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「エミリー、もう大丈夫なのか?」
「レオ? ええ、もう平気です」

 校門の前でレオに呼び止められた。驚きの中に喜びの声で振り向き言葉返せば、レオの表情が和らぎ安堵する。

 ? 
 まさか心配してくれた?
 嫌われているのに?

「それなら良かった。病み上がりなんだから、あまり無理をするなよ」

 今度は優しい台詞を言い残し、軽い足取りで正門に向かう。
 驚きすぎて何も言えず、その場に立ちつくす。
 それなのに胸の鼓動が高鳴り、心の奥が熱くなっていく。
 これではまるで恋する乙女だ。

「良かったですね。お嬢様」
「最近のレオ様は、お嬢様に優しいですよね?」

 複雑事情を知らない双子は目の前の状況を鵜呑みにしてしまい、ニコニコ笑顔で祝福される。

 まだ婚約破棄をされてないから、こうなるのが普通?
 だけどそれはありがた迷惑で、

「エミリー、おはよう。元気になって良かったわ」
「あ、シャーロットごきげんよう。あありがとう」

 とてつもない悪寒が走ったかと思えば、今度はシャーロットがやって来て挨拶をされる。心配してくれている台詞だったけれど、作り笑顔に恐怖を感じた。
 自分でもわかるぐらいの棒読み台詞に、笑顔を作ろうとしても表情筋が引き攣るだけ。

 関わりたくないんだから、ほっといてください。

「本当に改心したみたいね? でもレオを私から奪わないで」
「レオは物じゃないわ」
「!! そそうよね。レオはレオだもんね」
「ええ、そうよ。だからもしレオがあなたを選ぶのなら、年内には婚約破棄をするわ」

 今日のシャーロットは不気味なぐらい話が通じる上、気を利かしているのか周囲に聞こえないぐらい小声である。
 それでいてレオのことは、本気なんだってよく分かった。だから私がしてきたように、私を悪者にして排除しようとしている。
 もちろんいじめ過ぎた私を憎んでいるのもあるんだろう。
 でもシャーロットは根が優しい子だから、本当に悪役になりきれず中途半端の今がある。
 私としては応援したいと思うものの、私の本心は謎のままだから言えない。記憶がすべて蘇ってレオに恋心があったら、私は嘘つきで手に入れるため悪役令嬢に逆戻りするかも知れない。
 そうならないように、レオの気持ちを優先することにした。
 どうせレオはもうシャーロットだろうし、私からは特にアピールをするつもりはない。
 最近優しくなっているのは、少し気にはなるけれど。

「分かった。そう言うことなら、正々堂々と受けて立つわ。──それじゃぁね」

 何かが吹っ切れたのか晴れ晴れとした表情になり、清々とばかりに宣戦布告される。
 まるで悪役令嬢の台詞。

 …………。

「なんなんですか、あれ? と言うより何を話されていたんですか?」
「シャーロットはレオに本気らしいから、レオの判断に任せましょうとなったの」
「そうなんですね? ならオーランドとは、なんでもなかったんですね?」
「らしいわね?」

 私に対しての嫌がらせだったと言えば、ケイトが特にぶち切れ何しでかすか分からない。平穏に過ごしたいから当たり障りのない返答すると、頬を軽く赤らませ嬉しそうにするカイリ。
 可愛らしい。

「レオ様の判断ですか。皇太子であるレオ様が、何も後ろ盾のない平民との結婚が許されるんですかね?」
「皇太子の結婚は当事者同士だけではなく、外交の意味もありますからね。シャーロットが聖女と認められればまだしも、今のままではレオが廃嫡するか駆け落ちするしかないんじゃない? 良くって第二后」

 自分で言ってて、ひどいと思う。
 これじゃ勝つ自信があるから、あんな勝負を吹っ掛けた嫌な女。
 女魔王が覚醒しなければ、シャーロットは聖女候補のまま。いくらレオに認められたからと言っても、恋人にはなれても結婚は一筋縄ではいかない。

 無意識のうちに鷹を括っている?
 私はやっぱり悪役令嬢エミリーなのね。

「もし二人の間に真実の愛があれば、廃嫡でも駆け落ちでもすると思いますよ」
「カイリ、あんたはどっちの味方なの?」
「あ、出すぎた真似でした。申し訳ありません」

 恋する乙女の回答にケイトはムッとして意見すれば、カイリはたちまち小さくなって謝罪する。

 そうされるとなんか悲しくなります。
 ケイトが余計なこと言うから、カイリの気持ちを曲げている感じになってるんですけど。

「エミリーちゃんは、二人に本音を言って欲しいんだよ。それともカイリちゃんは、シャーロット推しなの?」
「いいえ。私は断じてお嬢様推しです」
「だったらそれでもエミリーちゃんを応援するで良いじゃない?」
『なるほど』

 双子には悟られない程度に落ち込む私の代弁を、ヌクは優しい口調でしてくれる。双子は同感なのか、ハッとして声をハモらせた。

 ヌク、ナイス!!

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