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 『輝きの丘』本社裏庭で友太先輩と鉄扇の最終調節を終え、リーダー達に所に戻る直後のことだった。

「なぁ、朋子。お前本当にレオが好きなのか? エミリーの気持ちが混ざってるとかじゃないのか?」
「えまぁそうかもしれませんが、エミリーは私なのでさほど問題はないかと思いますよ」

 いつにもなく真顔の友太先輩の核心を突かれた問いに、私は考え慎重になって答える。
 正直私自身の気持ちはよく分からないけれど、日に日に好きと言う感情が強くなっているのは確か。同期したら確実に好きになる。
 幸い私には好きな人がいないから、抗うことなく受け入れようと思う。

「好きなんだ。朋子のことがずーと前から」
「は、え~?」

 突然の信じられない告白に、耳を疑い裏声をあげてしまう。そのぐらい衝撃だった。

 友太先輩が私のことを好き?
 しかもずーと前からってどう言うこと?
 私に優しかったのは後輩だからじゃなかったの?

「いやマジ告白に、その反応はねぇだろう?」
「すみません。寝耳に水だったもんで」

 予想外の反応だったのか困った様子で反応をも止められるけれど、私だってどう受け止めて良いのか分からない。

 私は友太先輩が好きなのかな?

「それは見込みなしと言うことか?」
「一度よく考えてみます。待ってくれますか?」
「出来れば同期する前に、朋子の返事が聞きたいんだ」
「はい、分かりました」

 同期と言う言葉で、私なりに察した。
 これは恋人になりたいとかじゃなくって、前に進むためなんだ。答えが何であれ、朋子を過去の人にしようとしている。

 そうだよね?
 いくら前世の記憶持ちでも、朋子の人生はもう幕を閉じた。この人生はエミリーの物。本来ならば同期した時に私の記憶を消した方が──。

“そんなの駄目ですわ。私は朋子さんと生きて行くって決めたんです。もし私がまた踏み外しそうになった時、朋子さんが引き留めてくれないと困ります。それにヌクはずーと朋子さんを待ってたんですよ”
“はい、すみません。もう思いません”

 ついネガティヴ思考になっていると、エミリーが突然ぶち切れ。さすが元悪役令嬢で迫力が半端なく、反射的に脳内で謝罪してしまう。
 そしてヌクをチラ見をすれば、相当お怒りのようでギロリと睨んでいる。
 こちらもものすごく怖い。
 
「朋子、どうした?」
「いいえ、先にリーダー達の所に行ってますね」

 私を心配してくれる友太先輩にそれだけ言って、逃げるようにヌクを抱き上げ建物の中へと飛び込んだ。
 この流れだと友太先輩に事情を説明しても、私が怒られるだけだと思うから黙っておく。もちろん花音やリーダーにも。



「ヌク、ごめんなさい」
「本当だよ。ずーっと一緒にいようねって約束したのに、嘘つき!!」
「そうだよね? もう絶対に思わないから許してください」

 下手な言い訳なんかせず平謝り。ムクはプリプリと文句を言ってくるけれど、すべてが正論だったため再び平謝り。

 なんで私は消えようと思ったんだろう?
 しかも他人ごとのように冷静でいられた。
 そんなこと思ったらヌクが怒るって、冷静に考えなくても分かったはずなのに。
 
「だったら明日の午後はボクと二人でいっぱい遊んでね。花音ちゃんが来たから二人っきりなれてないでしょ?」
「そう言えばそうだったね。もちろんだよ」

 ようやくお許しのチャンスがもらえる。
 しかも可愛らしいお願いなので、反省中なのに笑みがこぼれてしまう。
 ヌクの言う通り二人っきりで遊んでない。レオと三人で言うのは増えたけれど、寮部屋も花音と相部屋だから一人の時間はお風呂ぐらいしかなかった。
 言われ私もヌクと二人で遊びたくなる。

「じゃぁ決まりだね。フリスビーやってお散歩したい」
「分かった。でも散歩の時はおしゃべりは現金だよ」
「うん。ボクここの犬についていっぱい勉強したから、犬らしく出来るよ」

 なんかおかしな張り切り方だけれど、言葉通りの意味なんだろう。
 今のヌクは使い魔であって、犬ではない。犬のふりをしてと頼んだのは私である。
 転生して二ヶ月ぐらいは経つけれど、そう言えばこの世界の犬って馴染みがない。
 ゲームにも出さなかったから設定もないから楽しみだ。


「お前本当に朋子なのか?」
「え、あ峰岸さん。ご無沙汰してます」

 聞き覚えのある声に声をかけられ、振り替えれば峰岸さんだった。ますます笑顔になり元気よく返事をする。

 友太先輩同様たくましくなり、なんとなくあか抜けた? ラノベの魔道士スタイルで肩には会いたかった雫ちゃんがちょっこり座っている。
 でもこれ以上ヌクを怒らせなくないから、今日のところは我慢我慢。

「本当だな。彩子と友太から詳しい事情は聞いてる」

 リーダーの呼び名が変わっている。
 峰岸さんの性格上構ったらへそを曲げるから言わないけれど、新鮮で良いなと思える。

「朋子様、初めまして。あたしは翼様の使い魔で雫と言います。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくね。雫ちゃん」

 ひょっこり立ち上がり、愛らしく会釈する雫ちゃん。
 声も仕草も何もかもがアニメ通りで私の心を射止めるけれど、なんとか耐えきり冷静に挨拶。

「ボクはヌク。朋子ちゃんの使い魔」
「それならあたしと同じだ。使い魔同士仲良くてね」

 喧嘩腰のヌクに雫ちゃんは屈託のない笑顔を浮かべ、手を掴み和気藹々と距離を詰めてくる。まさかの反応にヌクは難色を見せるも、どこか嬉しそうで尻尾が少し振れた。

「……うん。君は峰岸さんが好き?」
「もちろん。ご主人様が一番好き。ヌクはそうじゃないの?」
「そうなんだ。ボクも朋ちゃんとエミリーちゃんが大好きだよ。だから仲良くする」

 雫ちゃんの一番が峰岸さんと分かるなり警戒心が取れたようで、いつものヌクに戻り身を乗り出す。

 こんなことを言ったらダメだけど、単純すぎる。

「ありがとう。それじゃぁあっちでお互いのご主人様について語り合おうよ? いいですよねご主人様」
「ヌクが良ければいいぜ?」
「うん、語る!!」
「二人とも仲良くするんだよ。私達は社長室にいるから」

 ご主人様大好きと言う共通点を持つ二人だからこそ、ヌクの警戒心がなくなればすぐに意気投合。私達に確認を取ってから、仲良くどこかに行ってしまう。
 その姿はいとおかし。

「どうだ俺の雫は?」
「最高です!!」
「だろう? どうやら雫はヌクが気に入ったみたいだ。会話が成立する初めての使い魔だから、親近感を持ったんだな」
「ですね。ヌクにとってもそうだと思いますよ」

 ヌクと雫ちゃん。新たなる名コンビになることを期待する。
 仲良くなりすぎて離れたくないって言われたら困るけれど、お互いの一番は契約者だから多分大丈夫だろう。

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