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しおりを挟む「フランダー教授、初めまして。私は特進科二年レオ・ビットハムと申します。教授が執筆した本はすべて読みました。論文も少々」
「まさか皇太子殿にも考古学の素晴らしさを理解してもらえるとは、この上ない光栄だな。サウザンドも含め来年度が楽しみだ」
レオのガチオタっぷりより、フランダー教授から期待されていたことには初耳で驚きだ。
私は生きるためこのプロジェクトに参加しただけで、実際考古学なんてそこまで興味がない。
三年から選択授業に考古学があるって知っていたけれど、今がいっぱいいっぱいで何を選択するかまでは考えていなかった。
そう言えば周囲には、考古学に興味があると言っていたような。期待されるのも当然か。
「ですからぜひ私も今進めているプロジェクトに参加させてください」
「それは構わないが、実際に現地に向かうメンバーは間に合っている。裏方でもいいだろうか?」
「すでに七人いますからね?」
皇太子の願いをバサッと断るのはフランダー教授だけだろう。ロッシュ先輩も渋い顔で理由を付け足す。
昔某ファンタジー系乙女ゲーがアニメ化したら、主人公+攻略対象計十五人での行動場面はかなり間抜けだった。ネット上でも話題になってたよね?
冷静に考えれば七人でも多いのに、レオ入れたら単純に八人じゃなく十人になる。
何より今日はいないシャーロットが加わるのはどうしても避けたい。
「だったらオレは裏方に回ってもいいんだぜ?」
「ほぉ単位はいらないと言うのだな?」
「すみません。冗談です」
一度は了承したはずのアーサーがいち早く譲ると言い出すけれど、フランダー教授の笑顔なのにきつい一言で速攻終了。不気味さを感じ背筋が凍る。
やっぱりこの人敵に回しちゃいけない人だ。
「いいえ。参加できるのであれば、裏方でも構いません」
「気に入った。では現状を説明しよう。私についてきなさい。ロッシュ、進めといてくれ」
「はい!!」
「分かりました」
レオは本気だった。
裏方なんて聞いたら怒って帰ると思いきや、それでも嬉しそうに頷き決意は固い様子。そんな答えにご満悦のフランダー教授は、レオの肩を組みそう言って研究室から飛び出して行く。
「レオ様のあんな姿初めて見ました。なんだか楽しそうですね」
「ええ、そうね。レオがここまで考古学が好きだと思わなかったわ」
「お嬢様も考古学が好きですし、ますますお似合いだと思います」
ここでも好きは確定され反応を困りながら、取り敢えず相打ちをうつ。
いろいろ訂正したいとこだけれど、ややっこしくなるからそのままでいいか。
好きと嫌いの二択であれば、好きと言えるし楽しいとも感じる。
「ありがとう。それよりロッシュ先輩、私達は何をすればいいのでしょうか?」
「今日は旅客船の予約」
『は?』
聞き間違えようがないまさかまさかの答えに、私達全員の声をハモらせ信じられない眼差しを向ける。
旅客船の予約って何?
そんなアホなミッションあるのか?
ロッシュ先輩もバグった?
旅客船は、神の監禁場所がある大陸までいく移動手段。
ゲームでは豪華客船のイメージをしていて、重要恋愛イベントが多数発生する大切な場所。
予約に関してはイベントがなく、時期が来れば自動に乗船していた。
「そんな目で見ないで欲しいな。これはすごく大事なことなんだよ。三等船室は発売三日目までなら入手可能なんだけど、人権を無視したと言っても過言ではない雑魚部屋。食事も最悪で船内での移動も限られている。五日もあそこで過ごすのは神経すり減る。帰りならまだしも……」
話しているうちに顔が見る見るうちに青ざめるロッシュ先輩に、これは本気で三等船室は駄目な奴だと理解した。
そんな所で五日も過ごすなんて、想像しただけで体も心も病みそう……。
「それでどこを予約すれば、良いのですか?」
「二等船室。三~四人用のグループ部屋がいい。料理は美味しく看板にも出られて快適なんだ。だから人気は高く、いつも発売数分で完売。予約方法は、三十分後の五時にここへ通信。支払いは『輝きの丘商会』がしてくれることになっている」
と言って、旅客船のパンフレットを見せてくれる。ゲーム以上の豪華客船で最早これは船上の遊園地。
豪華客船での旅は憧れの一つだったから、パンフレットを見ただけでテンションは爆上がり。
「分かりました。そう言うことなら私達の得意分野です。私が一等船室。ケイトが二等船室の四人部屋を取ればいいんですね」
「イヤ二等船室のグループ部屋を二室」
「冗談言わないで下さい。お嬢様はサウザンド王国の王女なのですよ。二等船室なんてありえません」
心強く胸を張ってケイトは宣言するんだけれど、思わぬ理解をされていた。ロッシュ先輩の言葉にもありえないと却下。
そんな気遣いいらないと思うも、あまりの迫力に押されてしまい何も言えなくなる。そもそもこの空気では、私に拒否権はなさそう。
思えば寮の部屋も王家専用特別室。だからあそこまで広い。双子の部屋だって貴族部屋でそれなりに広い。
「しかし一等船室は二等船室の十倍の値段ですよ。そこまで出してもらうのはさすがに……」
「そうですね? 私はグループ部屋でも構いませんよ。一度ぐらい普通を体験するのも良い経験だと思うので、今回は最初から最後まで皆様と合わせます」
驚愕の十倍の値段が双子の迫力より恐ろしくなり、頑張って普通でいいと主張。
パンフレットの値段を見れば恐ろしい値段になっていて、むしろ二等船室の値段もすごかった。
五泊で三食付きだから安い方かもだけれど、グループ用二室で私の安月給をちょい下回るぐらい。これが往復で、さらに地上での宿泊費と食費と汽車の往復。ざっと計算しただけでも、途方もない金額……。
冒険ってお金が掛かるんだね?
「お嬢様と私達が同室?」
「そうなるわね。いくら普通が良いと言っても異性との同室はないでしょう?」
「そうですよね? お嬢様と同室なんて夢のようです」
一度フリーズしてから喜ぶ双子のパターンはいい加減馴れたけれど、そんな反応されると嬉しくて笑顔がこぼれた。
ますます楽しみになってくる。
「あの~水を差すみたいで悪いんだが、オレは個室が良いんだ。自分で取って自腹するからさ」
「分かりました。任せます」
柄にもなく申し訳なさそうにアーサーがワガママみたいなことを言うも、これにはイヤな顔をせずアーサの意志を尊重するロッシュ先輩。
そう言えばアーサーも一応上流貴族。
相部屋なんてなったことなさそうだし、気の知れた相手でもないからイヤなのかな?
私も双子だから良いだけで、もしシャーロットだったら死ぬほどイヤ。
だからこれはワガママでもなんでもないのか……
「よっしゃ。これで船旅は一夜限りのアバンチュールを」
「いっぺん死んできなさい」
パチーン
ゲスでしかないぼやきが聞こえた瞬間、反射的に平手打ちを交わす。
一瞬でも同情した私が馬鹿だった。
アーサーとはそういう男だ。
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