上 下
48 / 56

48

しおりを挟む
「あ、本当だ……」

 緊急事態なので魔法で眠りにつき、エミリーの手引きもあって心の奥底に行く。
 そしたら本当にグレーテルがいた。
 金髪で編み込みヘアー。小麦肌でそばかす。美人とは言えないけれど、可愛らしい女魔王になる前の少女の姿。
 目覚めたばかりのようで、首を傾げ私達を見つめてる。

「あなた達は、誰? ここはどこ?」
「私はエミリーでこちらは朋子。あなたは私達の中にいるのだけれど、言っている意味が分かります?」
「……そう言えば私世界を滅ぼそうとして、聖女と勇者に倒されて……」

 私が答える前にエミリーが丁寧に答えると、グレーテルは嫌なことを思い出し口をつぐむ。

 これはまずい状況なのでは?

「え~と私達は今とっても幸せなので、世界を滅ぼさないでくれませんか?」
「え、幸せなの? だったらどうして私は目覚めたんだろう?」
『はい?』

 グレーテルは凶悪で速攻世界を滅ぼすと言うと思ってたのに、なぜかキョトンと聞き直され戸惑っている。思ってもいない反応に私達は、不思議に思い間抜けな声を出す。

 それどういう意味?
 世界を滅ぼすのは?

「私は確かに二回世界に絶望しました。世界を滅ぼして女魔王になったのも事実ですが、最後は聖女様に救われ封印されることを受け入れました。だから私は決めたんです。聖女様の子孫がもし絶望し闇に堕ちた時は、私が目覚め再び世界を滅ぼすと」
『…………』

 聖女によって改心されてはいるものの、根は変わってないらしく余計な恩返し込み。恐怖のあまり開いた口が塞がらず。
 でもそう言うことだから、今目覚めたことに戸惑っていたんだ。そして台詞からして私達が幸せな今脅威がない。

「驚かせてごめんなさいね。あなた達? が幸せなら、何もしないわ」
「それなら良かった。ひょっとしてヘンゼルが接触してきたから、目覚めたりしたのかな?」
「ヘンゼルともう接触したの? 私が呼び寄せるまでまっててと約束したのに、どうして?」

 寝耳に水って感じだった。

「すでに覚醒したと思い込んでるみたい。今の私には仲間がいると言ったら、騙されてるって断言してね」
「私達に絶望を味合わせると言ってましたわ」

 やれやれとばかりに状況を二人で教える。

「どうして?」
「知らないよ。ただ人と何かあって怒りが更に増してるようだった」

 どうして私に理由を聞いてくる? 私だって聞きたい。

 そう思い薄情に即答しながらも、あくまでも可能性を話す。
 だったらその時合流するのではと聞かれれば、そうなんだよねとしか言うしかない。

「私達がクード神の所に行こうとしたから、勘違いしたのでは?」
「あ、それだ!!」

 エミリーが問題解決してくれる。

「クード様の居場所を知ってるんですか?」
「うん。グレーテルはクード神に再会すれば成仏できると思って、仲間達と行くはずがヘンゼルに拉致されてわけ」
「それは本当に申し訳ありません。私が何とかします。あの子は根は良い子なんです」

 すっかりグレーテルに気を許したのもありすべてを教えると、深々と謝罪されるもヘンゼルの肩を持つ。
 家臣以上の何かを感じる。この二人の過去はまだ決めてなかったから興味がある。

「グレーテルにとってヘンゼルは家臣なんだよね?」
「最終的にはそうなってしまったけど、ヘンゼルは弟よ。私は家族を十歳の時に戦争で亡くしたの。絶望して死のうとした時、同じく両親を亡くしたヘンゼルと出会った。それから二人で支え合いながら貧しくても幸せに暮らしていたのに、ある時ヘンゼルが魔族だと分かった途端私達は地獄をみることになった。今までよくしてくれた人々も見る目が変わり、悪いことなんてしてないのに聖都からは指名犯にされてね。その時前世の記憶が蘇って、ヘンゼルと悪魔の契約を交わし私は女魔王となった」

 私の問いに坦々と過去を話してくれた。 衝撃的な重い内容に、思わず息を飲み手に汗を握る。
 よくあるネタではあるけれど、だからと言ってふーんとはならない。
 エミリーは私以上にショッキングだったようで、悲しげで同情の眼差しグレーテルに向けている。

 だからグレーテルは女魔王となり、世界を滅ぼすことになった。ヘンゼルの言う通り、人間は平気で他人を裏切る。
 こんな話を告白されたら、同情するしかないよね?

「そうなんだね? ヘンゼルは一体どうしたら報われるのかな?」
「信頼出来る仲間の存在だと思います」
「そうだとは思う。でもあそこまで人間不信になっていると、そこに持っていくまでが一苦労なんだよね?」

 ヘンゼルさえなんとかすれば、私は生き延びられる。そう思った私はエミリーと打開策を考えるも、それは難題なのでどうすればいいか考え込んでしまう。

 フランダー教授ならヘンゼルを歓迎してくれるとは思うけれど、当の本人が受け入れてくれないと身も蓋もない。

「だったら一度私が話してみます。いろいろ確認したいことがあるから」
「そう? じゃぁお願いするね。くれぐれも逆なでしないでね」

 ここはグレーテルに任せることにした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)

転生悪役令嬢は婚約破棄で逆ハーに?!

アイリス
恋愛
公爵令嬢ブリジットは、ある日突然王太子に婚約破棄を言い渡された。 その瞬間、ここが前世でプレイした乙女ゲームの世界で、自分が火あぶりになる運命の悪役令嬢だと気付く。 絶対火あぶりは回避します! そのためには地味に田舎に引きこもって……って、どうして攻略対象が次々に求婚しに来るの?!

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

処理中です...