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「ここだ。アポはさっき取っておいた」
「それはありがとうございます。え、『輝きの丘商会』?」

 約束通りフランダー教授に連れられと双子と共にやって来たのは、中世の街並みとは異なるどっちかと言えば近代的な建物だった。
 しかも良く見渡せばここ一帯がやけに近代的な街並み。今日初めて学園外近くの都市に訪れたから、案外これが普通かも知れない。
 だけど名前が違和感ありまくりの『輝きの丘商会』。ゲーム名だ。
 もちろんそんな設定作ったことがない。

「ここって『輝きの丘商会』の本部ですけれど、フランダー教授の知人の鍛冶職人って副社長だったりします?」
「ああ。彼は創設者の一人でね。変わり者で面白い知人だ」
「フランダー教授にそう言われるなんて、相当な人ですね」

 どうやら結構名の知れた商会らしく、双子は意外そうな表情をして興味深い会話をする。
 詳しく知りたくても有名だったら、根掘り葉掘り聞けば不審に思われそう。

 治安は戦争がなくモンスターには襲われる危険があっても、街の中であればそこそこ安全。技術はすべての人に魔力があるため、魔法と融合した物が主流。汽車や大型客船。通信機がある程度であまり発展していない。
 そんな大雑把な設定だけだったため、この世界の世界情勢は未知なる物と言っても過言ではない。
 だからこの際ちゃんと知っておきたい。
 技術はもちろん流行ファッションや食べ物や遊びなど。もちろん商会の名前の由来も。
 それにケイトの言うように、変人が言う変人の知人にも興味がある。

 類友的存在?

「ここだけの話彼は異世界からの転移者らしい」
「え、転移者?」
「そうだ。十年前、私の目の前に転移したと言っている。最初はかなり取り乱していて、私を神様呼びしていた。しばらく私の両親が面倒を見ていて同居してたが二年が経った頃、仲間を見つけその後『輝きの丘商会』を創設した」

 私には目からウロコの情報でも、それ言ったらダメだろうネタ。ドン引案件にフランダー教授には、内密な話が出来ないんだと強く思った。

 となると今朝と昼間の件は、誰かに暴露される可能性大?
 何それ、滅茶苦茶怖い。

「フランダー教授って案外口が軽いんですね? もしそれが本当なら、普通口止めされませんか?」

 私の思っているすべてを、カイリは冷ややかな視線を向けながら代弁してくれる。

「……あっ?」
「あっ、じゃねぇよ?」

 バシン
 
 フランダー教授らしくない間の抜け声を発した直後、背後から激しい突っ込みとスリッパで叩かれる。

 …………。
 コントみたくて面白い

「ユウタ、すまない。こればっかりは私が悪い」
「え、……友太?」

 素直に自分の非を認め申し訳なく謝罪するフランダー教授の台詞に、私は信じられず耳を疑い小声で呟く。
 前世ではありきたりな名前だけど、この世界では多分珍しい名前。
 それとも友太先輩がお遊びで、モブに自分の名前を付けた可能性がある。

「お前がちゃんと謝るなんて珍しいな? それで見てもらいたいと言う生徒は誰だ?」

 友太先輩だと思って聞くと声が似ている。口調もそっくりで……。

「彼女だ。魔法特進科二年のエミリー・サウザンド。武器をブーメランか鉄扇で迷っていてな」
『…………』

 ようやく紹介をされる。
 やっぱり友太先輩だった。
 ただ私にとっては昨日ぶりなのに、目の前の友太先輩は良い感じに歳を取っていた。しかもスマートで頼りなさそうだったのに、筋肉質でマッチョ感があるイケオヤジ。
 転移して十年で、いろいろな苦労があったんだろう?

「二人は知り合いなのか?」
「いいや。皇太子の婚約者が武器を所望するとは、珍しいなと思ったんだ」
「私はそう思われてると思って、失礼な人だなと幻滅してました」

 言ってて苦し紛れの理由だけれど、偉そうにごり押しをしてみる。
 何も知らない第三者が見れば、お互い言い方からして嫌な奴。
 そう思ったのは友太先輩も同じようで、気まずそうな表情を浮かべた。

「──彼女を借りるから、お前は応接室Aで待ってろ。それともそちらの双子も?」
「いいや。彼女達はスタンフィール姉妹でサウザウンドの付き添いだ。そっちは──」
「ボクはエミリーちゃんの使い魔だから、一緒に行ってもいいよね?」
「そうだな」

 そして話題を切り替えた友太先輩は、私とヌクを連れ一足先に建物の中へ。
 
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