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しおりを挟む「カイリ、こう言うのは良くないことだと思うわ」
「お嬢様、何を言っているのですか? これはケイトの一大事なのですよ。姉として遠くから見守るのは、当然の義務です」
「それ絶対に意味が違うから。そもそも私は姉ではないので、帰らせていただきます」
カイリに半ば強引に連れられ、草むらからケイトの様子を伺うことになった私達。
しかしこれはどこから見ても野次馬でしかなく、ヌクを抱き上げそう言いこの場から去ろうとした。
カイリの言い分は妹思いだなと思うけれど、ケイトにしてみればありがた迷惑だろう。それなのカイリは、そんな私の腕を掴み涙目になり私を見つめる。
え?
何この子?
「そんな淋しいこと言わないで下さい。一人だと心細いんです」
「……しょうがないわね」
そんなこと必死に言われたら拒否出来ず、ため息をつき渋々としゃがむ。しかし頼られて内心嬉しいと思ってしまう私。
「エミリーちゃんは友人思いで優しいね?」
「はい。この数日のお嬢様は子供の頃の天真爛漫なお嬢様に戻ったみたいで、なんだかとっても嬉しいです」
返答に困るもので頬を赤く染め、視線を再びケイトに向ける。
やっぱりエミリーは天真爛漫な心優しい少女に戻りさえすれば、どうにかなるかも知れない。
レオと話して婚約破棄は卒業式まで待ってもらい、女魔王の魂を浄化させる。
それで両親に勘当されたとしても、ヌクと二人でたくましく生きていけるよう人生設計を立てなければ。
聖女になれる可能性は低そうだから、魔法を極めて冒険者になる? 魔法使いになるのは、子供の時の夢だったっけぇ?
「わざわざこんな所に呼び出してごめんなさい。ちょっと聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと? もしかして昨日シャーロットと一緒にいるのを見たのか?」
「……はい。それでその……」
オーランドが現れ当たり障りのない言葉を投げかけるケイトだったけれど、それだけですべてを察したのか気まずそうに本題を言い当てられる。突然のことに切り返しが出来ずしろともどろになるケイト。
オーランドには、明らかにやらかしたと言う自覚がある反応だ。
「あれはシャーロットに勉強を教えていただけなんだが、今思えばあれはないと我ながら思う。神に誓ってもいい。潔白だ」
浮気男のデンプレ台詞を吐きながら、ケイトをギュッと抱きしめた。あまりのことに目が点になり唖然となる。
オーランドがそんなチャラ男だなんて信じられない。
設定では攻略キャラでは一番背が高く、男気があって女心には皆無な青年だったはず。
チャラ男は勇者の末裔アーサーの方。女好きでナルチスト。周りにはいつも多くの女性がいる。
彼ルートになるとシャーロット一筋になるけれど、その後はチャラ男に戻って苦労する裏設定があるんだよね?
なのになのに、リアルではオーランドなの?
「信じてもいいですか?」
「もちろんだ。今度からは図書室とか教室でする。なんならケイトも一緒にしよう」
信じちゃダメなのに恋する乙女には難題らしく信じようとするし、何を思ったのかオーランドは意味不明なことを言いだす始末。
女心が分かっていないオーランドらしいと言えばオーランドらしいが。
「はい」
「だから“はい”じゃないわよ?」
「お嬢様?」
痺れを切らし思わず大声で突っ込みを入れると、ケイトとオーランドはビクッとなり私に注目。ヌクとカイリは深いため息を吐く。
こうなったら下手に誤魔化しても往生際が悪いだけだから、ここは開き直ってオーランドの本心がどうなのか暴くしかない。
「オーランド、本当にシャーロットをただのクラスメイトでしかないのならば、二度と二人だけにならないこと。もちろん両方愛しているのならば話は別。その時は二人に話して納得してもらえたら、ちゃんと二人と付き合いなさい。カイリを泣かせたら、私が許しません」
「私もです」
「ボクも。そうなったらおもいっきり噛みついてやる」
悪役令嬢らしくビシッと力ある言葉で言い捨て、オーランドを睨み付ける。
複数交際を認められてる以上、それに合わせての説教。
私の後ろでケイトは便乗。ヌクは前に出て威嚇。
これだけ警告すれば、なんらかの反応があるはず。
「エミリー様がそう言うなんて意外だな?」
「は、意外? カイリは私の大切な友人ですよ。チャラ男なんかに任せられません」
まさかの返しに、ますます頭に血が上る。
小バカにされているようで、ムカつく。
何、ひょっとしてリアルの攻略対象キャラ達は、全員性格品曲がってる?
「なんだ。エミリー様は友達思いの良い奴じゃないか」
「ななんですの?」
ホッとしたのか肩をなぜ降ろし、声を弾ませそう言いながら微笑んだ。これにはちょっと恐怖を覚え退いてしまう。
やっぱり逝かれてる?
「実は昨日シャーロットにエミリー様はカイリをメイドのように扱って、いつもこき使われて可愛そうだと言われたんだよ」
「え、なんで? 私達は歴としたエミリー様の侍女ですよ」
「それにそこまでこきは使われません。どっちかと言えば好きでやってます」
シャーロットが私の復讐を始めたそうです。
しかし双子は当然とばかりに受け入れるだけ。
ケイトの“そこまで”にはムッとするけれど、本人悪意があって言ったわけではないから堪える。それにエミリーがどうしてたかも分からないし。
「どうやら要らぬ心配だったんだな。シャーロットのことは本当になんとも思っていないんだ。オレは不器用だからアーサー先輩のように複数とは付き合う気はない」
「あれは例外だからほっときなさい。きっとそのうち痛い目を見るわ」
迷いのない言葉に熱意はちゃんと伝わったものの、まだ完全には信じられない方が良い。
なぜそこでアーサーが出てくるか分からないけれど、それは完全なるのろけ話でもあるんだよね?
複数とは付き合えないとは、ケイトだから付き合える。
そこは本音だと思う。
「エミリー様、ありがとうございます。まさかここまで親身になって考えてくれてるなんて、夢にも思いませんでした」
カイリは本当に嬉しそうに、涙まで浮かべた。
今日も信頼度はうなぎ登り。
「当然ですわ。それじゃぁ私達は消えるわね?」
「ですね? 安心したのでもう良いです。お嬢様、昼食にしましょ」
気分をよくしてそう言うと今度は素直に頷いてくれ、私達はカイリ達と別れた。
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