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しおりを挟む「エミリー、なんでお前がここに?」
「知り合いに誘われて、夕食を食べに来ただけです」
リーダー達御用達の大衆食堂に行くと、そこにはレオとシャーロットがいた。
一応気を利かせているのか、お忍びスタイルである。
二人は私を見るなり心底驚き問うけれど、ついそうじゃないだろうボケをかましてしまう。
リーダー達に笑われるのは言うまでもない。
「いやそうではなく、なぜお前が大衆食堂なんだ?」
「それを言ったらレオもでしょ?」
かなり失礼な言い方で、店員から睨まれる。私もごもっともな問いを返す。
レオは意外に庶民的。唐揚げが好物。
「俺はシャーロットに連れてくてもらったんだ。なんでも俺が好きな唐揚げの種類が豊富だとか」
「あっそう。会長、友太さん。二人の邪魔をしたら申し訳ないので、奥の席に行きましょう?」
期待通りの回答にそれ以上興味もないから、話を終わらせ奥の席に行くことを提案する。
「そうだな。そうしよう。女将いつもの奴と、スペシャル定食とグレープジュースを頼む」
「あオレは煮魚定食と今日のお勧めに、ボルゲージ産の白ワイン」
「あいよ。今日は随分可愛いお嬢さんと一緒なんだね」
「この子はまぁあたしの妹分みたいなもんだな。エミリーって言うんだ」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
レオとシャーロットを無視して恰幅の良いおばさんと和気あいあいに話し、私も変な印象を持たれたくないので愛想良く会釈。
多分ここはリーダー達のなじみの店。
「それにしてここでシャーロット・レオペアに遭遇するとわな」
「レオのから無類の唐揚げ好きは有名ですからね? ひょっとしたらその内と来るかもと思ってましたが」
「そう言えばアンソロにシャーロットと美味しい唐揚げを求めて、定食屋巡りする話がありましたっけぇ?」
食事をしながら私達の会話のネタは、レオとシャーロットとのことだった。
二人は当然周囲にも聞こえないよう、最新の注意を払いながらのひそひそ話は大いに盛り上がる。
リーダー達とこうして心置きなく話せるのは、朋子に戻ったようでやっぱり楽しいな。お酒じゃなくってジュースなのが残念だけど。
「唐揚げ弁当を差し入れしたら、イチコロなんじゃないのか?」
「辞めてくださいよ。そんなことしたらシャーロットが般若となって襲ってきますよ」
「シャーロットが般若ね? ちょっと見てみたい気がする」
「じゃぁそうなったら、友太先輩が対処して下さいね」
好奇心でしかない無責任な言葉に、やけになってむちゃぶりを交わす。
もちろんそんなこと出来ないって分かっているけれど、せめて私の今どう言う状況なのか理解して欲しい。
破滅ルートは、まだ完全に回避出来ていないって。
「だけどエミリーはレオが好きなんだろう? その辺どう考えてる?」
「エミリーが目覚めて私と同期したら考えます。ですがシャーロットがレオの二股を許さない限り、私には勝算がないですけどね。悪役令嬢が主人公に勝てるはずがないですよ」
エミリーには悪いと思いつつ、これが私の本音だ。
悪役である以上どう頑張っても、主人公のかすみでしかない。たとえ本気の恋だとしても。
と言っても同期次第ではどうなるか分からない。私の意思が強ければ、死にたくないから失恋一択。
「確かにそれは言えてるな。まぁ二股なんて日本じゃ万死に値するんだが、ここはハーレムも許される世界なんだからワンチャンあるかもな」
「だな。しかしエミリーと朋子が違う相手を好きになったら、同期後どうなるんだ?」
「エミリー二股ルート?」
うわぁ~自分で即答しといていやだな。そのルート。
でも実際に私は教授を攻略しようとしてるから、結果的に二股ルートにすすんでる。
そう思ったら嫌気がさし、グレープジュースを飲みほす。
「悪役令嬢に相応しきエンディングだな」
「やっぱ二股ルートはなしにします。エミリーと同期するまで、恋愛はしません」
友太先輩の台詞が皮肉に聞こえたから、私は慌てて強く撤回。
今日はいろいろと良い進展があったためクリスタルが溶けていると感じた私は、ヌクに入ってもらい呼びかけてもらっている。きっとエミリーが目覚めるのは時間の問題。
さっさと同期してレオの想いが、どんなもんか確かめたい。
「そのエミリーと同期をしても、朋子は意識はなくならないんだよな?」
「そう聞いてます。今の私にエミリーの記憶が蘇るらしいです」
「だったら安心だな。おばちゃん、同じ奴追加」
「私も同じグレープジュースと、ぬか漬けセットをお願いします」
何やら恐ろしい予想をしてたらしく答えにやたらにホッとした後、ワインを飲み干し追加で注文。
私も一緒になっていつもの調子で注文すると、レオとシャーロットがこちらをガン見。信じられないと言う表情だった。
あまりのことに笑顔が引き攣る。
エミリーが大衆食堂でなじんでいるのがおか……しいよね? でもそれはレオも同じはず。
「まぁ御令嬢が庶民の味方ぬか漬けを声を高々に頼むんだから、驚くのは当然だろう」
「そうだな。しかもあの二人は店員を呼んで頼んでいるから品がいい」
言って二人は豪快に笑い出し、私はそっちかと思って反省する。
そうだった。
今の私は王女で皇太子の婚約者。エミリーは品が良く華があった。なのに私は日ごろの素行がよくないから、気が緩むとこうして墓穴を掘ってしまう。
性格はありのままでいいと思うけれど、品は今まで通り良くしないといけないよね? 同期したら完璧に身に着く物なんだろうか?
「令嬢って楽じゃないんですね?」
「そりゃぁそうだろう? でもそう言うのって身体が覚えているもんじゃないのか?」
「普段は大丈夫です。でも気を抜くと本性が出るみたいです」
「なるほどね」
「オレはありのままに朋子の方が好きだけどな」
私の愚痴になぜか友太先輩は見当違い? の返答をしてくるから、親身に捉えず軽く相槌を打ちこの場をやり過ごす。
朋子が品良くなったら、気味が悪いからありのままが良いって言うだけだよね?
友太先輩って、たまに言葉足らずだから困りもんだ。
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