上 下
4 / 56

4

しおりを挟む
 エミリーになって三日目。シャーロットの復讐はまだ受けてない。
 今はとにかくシャーロットとレオの逆鱗に触れないように、おとなしく学業に専念している。
 今世の記憶がなくても知識や教養はあったため、私生活はまったくと言って良いほど苦労はまったくなかった。
 魔法を使うのを夢見ていたため、使えることが面白くってちょっとした私のブーム。今の状況を忘れさせてくれる。

 破滅ルートを回避するため思いついたのは、まずは孤立しないよう親しい友人を複数作ること。
 しかし現状友人候補は、侍女である双子カイリとケイトとだけ。エミリーにとっては唯一心許せる子達にはなっているけれど、彼女達はエミリーをどう思っているか特に決めていなかった。
 シナリオでは婚約破棄後家族から勘当されるとさっさと見限って離れていくから、本当は最初っからエミリーを嫌っている可能性がある。
 こんなことになるなら悪役令嬢じゃなく、主人公の親友枠にすれば良かった。
 と今更ながら、すごく後悔している。



「お嬢様、最近様子がおかしいですよ」
「え、私は至って普通ですけれども」
「でしたらどうして最近シャーロットをいじめないんですか?」

 昼下がりの双子とのティータイム。
 私を心配してくれるのはありがたいんだけれど、内容が内容だけに椅子からすべり落ちそうになる。なのに双子は真剣そのものだった。

「もう飽きただけよ。これからはあの子なんて相手にせず、聖女になるため勉学に励もうと思ったのです」
「お嬢様、本当にどうしちゃったのですか? そんなのらしくないです」
「そうですよ。このままあの世間知らずを野放しにしておけば、レオ様が毒牙に掛かり腑抜けになってしまいます」

 試しに双子の本質を探るべくまっとうになる宣言をしてみれば、信じられないと言わんとばかりに全否定。
 これですべてを察した。

 現段階では双子はエミリーを慕っているって確信が持てたけれど、果たしてそれでいいのかと疑問になる。
 双子も私と同じようにシャーロットに目を付けられたら、自業自得だとは言えあまりにも可哀想だ。
 そうならないように私がこの双子の根性をたたき直さなければ。
 そのためには

「レオのことはもういいの。それだけの男だったってことよ。シャーロットなんてもう相手にせず、私達は私達で学園生活を思う存分楽しみましょう?」
『…………』

 シャーロットから引き離すべく正論をぶっ込んだのに、双子は言葉をなくし私の顔をマジマジ見つめる。
 
 あれ?
 なんか私選択を間違えた?
 私との学園生活を送りたくない?
 やっぱり私はすでに孤立している?

「え~と。私はカイリとケイトと楽しい学園生活を送りたいの」

  最後の選択だと思って言葉を慎重に選び、ファイナルアンサー。
 これで駄目だったらどうしよう。

「おお嬢様が数年ぶりに私達の名前を呼んでくれた?」
「う嬉しいです。お嬢様がそこまで私達のことを思ってくれていたなんて感激です」

 今度の選択はどうやら正解だったようで、双子は大感激で大粒の涙を流し喜ぶ。

 エミリーは双子を日頃名前で呼ばれたことなかったの? だから名前で呼んだだけでこんなに喜ぶなんて、双子の友情はいびつなのかも?
 でもちょっとテコ入れをするだけで、どうにでもなりそう。

「何を言ってるんですか。ケイトとカイリは私の大切な友人よ」
『お嬢様、一生ついていきます』

 そう思った私は優しい口調で名前を強調して、とどめの一撃をお見舞いする。思った通り双子の心を完全射止めることに成功した。


「げっ、シャーロット? え、どういうこと?」

 双子との友情を深めようとショッピングに行こうと正門に向かう途中、運悪く騎士団長の息子オーランドの恋愛イベントに遭遇してしまう。
 でもそれは明らかにおかしい物で、目を疑い首をかしげる。
 だってその恋愛イベントは、個別ルートに分立後に発生するはずだから。
 この乙女ゲーには、逆ハーレムは採用してません。
 てっきりレオと恋仲だと思っていたんだけれど、そうじゃなかった。
 見つかる前に逃げなきゃいけないのに、二人から目が離せずにいる。
 イベント通り仲睦ましく勉強中の二人。

「は、あいつレオ様だけでなくオーランドまで手に掛けたの?」
「…………」
「カイリ?」

 例外もなくケイトは怪訝しく文句を言うけれど、カイリは顔が青ざめ絶句。身体を震わせ小さくなっている。

「……オーランドの嘘つき……。お嬢様、ごめんなさい」
「え、あちょっとカイリ?」

 蚊が泣くような絶望に似た小さな震えた声が呟き、私の手を振りほどきすごい勢いで寮の方へ行ってしまった。
  ケイトと一緒にポカーンとなる。

「ねぇケイト、カイリってひょっとしなくても、オーランドが好きだったりするの?」
「そうですね。私も初めて知りました」

 聞かなくても分かりきったことをあえて聞く。ケイトも私と同じく気づいていなかったのか、唖然とどこか他人ごとの答えだった。

 カイリの恋愛。
 リアルであれば当然なんだろうけれど、よりにもよって相手が攻略対象キャラ。しかもシャーロットの相手。相手が悪すぎる。

「ケイトも好きな人いるの?」
「え? そそんなのいるはずないですよ。私はお嬢様一筋です」

 興味本位で詮索してみれば、顔を真っ赤にさせ裏声で全否定。
 私に告白してくるけれど、あからさまな嘘だって分かる。
 むしろそれで誤魔化そうとするなんて万事千万。

「別に隠したいなら言わなくて良いけれど、カイリとはちゃんと話し合った方がいいわ。あなた達は仲よし双子でしょ?」
「お嬢様、ありがとうございます。そうですね? ちゃんと話してきます」

 本当は根掘り葉降り聞きたい。
 でも今はそれよりも双子の絆を深めるべきだと思い、ケイトに優しく助言して背中を押す。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。

hoo
恋愛
 ほぅ……(溜息)  前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。     ですのに、どういうことでございましょう。  現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。    皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。    ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。    ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。    そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。    さあ始めますわよ。    婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。       ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆     ヒロインサイドストーリー始めました  『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』  ↑ 統合しました

転生悪役令嬢は婚約破棄で逆ハーに?!

アイリス
恋愛
公爵令嬢ブリジットは、ある日突然王太子に婚約破棄を言い渡された。 その瞬間、ここが前世でプレイした乙女ゲームの世界で、自分が火あぶりになる運命の悪役令嬢だと気付く。 絶対火あぶりは回避します! そのためには地味に田舎に引きこもって……って、どうして攻略対象が次々に求婚しに来るの?!

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

処理中です...