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「!!」

 門から現れたのは、私の親友花音だった。門を潜り終えると扉は閉まる。
 何度も目を擦り女性を見返しても、姿は変わらず花音で間違いない。
 その花音と言えばおっかなびっくりに辺りを見回し、ゆっくりとこちらにやって来る。
 そして私達を顔見た瞬間、化け物を見たかのように顔の血の気がさっと引き固まってしまう。
 自分がデザインしたゲームキャラ達が動いてれば当然だ。
 ヌクは空気を読んでくれ、黙って花音の元に駆け寄る。

「成功だ」
「成功だじゃないですよ。聖女なんて召喚して、本当にどうするんですか? 帰す方法はもちろん知ってるんですよね?」
「ああ、そこは抜かりない。役目を終わった時、神が帰るか残るか選択してくるそうだ」
「──その役目ってなんなのですか? 私達の護衛?」
「…………」

 ボケとツッコミをテンポ良く交わした後、今度はそこまで考えていなかったのか言葉を失う。
 私の怒りは爆発寸前。拳を力の限り握りしめ、心を落ち着かせた。

「レオ、私から彼女に説明をいたしますから、このポンコツ教授を連れ席を外してくれませんか?」
「分かった。そうだな教授はポンコツだな」
「……本当にすまない。ここは君に任せて、後のことは私が責任を持ってどうにかする」

 勢い余って暴言を吐いてしまう。叱られると思いきやレオもそう思ったのか頷き、当本人もようやくことの重要さに気づく。シュンと小さくなり心底落ち込み、レオとこの場から退場してくれた。

 責任を取ってくれるのはいいけれど、一体何をどう取ってくれるんだろうか?


「朋子なの?」
「うん、そうだよ。花音、巻き込んでごめんね」

 ヌクが説明してくれていたおかげなのか、驚きつつも半信半疑で花音は私の名を呼ぶ。嬉しくて花音に駆け寄り、抱きしめ謝る。

 99%悪いのはフランダー教授で間違えないけれど、知らなかったとは言え原因となるスイッチを押したのは私だから0.1%くらいは責任あるかも?
 頼まれた時点、さっさとトンズラすれば良かった。
 
「朋子~!! 会いたかったよ」
「花音。私も会いたかった」

 ようやく花音に分かってもらえ強く抱き返され、ワンワンと号泣。私もつられて涙した。ヌクは嬉しそうに、私達の周りをくるくる回る。
 これは喜んだらいけないのに、やっぱ花音がいてくれると嬉しい。これからが心強い。

「花音、ごめんなさい。実はフランダー教授が興味本位で私を使って、異世界から聖女を召喚したんだ。その聖女が花音」
「え!? そんな設定『輝きの丘』にあったっけぇ?」 
「……初期設定」
「あ、そう言えば。でもそれって女子高生じゃなかった? 私もうアラサーだよ」

 まず突っ込む所は、そこですか?

「多分女子高生はカットされ──あれ? 花音なんだか若返ってない?」

 確証のない憶測をたてている途中で、そのことに気づき顔をまじまじと見つめる。

 なんとなく肌つやが良く、ハリもあるような気がする。
 私が前世で最後に見た花音とは、明らかに若返っている。

「え、それってつまり転移したら若返ったこと?」

 花音も私と同じオタクだからなのか、少しだけ戸惑いを見せるもすんなり受け入れられた。バッグから鏡を取り出し、顔をじっと見つめ頬を触る。
 若返ったことを実感すると、笑みを浮かべる。

「そう言うことになるね。実際リーダーなんて子供になって転移したみたいだし」
「リーダーがこっちにいるの? ひょっとして友太先輩と峰岸さんも?」
「うん。リーダーは十五年前、友太先輩は十年前。峰岸さんは五年前。峰岸さんにはまだ会ってないけど、三人とも元気だよ」

 順を追ってちゃんと説明しようと思っていたのに、つい先走ってしまい先に話すことになった。さすがにこれには驚かれる。
 これで初期の開発メンバーは、全員集合。ここまで来ればシャーロットの祟りで間違いない。

「そうなんだね。日本ではリーダーと友太先輩が行方不明。峰岸さんは私を含めた多くの人の目の前で、一瞬で消えたから大騒ぎだった。私は家の玄関の戸を開けたら、ここだった」

 私のことを一切触れていないのは、花音の気遣いなんだろう。

 リーダー達が行方不明となった日に私は死亡。他の三人は行方不明。
 しかも峰岸さんに関しては、目の前で消えたのだから大事件になっている。
 日本でも間違えなく呪われた乙女ゲームとして、ゲーム史に語り継がれるんだろう。
 普通の乙女ゲームだったはずなのに、なんでこんなことになったんだろうね?

 こうなったらリーダー達には戻って欲しい所だけれど、彼女達に戻る意思があるかは謎。三人それぞれ楽しんでいて、今やこの世界には必要な存在だからね。

「花音は日本に戻りたいよね。カッコいい彼氏がいるんだもんね」
「それがあいつ浮気してたの。しかも相手が妊娠したとかで責任取って、私と別れて結婚するんだって。あまりの最低さに怒りがこみ上げて、一発顔面パンチしてやったんだから。だからどっちでもいい」

 とんでもない修羅場があったようで、まさかのどっちでも良い発言。落ち込んでいるかと思えば、相当頭に来ているのか怒りに燃えている。
 とは言ってもどっちでもいいは、その場の勢いだろう。真に受けないでおこう。

「大変だったんだね。後でいくらでも愚痴を聞くよ」
「ボクがそこにいたら、お尻を噛みついてた」
「うん、たくさん聞いて。ヌクもありがとう。所で私はこれからどうすればいいの?」
「取り敢えずリーダー達が運営してる『輝きの丘商会』に行こう。連絡を取ればすぐ迎えに来てくれるはず」

 フランダー教授より頼りになるのは確実なため、そう言ってバックから通信機を取り出す。

 衣食住を確保出来れば、異世界だろうと生きていける。

『朋子、どうかしたか?』
「はい。花音が見つかったというか、聖女として召喚してしまいました」
『は、花音が聖女? 意味がまったく分からんが、友太と迎えに行く。どこに行けばいい?』
「街外れの発掘現場です」
『分かった。三十分以内で行く』

 リーダーはすぐに出てくれ、戸惑いながらもトントン拍子で話は決まる。

 そんな急いで来てくれなくても大丈夫なんだけれど、リーダーには十五年ぶりの再会なんだから無理もないか。獣人族だと言うのは黙っておこう。

「相変わらずだね。もしかして地球の技術を取り入れて、商売してるの?」
「まあね。友太先輩がモノづくり系のスキルを持ってるから」
「だったら怖いもんなしだね」

 言わなくても分かってくれ順応し、暢気なことを言って私達は笑い合った。

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