生みの親が悪役令嬢に転生!?~破滅ルートを回避するため、恋愛ゲームを辞めます。今日からアドベンチャー~

桜井吏南

文字の大きさ
上 下
27 / 56

27

しおりを挟む
「サウザンドさん、こんにちは。君が一人なんて珍しいね?」
「ロッシュ先輩、こんにちは。ヌクは一時間ほどで戻ってきます。カイリとケイトは先約があるので今日は別行動です」
「そうなんだ。ヌクは珍しい使い魔だね?」
「え、そうなんですか?」

 時間を潰そうと図書室に行く途中、ロッシュ先輩に出会う。
 何気ない会話だったはずが、なんかヤバそうな空気になり身構えてしまう。

 使い魔って、みんなヌクみたいなもんじゃないの?
 そう言えばヌク以外の使い魔を見たことがないけれど、双子もクラスメイトも当たり前のように受け入れられたから特に何も思わなかった。
 ヌクはイレギュラー? どの辺が?

「普通の使い魔は主に忠実で、感情は基本ないからね。それに普段は主の中にいる。だけどヌクは感情豊かで、主以外と交流がある。使い魔と言うより、信頼している相棒に見える」
「ええ、私とヌクは相棒ですわ。そう言うのは、ありえないのですか?」
「凄腕の術者ならありえるよ。だから珍しいんだ」

 なんとか首の皮はまだ一枚繋がっているらしい。
 どのくらい珍しいのかはまだ分からないだけに、これからは外ではヌクを連れ出さない方が良いのかも?
 あ、だからエミリーは普段ヌクを表に出さなかったんだ。

「ヌクはペットとして誤魔化すのは可能ですか?」
「そうだね。しゃべらなければ、大丈夫だと思うよ。ヌクは犬に似ているから」
「それならこれからはそうします。教えていただきありがとうございます」

 ありがたき助言に、頭を深々と下げ感謝する。

 この世界でもペットと人間の言葉は異なる物。会話は本人同士のみ成立する。(多分……)
 つまりヌクには犬語でしゃべってもら……もらえるだろうか?
 
「どういたしまして。それじゃぁまた月曜日の放課後にね」
「はい」

 集まりは今の所毎週月・水となっている。これもまた何気ない挨拶で別れた。

 ……が、

 どうやら方向が同じで、別れられなかった。頬を赤らめ笑い合う。

「どちらに行くのですか?」
「図書室です」
「僕もだよ。だったら一緒に行きますか?」
「ですね」

 流れ的にそうなるのは必然的。





「エミリーちゃん、お待たせ」
「ヌク、おかえりなさい。その顔は思いっきり楽しめたみたいね」
「うん、すごく楽しめたよ」

 飛びっきりの笑顔のヌクが一目散に帰ってきて抱き上げると、どす黒い殺気をただ酔わせた何かもこちらにやってきた。

 こんなの感じたことがない。

「エミリー、そいつは誰だ?」
「え、レオ? 四年生のロッシュ先輩ですが、それが何か?」
「これはレオ様。初めまして」

 それは逆鱗中のレオで、図書室なのにテーブルをバンと叩く。
 瞬間司書さんに睨まれるけれど、相手が皇太子とその婚約者さっと視線をそらす。そして司書室へ引きこもってしまう。
 他の生徒達も次々に図書室から退場。ロッシュ先輩だけがキョトンとして、愛想良く手を差し出す。
 なかなかのチャレンジャーだ。

「エミリーと何をしてる?」
「何って勉強を見ていただけです。僕と彼女はとあるミッション仲間です。それでは僕はこれで退散します」
「教えていただきありがとうございます」

 そして大人の余裕の態度を見せ私達の元から去っていく。

 先輩って、こんな紳士キャラだったけぇ?

 呆気に取られそうになるも、我に返りレオを睨む。

「一体どういうつもりですか?」
「は俺達は婚約してるんだ。それなのに他の男と浮気か?」
「は、なにをおっしゃいますの? レオだってシャーロットと浮気してますよね? しかも私とは、婚約破棄するつもりなんですよね?」
「婚約破棄はしない。俺は二人と結婚する。それなら問題ないだろう?」 

 何を血迷ったことをこいつは言っている?
 ついこないだまで私のことを毛嫌いしていた癖に、今さら二人と結婚する? 両親に何か言われた?

「でしたら私もレオ以外の人とも結婚しても問題ないですよね」

 あまりにも身勝手に言い分に頭が来て顔面パンチしたかったけれど、そこはグッとこらえて私も重婚することを宣言した。
 相手が重婚しているのだから、私も重婚しても問題ない。
 冷静になればああ言えばこう言う子供の喧嘩かも知れないけど。

「うっ……」

 悔しそうに言葉を詰まらせ、何も言い返してこない。

 勝った。

「レオくん素直にならないと駄目だよ。レオくんは昔の元気いっぱいで優しかったエミリーちゃんが大好きなんでしょ?」
「え?」
「こら、ヌク余計なことを言わないでくれ」

 ありえないだろうヌクからの告白に、レオの顔は真っ赤に染まる。真実だと物語っていた。

 つまりレオはありのままのエミリーが好き? そしてシャーロットも?
 嬉しい気持ちになるけれど、どうしても腑に落ちなくて納得がいかない。
 やっぱりシャーロットのことがネック?

「それシャーロットにも言いましたか? レオは知ってますよね? 私がシャーロットを今までいじめまくってたことを。そんな相手と同じ立場になるのはいやでしょ?」

 自分で言ってて凹む。
 でも実際問題これだし。すでに二人の関係は修復不可能。

「それを言われると確かにだ。だったら説得して見せる。本当のエミリーは活発で心優しい女性だから、今話し合えば仲良くなれると」
「…………」

 えーとレオって単細胞のおバカさんだったけぇ?

 自信を持って言いきるレオの頭が心配になり、頭を押さえて大きなため息を付く。
 とてつもなくいやな予感がする。

 シャーロットの嫌がらせを、再び受けないといけないんだろうか?

「所であのロッシュ先輩が言っていることはなんなんだ?」
「人と恋愛と言う禁忌を犯し最果ての地に幽閉されてると言うクード神を探しに行くんです」
「エミリーは、考古学に興味があったんだな。実は俺もなんだ」
「え?」

 隠す必要もなく淡々と答えると、レオは目を輝かせ飛び付く。
 
 レオは続編の攻略対象になってなかったから、考古学に興味があるとかないとか特に触れてなかった。愛蔵版で追加になったとしたら、その時考えるつもりだったからな。
 初めて知って新鮮だ。

「ひょっとしてフランダー教授主催なのか?」
「そうよ。まさかレオも参加するって言い出すの?」
「ああ。エミリー、是非俺も混ぜてくれ」
「えあうん。なら月曜の放課後に……」

 断る理由が見つからず、イヤイヤながらで頷いてしまう。

 これでレオも着いてくる。
 そしたら多分シャーロットも自動的に……。

 この世界やっぱりバグり始めているよね?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く

秋鷺 照
ファンタジー
 断罪イベント(?)のあった夜、シャルロッテは前世の記憶を取り戻し、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと知った。  ゲームシナリオは絶賛進行中。自分の死まで残り約1か月。  シャルロッテは1つの結論を出す。それすなわち、「私が強くなれば良い」。  目指すのは、誰も死なないハッピーエンド。そのために、剣を執って戦い抜く。 ※なろうにも投稿しています

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す

ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる! *三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。 (本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...