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「エミリー様の使い魔は、とっても愛らしくて賢い子なのですね?」 
「触っても良いですか?」
「ええ、もちろん。ヌク、皆さんにご挨拶を」
「うん。ボクはエミリーちゃんの使い魔のヌク。みんな仲良くしてね」
『『きゃー、可愛い!!!』』

 教室に入ると私の元に数人の女生徒がやって来て、ヌクについて聞かれる。愛らしく自己紹介するヌクに、彼女達の心を射止め黄色い声がクラス中に響き渡った。

 こんな形でクラスメイトと交流出来るとは思わなかったからびっくりだけれど、ヌクの可愛さは全世界共通なんだね。
 それに婚約破棄イベント前だから、エミリーはお姫様だからクラスで地位がある。こうしてクラスメイトと普通に話せるんだよね?
 だったら今からでも仲良くしてればなんとか……ならないか。
 地位と名誉がすべてのこのクラス。嫌われていても関係がない。どんなに人柄が良くても地位も名誉もなければハブられてしまう。
 なんだかイヤな予感がして反射的にクラスを見回すと、どうやらシャーロットはいないようなのでホッと一安心。

「ヌク、久しいな」
「レオくん!!」
「え?」

 そこへなぜかレオまで自ら駆け寄ってきて、笑顔でヌクに話しかけ感動の再会?を遂げる。
 意外すぎる場面に呆気に取られた。

「最近見かけないから、捨てられたと思って心配してたんだ」
「エミリーちゃんは、そんな酷いことしないよ。ボクはエミリーちゃんが大大大好き」
「そうですわ。ヌクは最高の私のパートナーですの」

 誰だってムッとなる台詞を素で吐かれるけれど、ヌクは冷たく反論し私に飛び移る。

 いくらエミリーを幻滅してても、それはないと思う。
 レオは一体エミリーもどんな目で見て……最悪な悪女でしたね。

「それはすまなかった。確かに二人はベストパートナーだったな」
「えわ分かってくれればいいんです。レオもまたヌクと遊びたいのであれば、おっしゃって下さい。ヌクが良いと言えば構いません」
「エミリーちゃんを悪口を言わないなら、ちょっとだけなら遊んでも良いよ」

 言い返されると思いきやシュンとなり言い直されるから、拍子抜けしてしまいついヌク次第で許可を出してしまった。ヌクもいくらか警戒し、そんな交換条件を出してレオの出方を伺っている。

 本当はレオよりシャーロットに会わせたくないんだけれど、こうなったらヌクを信じるしかないよね?
 ヌクはエミリーの全部を知っているから、何を言われても私から離れていかない。

「言わないと約束する。だから今日の放課後一時間だけ時間をくれないか?」
「いきなりですね? 今日の放課後はあいにく予定があるので無理です」
「そそうか。では明日は?」

 今日はやけに素直である。だからなのか可愛い。
 素のレオもエミリーと同じであれば、ちゃんと話し合えば和解できるかもしれない。
 私が今度話し合えばなんとかなるのかな?

「ヌク、どうします?」
「用事が出来なければ大丈夫だよ」

 うまい言い方だと思う。

「なら決まりだな。ならヌク、フリスビーで遊ぼう」
「うん!!」

 たちまちヌクの顔に笑顔が戻る。しっぽふりも全快だ。

 そうか。
 今のヌクは、フリスビー遊びが好きなんだ。だったら私もフリスビーの練習しよう。
 
「レオ様とヌクの戯れてる姿は尊いですわ。永遠に見てられます」
「ですね」
「そうだ。一限目は確か美術ですよね? モデルになってもらいましょう?」
「え?」

 良い感じで終わるかと思ったらそうは問屋が卸さない。
 これは悪役令嬢の定めなのか、よろしくない提案をされる。

「それはナイスアイデアですね」
「エミリー様よろしいですか?」
「オレからもお願いしたい」

 女性徒達のみならずレオにまでキラキラの眼差しで頼まれ、絶対に断れない状況に。
 ここで断ったら私の印象がますます悪くなる。

 これからダメ元で仲良くしようとしていたのに……。
 あっ、そうだ。
 追い込まれた私は悪魔のささやきが聞こえ、ニヤッと笑う。
 
 レオの耳元で誰にも聞こえないように囁く。

「でしたら私との婚約を破棄するつもりなら、もう少し公表するのを待ってください。そうなったら私は実家から勘当され学園を退学。私とヌクは路頭に迷ってしまいます」
「!! 了解した。いくらなんでもそれは後味が悪い。そうならないよう後で話をしよう」
「え、あはい。ありがとうございます。ヌクは大丈夫?」

 半分脅しだったのにレオはそこまで考えてなかったのか、親身になって心配され相談にも乗ってくれると言う。
 今日のレオは驚くほど良い奴だけど、逆に何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。

 真に受け鵜呑みにしても、大丈夫なんだろうか?
 それともこれはヌクの効果?

「うん。ボクモデルやる」
『ありがとうございます』

 やる気十分で、もう止まらない。
 こうしてヌクとレオのモデルは決まったのだった。

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