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二十話
しおりを挟む扉の向こうには、ブラックタウンの中でも最も砂で覆われている寂れた町が続いていた。
人の気配は無く、風が吹くと黄砂が舞っている。
「ここからは慎重に。どこに警備隊のやつらがいるか分からないわ。見た目は変えてあるけれど、万が一って場合があるからね。見つからないに越したことはないわ」
エイミーは一度扉の外へ顔を出すと、辺りを確認しながらまずラビを外へ促した。
次にメロウが出ると、ユキは戸惑いながらも砂地を踏んだ。
振り返ると、グッドナイトが柔らかな表情でこちらを見つめていた。
「ユキ、おまえには自由に生きる権利がある。どんなに偉いやつでも、その権利を踏みにじり、利用したり、脅かすことは許されない。もし、この先事態が良い方向へ落ち着いたら・・・・その時は連絡をくれ」
この数年、ユキはグッドナイトを親のように、またグッドナイトはユキを娘のように思って暮らしてきた。
それでもその想いを、多く語れるほどの時間は残されていない。
「マスター・・・・いえ、サイモンおじさん。本当にありがとうございました。必ず、必ず、また」
ユキの左目から、スッと涙が零れた。
「さあ、早く」
心苦しそうに、エイミーはユキの肩を抱いて歩くよう促す。
「メロウ、頼んだ!頼んだ・・・・」
メロウが大きく会釈を返し、四人は黄砂の中へと小走りに消えて行った。
残されたグッドナイトを何度も振り返りながら、ユキは必死に前へ進む。
「本当は、ミスターグッドナイトにも一緒に来てもらうつもりでした。ですが・・・・」
歩きながら、沈黙を破るようにメロウが口を開いた。
「大丈夫です。分かっています。他国への移動のリスクも、二人と三人では違います。それに、ここでマスターまで消えたら、カフェにわたしが居たと言っているようなものですよね」
何か覚悟を決めたように、ユキは今までよりもつらつらと話し始める。
「もう、わたしのせいでサイモンおじさんを危ない事に巻き込むのは嫌です」
ユキの言葉に、エイミーが扇子で黄砂を避けつつ寄り添う。
「それは違うわ。あの人は、本当にあなたが大事なのよ。巻き込まれただなんて、これっぽっちも思ってない・・・・ことは、貴女も分かってるのよね」
ユキは唇をかみしめて頷いた。
ラビも袖で黄砂から庇いつつ、ユキを撫でた。
分かっていても、決別の覚悟のために口にした言葉。
もう巻き込まないと決めた。そう思うことで、前に進むために。
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