記憶も蘇ったのですね」
「ごまかさない。私は怒っているの」

 感動の再会を演出するもグレーテルの通用せず、更なる怒りを買い殴り捨てる。それなのにヘンゼルは嬉しそうにしていて、ドン引きよりもこれがマゾなのだと感心してしまう。

「すみませんつい。我は姉さんに嘘なんてつきません」
「そう。じゃぁあなたはどうやって私を見つけたの? 私から呼び出すことは出来ても、逆は出来ないはずよね」
「今の我は世界を回りながら祟り屋をしてまして。先日魔法学園の女生徒に呪いの依頼を受けたのです。それが主様でした」

 正直に語り始めるけれど、それだけでもうお腹いっぱいになり愕然とする。言わなくても依頼主に察しがつく。

 そうか私はそこまで嫌われてたのか。
 一度は距離を縮められたと思ってたのに、その考えは甘かったんだ。地味にショック。

「祟り屋? そんなのすぐ辞めなさい。私があなたのその腐った根性をたたき直してあげる」

 あれだけヘンゼルの現状を話し逆なでしないでと言ったはずなのに、グレーテルは酷いことをさらりと言い叱る。
 そんなことを言ったらヘンゼルを逆上させ、さっきのように笑顔が氷つき殺気が──。
 
「確かに我の根性は腐ってますが、姉さんこそどうして人間を信じるんですか?」
「だって私は人間ですから。しかも今回は仲間が私をクード様の元に連れってくれるの。ここでの私はまだ裏切られてないの」

 ちょいちょい面白い台詞が混ざっているのは、無自覚で言っているのだろうか?
 まさかギャグギャラが中途半端に反映されて、こんなことになっている?

 本人達は至って真剣な口論なのに、笑いをこらえるのに必死だ。

「ではなぜ姉さんは覚醒されたのですか? 母体は婚約者から、婚約破棄されそうになんですよね?」

 情報が古いだけなのか、聞かされてないだけなのか分からない。でも依頼主からして、後者なんだろう。
 だから私が覚醒したのだから間違えではないけれど、今となっては完全な誤解である。

“それはもう解決済みです。朋子さんのおかげで今ではレオとうまくいってます”
「失礼なことを言わないで。今はラブラブよ」

 エミリーの主張をそのまま代弁せず。大げさに勝ち誇った笑みを浮かべ宣言する。
 言うまでもなくエミリーは赤面化し、意識を失くす。

「……。するとあの女が、我を騙したのですね?」
「そうなるわね。とにかくその依頼主を連れてきて。それから私を絶望させるって何をする気だったの?」
「分かりました。姉さんには今の仲間の状況を見せるつもりでした」
「そんなの見せたって無駄よ。今頃私を助けようと計画を立ててるでしょうね?」

 私の時と違って随分物分かりが良く、不気味なほどおとなしい。グレーテルの言葉を完全に信じてるらしく、怒りはすべて依頼主になる。
 ここに連れてくるまでは無事だと思うんだけれど、なんとかしないと殺されてしまいそう。

 グレーテルに何か考えがあるんだよね?
“もちろんです。だから安心して下さい”

 即答で答えられて一安心。

 ほんの少しだけぎゃふんと言わしたい気持ちはあるけれど、さすがに死んで欲しくはない。
 だけどこれに懲りて、今度こそ関わらないでいてくれたらな。
 私に絶望を味合わせるのは、そこまで気にしなくて良さそうだ。

「ですね。悔しいですけれど、姉さんの仲間は今の所信頼出来そうです。しかしいつどこで姉さんを騙すかも知れません」
「だったらその時あなたが出て来て懲らしめたら良いじゃない?」
「いいえ、我も姉さん達と行動を共にします。もし不穏な動きをしたら、その時は」

 うまい具合に厄介払いをしてくれたと思ったら、ヘンゼルは首を横に強く降り否定。余計ややっこしいことを言い出して、反乱の予感しかしなくなる。

 こいつは自分の立場を理解してるんだろうか?

「何言ってんの? 私を拉致した魔族と仲良くしてくれるはずないでしょ? 役人に付き出されるか倒されるかの二択だから、頃合いを見てとんずらしなさい」

 冷たい視線と口調で容赦なくあしらうけれど、ちゃんと逃げ道も助言する辺り優しさはあるみたい。それをヘンゼルはどう受け取るのか。

「我だって姉さん以外の人間とは、仲良くするつもりありません。やられたらやり返すだけです」

 うわぁこれ以上もないツンツン発言。しかも本心で最後の台詞が怖い。

「やられたらやり返すって、この場合非はすべてあなたにあるんじゃない?」
「うっ……、我は依頼主を探して連れてくる」

 するどい突っ込みにさすがのヘンゼルもぐうの音を出せず、気まずそうに話をそらしパッと消えてしまった。

「ヘンゼルの依頼主に心当たりがあるようだけど、どんな人なの?」
“私の婚約者にちょっかい出すから、厳しいことを言い続けたらプッツンしちゃった”
“朋子さん、その言い方はあまりにも乱暴だと思います”

 真実を答えはずなのに、復活したエミリーからお𠮟りを受ける。

 これ以上もない適切な説明は、そんな乱暴な言い方だったろうか?

「そう。じゃぁ元をただせば、他人の婚約者を独占しようとした依頼主が悪いのね」

 ばっさりと言い捨て、ヘンゼルが入れたお茶を優雅に飲む。

 ぶっちゃっけそうなんだけど、それを言ったらおしまいだ。
 私がちょっかい出したと言ったのが悪かったのか?


“グレーテルはシャーロットに何をするつもりですか?”
「乗り移るつもり。そしたらヘンゼルは下手に手を出せないでしょ?」
“まぁそれはそうですけれど、そんなこと出来るますの?”

 いとも簡単にやろうとしているけれど、たぶんそれは難しいことだと思う。しかもシャーロットが許可するはずがない。
 それともそうしないと殺されると言えば、無理やり押し切れると思っているとか?

「聖女様にお願いすれば、容易いことよ。いるんでしょ? 聖女様」

 駄目だ。何も考えていなかった。

 屈託のない笑顔を見せるグレーテルに、とてつもなく不安を抱く。

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